【15】ごめんね、強くてー【18】
◆ ◆ ◆
ギラギラ輝く鏡反射灯りで彩られた壇上の上。
顔面を一色の白塗り。強調された唇。目元に黒い刺青のような奇抜な顔装飾の数々──ド派手な赤い服を着た『道化師』。それが今の俺の姿である。
檀上の熱気は凄い。だが──会場の人の入りはまばらだ。
子供は多いがな。
王立中央サーカスは5つのブースがある。
簡単に分ければ、『団長のメインブース(中央サーカスのメインともいえる)』『団長のサブブース』『副団長のビッグブース』『副団長のサブブース』そして『フリーブース』である。
一番人気の団長直属メインブース。中央サーカスの一番の目玉だから当然だ。
一番不人気なのは、意外にも団長直属のサブブース。
つまり、俺らのいるブースだ。
一応、子供向けの演目を行うのが主軸だったようだだ……その辺りはフリーブースにお株を取られているそうだ。
人も少ないのもあり、おかげさまで緊張はしていない。
それに、ちょっと前に大舞台にも出たしな。
芸術の都で引き受けた演劇。それも『ライヴェルグ役』。
結構な量の衆人環視の中で、改悪された自分の黒歴史を演じるとかいう罰ゲームも裸足で逃げ出す苦行を潜り抜けたんだぜ。
ばっちり白塗りの別人化粧の道化師役。緊張など何一つ感じないな。
それに考えごとが止まらないから、緊張が薄れてくれているのかもしれない。
──『人造半人』。
ヴィオレッタ──もとい、サーカス用の源氏名は『ロレッタ』だったか?
ともかく、アイツが話したのはそんな胸糞の悪い内容だった。
奴らはその『人造半人』に襲われて、撃退したそうだ。それで大本がここと割り出し乗り込んだ──ら、スカウトされたらしい。
あらましを聞いた時、『お前ら、そんなものを作ろうとしていたのか』と、会話に力が入った。だがしかし、ヴィオレッタにとっても意に反する悪用だったらしい。
詳しくは話す気がないのかはぐらかされたが、ともかく、研究成果を盗んで悪用している黒幕をボコボコにするそうだ。
そして、ヴィオレッタから『人造半人』のことを聞き出したが──どうにも詳しい内容は秘匿された印象だ。
『人造半人』は、『術技を持たない人間』を改造する。
改造方法は秘密だそうだ。まぁでも人工半人というワードから推察するに、人間に違う種族の身体組織か能力を何らかの方法で融合するんだろう。
研究当時の鼠を使った『半人化の処置実験』の成功率は2割から3割。高い水準ではない為、人体実験を行う前に研究は封鎖したと、ヴィオレッタは言っていた。
──ヴィオレッタに聞いた話の難しい理論は置いておく。
とりあえず、話が聞けて良かった。
『増えた死体』『誘拐事件』『人造半人』。
おかげで『仮説』も出来た。だが、やることは一つ。
『このサーカス内にいる犯人を捕まえて、ボコボコにする』。
これに尽きる。
その為には、まずは与えられた仕事を完遂しよう。
今の俺の仕事は『道化師』。
道化師の仕事は、『場を繋ぐこと』。
一個前の演目『短剣曲芸』で壇上に散らかった短剣。それらを次の演者が使いやすいように片付け準備するまでの時間、およそ3分~5分。
次の演目は『ダンス』とのこと。
さて、ただ落ちてる短剣を拾っているなんて、観客からしたら詰まらない。
──場繋ぎ。その為に道化師がいる。
面白くという無茶ぶりだ。即興でやってこいってさ。
まぁ、だから昼にはジャグリングの練習をしていたんだけどな。
ナイフを拾い、空中に飛ばし、ジャグリング。
会場からおおっ! と声がする。少年少女たちが楽しそうだ。
ちょっと照れるが、嬉しいね。
3本ジャグリング。これくらいなら余裕だ。
練習の時は最大6本でジャグリング出来た。──絶景込みで、だけどな。
さて──このサーカス団の内部に犯人か犯行を手引きした人間がいる。
このブースが人気も少ないことから悪用されているのだろう。
犯人の洗い出しはどうすればいいか。魔王たちとも話したが、妙案は何も出なかった。
このステージが終わったら、団長に事情を説明して協力を──
──マジで余計なこと仕掛けに来ないでくれませんかね。
頭上。
黒いドレスに身を包んだ人形のような少女、ヴィオレッタが──おいおい。待て待て!
その手の大鎌は一体なんだ??? なんで全力で振り下ろすフォームを──ッ!
振り下ろされた大鎌を、ナイフで受け止める。
「ちょっと待て。お前はマジで何考えてるんだ」
「くすくす。私、凄くいいこと閃いちゃった。聞いて欲しい」
「控室でやろうな、そういうのはさっ」
「隠れた犯人を炙り出せばいいんだよね。つまり、このブースに居辛くすればいい訳だよね?」
「俺の声はお前に届いているか??」
「このブース。滅茶苦茶、人気にしよーよ。
そしたら、ここにいるの難しくなるんじゃないかな!」
──確かに、ここのブースが人気になったら、取引はやり辛くなるのか?
いや、逆に人が増えすぎて取引の温床になるんじゃ?
とりあえず。
「何にしても、いきなりすぎだ。一度、打合せ──ッ」
黒い弧刃が髪を掠める。
ヴィオレッタはくすくす笑う。
「ごめんごめん。私の攻撃、打合せしなきゃ、避けれられないよね」
「……あ?」
「ごめんね、強くてー」
……はぁ。煽って来るじゃん? そんな煽りに乗るような俺じゃない。
けどもまぁ。
大きな横薙ぎ。死神の鎌のようなそれはライトを受けて鈍く光る。
観客から息を呑む音が聞こえそうだ。
その一撃をバク転で避ける。──わっと声が上がった。
「盛り上がるみたいだし、ちょっとだけ付き合ってやるよ」
「素直じゃないなぁ、ジンは」




