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【04】えっへんなのだ【06】


 小麦麺(パスタ)、割と好きだ。

 旅の途中は、あまり主食として食べて来なかった……というか、食べれる環境が無かったが、最近、食べて美味しさを実感している。


 特に、今日、出ているこの味付け、気に入った。

 挽肉と細かく刻まれた玉葱を葡萄酒とトマトを使って炒めたシンプルなソース。

 古都風(ボロネーゼ)のパスタというそうだ。


 素材の味が良く、なるほど、美味しい。

 ちなみに、ルキの手作り──という訳ではなく、ルキの術技(スキル)が作ってくれたものだ。

ルキの術技(スキル)は、無機物に命を与えている、と言ってもいいだろう。


 自立して動くフライパンや包丁、フライ返したち。

 家事の手間が一切なくて羨ましい限りだ。


 まぁ、一日中ずっと術技(スキル)発動しっぱなし、ってのは凄い努力の結果でもあるがな。


「ふふ。どうですか、勇者様。お口に合いましたかね」

 悪戯っぽくルキが言う。


「ああ。美味いよ」

「それはよかった」


「最高ッスー! レシピ知りたいッス!」

「簡単だから、後で教えるよ」

「やったッスー!」


「ポムはおかわりなのだー!」

「いや、食うの早ぇな!?」


「ふふ。おかわりはしっかりあるから、ゆっくり食べてね」

「ほんとッスか! じゃあおかわり!」

「お前も早ぇな!? ゆっくり食わないと喉詰まらせるぞ?」


「大丈夫なのだ! 美味しいものは喉には詰まらせ──ぐっふっ!」

「言ってる傍からっ! ほら、水飲め!」


 ポムの背中をとんとんする。

 くそ。騒がしい。静かに味わえねぇ。

 心なしか、ルキも楽しそうだからいいが。

 なんだか、昔の旅の途中みたいだな。

 昔もこんな感じで、騒がしかった。


◆ ◆ ◆


 そして、食後。


「そういえば、私まだ術技(スキル)無いんスけど、どうすれば会得出来るんスかね?」


 ルキの術技(スキル)が便利だ、という話の流れから、ハルルが不意にそんな質問をした。

「んー、そればかりは分からないな。毎日、訓練し続けたらある日突然目覚めるもので──」


「得意技能の一つが修練度(レベル)40で顕現可能だね」


 ルキの言葉に俺は、えっと声を上げた。


「え、何、レベル?」

「ああ。レベルだよ」


 なんだそれは。

 という顔をしていると、ああ、とルキが頷いた。


「そういえば、さっきの話で言ってたね。十年程俗世間と関わってないんだって? ボクより賢者らしい生き方だ」

「悪かったな」

「五、六年前かな。術技(スキル)の顕現条件、その一つを解明した天才少女がいてね。若干十歳で、技能と修練度(レベル)というシステムを見つけたんだよ」


「へぇ。凄いヤツがいたもんだな」

「えっへんなのだ」


 ポムが胸を張った。

 ……。


「お前か!?」

「そうなのだ! ポムが見つけたのだー! 

 と、言っても、術技(スキル)の顕現の一つの手段であって、他にも特殊な例もあるのだ。

 心的外傷から生まれることもあれば、他者からの譲渡、生命の危機、遺伝や風土、様々あってー」


「……ポム、お前、意外と頭いいんだな」

「なっ! 失礼なのだー!!」

「ふふ。まぁ、ともかく、今はギルドに備え付けの水晶で現在の技能のレベルが分かるようになってる。それを見て、自分がどんなスキルを身につけたいかで、訓練をする目安にすればいいさ」


