【15】謎に向き合うジン【06】
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「す、スイートルームってすげぇ綺麗だな」
「そうだね。綺麗すぎるし広いし、少し落ち着かないが」
おいおい。お前の部屋の方が滅茶苦茶綺麗だし広かったろ。ツッコミ待ちか、ルキさん。
俺は今、ルキに今日の宿部屋に案内されていた。
「では、名探偵ジン隊長。是非とも推理を聞かせてもらおうか」
「あのさ。最近やたら謎だのなんだの持ってくるけども……別に俺、推理するのが好きとかじゃないんだけど……」
先ほど、俺は誘拐犯を捕まえた。
だが……どうしてあの妖精人の少女が誘拐されそうになったのか、それは謎だ。
あの犯人もプロみたいだし、そう容易くは口を割らないだろう。
「だけど、我らが隊長殿なら何かいい知見があるんじゃないかと思うんだよね」
改めて言うが、俺は探偵じゃなくて便利屋だ。前職はゴリゴリ前衛の勇者だ。
だから推理なんて高尚なことは出来ない。
「ルキ……お前また適当なことを」
車椅子に座ったルキは長い髪を掻き揚げて、ふふふと不敵に笑った。
「適当ではないよ。ジン。キミ、何か気になってることあるんだろ」
「な」
「キミのことなら大抵わかるさ。なので、ちょっと話して欲しくてね」
流石ルキ……図星だ。
確かに、気になることはあるにはあるんだが……。
まぁ、頭の中にあるだけじゃ仕方ない。話すだけ話すが……。
「まぁ漠然とした違和感だが……プロの暗殺者を雇って誘拐、ってなんか変だって思うんだよ」
「? 何が変なんだい?」
「いや、字の如くだよ。『暗殺者』は殺しをする専門。誘拐はしないんじゃねぇかな、と」
もちろん、暗殺の技術である変装・開錠・隠密行動の技術を買われて雇われたという可能性も無くはない。
それに、言っちゃえばただの誘拐だ。
「暗殺者を雇うより、ならず者を雇う方が安いんじゃないか。
野盗を雇う方が──なんでもない」
「……確かに、そうかもしれない」 ダジャレはスルーされてよかった。
「暗殺者を雇ったのは、誰かを暗殺する為、って考えるのが普通だよな」
ただ、まぁ。誰を暗殺するつもりだったかは今の状況じゃ分からない。
「なるほど。雇った暗殺者を誘拐に使ったのは」
「イレギュラーが発生し、本来予定していた暗殺の仕事ではなく誘拐を依頼した」
この仮定が正しかったのなら、ここで問題になって来るのは、『誰が雇ったか』ではない。
「誰を暗殺しようとしたのか、だよな」
「そうなるね」
順を追って考えていくと……いや、待てよ。
「そうだ。そもそも、あのアルヴの女の子……何を盗んだって言ってたっけ?」
「ああ、ラブトルくんの鞄と言っていたね。それと、衣服だったかな」
衣服……?
「いったん整理しよう。ややこしくなるから『暗殺者』を雇ったヤツを『黒幕』と名付ける。
で、この『黒幕』は、十中八九だが、アルヴの女の子に泥棒を命令していた奴と同一人物だろう」
「そうだろうね」
「黒幕の行動を仮で組み立てると──」
黒幕は、暗殺計画と少女の泥棒計画を練った。
少女には衣服を盗む計画を渡した。
しかし少女は泥棒の計画を失敗してしまい、捕まった。
焦った黒幕は暗殺計画に使う予定だった暗殺者を投入し、誘拐を試みる。
「って感じだよな」
「ふむ。……黒幕の行動が、なんか変だね」
「そうだな。……というかまず、そもそも、何で衣服を盗む計画なんかしたんだろうか」
それも、ルキやハルルの話だと、その場所にたくさん置きっぱなしになっていたという。
盗んでおいて放置、って変だよな。
「なんかその服の特徴とかはなかったのか?」
「んー、そうだ。特徴じゃないが、気がかりだったことがあるんだ」
「ん?」
ルキが腕を組む。
「あの現場にあった衣服……そのほとんどが成人男性向けの服だった気がするんだ」
「……ほう」
「まぁ、それを思い出したからと言って、犯人が男性の服を集めていたことくらいしか分からないんだけどね」
「いや……それは逆なんじゃないか?」
「え?」
「その現場に置かれていたってことは、つまり捨てられていたってことなんじゃないか?」
黒幕からの命令だとして、黒幕は必要な服は持って行くだろう。
「……男物……つまり大きいサイズの服は不要だったと」
「必要なのは、女物の……──」
その次の言葉を発言する前に、俺は思い出した。
とても嫌なことを思い出す。
写真で見た、その雪禍嶺での奇妙な出来事。
雪禍嶺の襲われた村で──死体が増えるという奇怪な出来事に遭遇した。
その死体は惨殺されていたが──少女だった。
「小さなサイズの、衣服」
いや、考えすぎか。
でも、衣服を集めるってことはつまり『衣服を買いに行けない状況』ってことだよな。
買わない、ということは、記憶や記録、証拠を残すことを避けている。
痕跡を残すことを極端に嫌う。それは『痕跡から姿がバレる』という裏返しなのではないだろうか。
──いや、可能性、というだけだ。だが、もしそうだとしたら。
ポケットの中の『スカイランナーの落とし物』を思い出す。
12本の杖のスカイランナー。『落とし物』。そして、『少女性愛の変質者パバトの存在』。
12本の杖と交流があれば、パバトがどういうヤバい奴かは必ず分かるはずだ。
少女を弄び殺す。……だから、パバトがいる場所に死体を捨てれば、『隠れ蓑』になる。
パバトが大量に殺した、となるだけ。
『ある人物が、魔族と繋がって、【理由があって】少女を殺しまくっている』。
そんな一本の整合性が、俺の頭の中に出来ていた。
いや、落ち着け。決めつけは早すぎる。
そもそも、【理由があって】の部分が空白のままだ。
何故、少女を殺しまくる? そこが分からん。
それに衣服だ。何で衣服が必要なんだ? 着せ替え遊びでもするつもりか?
それに暗殺者……。
駄目だ。もう一歩の所で何かが足りない。情報の破片が。
「ジン、どうした? 何か気付いたのか?」
「いや。……やっぱり分からないことが多すぎる。そもそも事件が繋がっているのかも分からん」
十中八九、という曖昧な物だけで繋げてるからな。
「ボクはね。正直、何か嫌な予感がするんだよね」
「そこは同意だ。だからさ──」
忘れてくれるな。
俺は、探偵じゃない。推理は苦手だ。
そもそもだが、それぞれの事件がどこまで繋がっているかは分からない。
だが、一本、繋がっているとしたら──。
「直接、聞いて来ようと思う。黒幕の可能性がある奴に」