「了解ッス!」

「……今の世の中、便利なんだな」


 俺、なんで今の迅雷(スキル)会得出来たんだろう。ちょっとしたミステリーだ。



◆ ◆ ◆



「王様の寝室みたいッス!」

 中央にあるベッドは、ハルルが大の字になっても端から端まで届かない。

 更には、隣で同じように両手を広げるポムッハを合わせても端に届かないという大きさだ。

 寝間着姿で、はしゃぐ二人。ハルルとポムッハの楽しげな様子を、車椅子の麗人、ルキは静かに微笑んで見つめていた。


「いやぁ、師匠もこの部屋で寝ればよかったのにー!」

「はは。ボクも気にしなかったが、流石に、ジンは嫌がっていたね。いや、照れていたのかな」

 ルキはにこりと笑って見せた。


 ボク、という一人称を使うが、そのすらっとした体系から見て取れるとおり、彼女は女性だ。

 話題に上がったジンという人物は、この白銀の髪の少女、ハルルの師匠であり、ルキの元仲間である。


「今更照れるような関係ではないんだけどね」

 昔は、魔物たちがいる地で野営をして夜を過ごしたからね。とルキは呟いた。


「そ、そそそ、そうなんスか?」

「ああ。ここよりも狭いテントの中で二人きりなどよくあった、よ」

「そ、そっそそそ、そうなんスねぇええ」

「ふふ。そうなんスよ、だね」

 悪戯口調でルキが微笑んで見せる。


「あ、ポム。すまないが」

「はーい!」

 ルキに呼ばれると、ポムッハは隣に来た。

 肩を貸してもらい、ルキはベッドに座る。


「義足、外すのだー?」

「そうだね。あ、やっぱり止そう」

「外さなくて平気なのだ?」

「ああ。生活用で外さなくても平気らしいし、試しに、今日は外さないで寝てみようか」

 ルキの右腕と両脚は、鋼鉄の義足だ。

 新しくなった義足と義手は、性能もよく、軽量化に優れ、一応、耐水性まである。

 まだ慣れていないが、これからはメンテナンスの時以外は外さなくて済みそうだ。とルキが話した。


 ベッドに腰掛け、ルキはハルルを見る。

「さて。ハルルは、ボクの話を聞きたかったんだっけ?」

「そうッス! 昔、その、師匠とどんな冒険をしてきたのか。もしよければ、と思いまして」

「そんな語れる程のことは無さそうだけどね。とはいえ、少し、ボクも昔話はしたいと思っていたんだ」


 ジンとルキは、今日、十年ぶりに再会した。

 偶然。それも、お互いが弟子を連れていて、なんだかそれが、ルキとしてはとても面白く思えた。

 尤も、ジンはハルルを弟子としては見ていないようだったが。


 ──ボクは、彼が弟子を持ちたくない理由も、たぶん知っている。だけども、彼がいない場所でそれをハルルに教えてしまうのは野暮だろうね。


「キミは、魔王討伐を果たした勇者ライヴェルグ。つまりジンの大ファンらしいから、そうだなぁ。大抵の偉業は知ってるだろうね」


「そうッスね! 自慢じゃないですが、世界で十六番目に詳しいと思うッス!」

「なんで十六番なのだー?」


 ごろごろと寝返りを打つポムッハがハルルの背中から声を掛けた。

 それはッスねー、とにやりと笑うハルル。


「ふふ。いや、流石、大ファンを自称するだけあるね。魔王討伐隊、《雷の翼》のメンバーの総数が十五人だからだろう? その次に、詳しいぞ、ということだね」

「そうッスー!」

 ルキは、ふふっと笑った。


 ──魔王討伐隊は、途中で三人、命を落としている。そして、二人が離脱。だから、雷の翼は十名と誤解されがちだ。


──下手をすると今時の教科書には、魔王討伐を果たしたのは九名、と書かれることもある。まぁ、討伐時に残っていた人数という意味では、間違っては無いか。


「では、寝物語に、あまり歴史に残っていないことでも語ろうかね」

 ルキが人差し指を紺色のカーテンに向けると、緩やかにカーテンが閉まる。

 枕元のカンテラの灯りも白色から、淡い橙色の灯りへ変わり、優しい夜の静けさが部屋を包んだ。


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