【04】じゃぁ異性として意識したりしてるのかな?【04】
湧き上がる湯気に、掛け流される白緑色の熱い湯。
風呂!
最高だな……こんな広い風呂、最高だ。
東の大国側では湯船に湯を溜める文化が無いと聞いたことがある。
シャワーだけで過ごすそうだ。
勿体ないとか、損してるとかを言う気はない。
ただ、この湯船に浸かった時の、なんとも言えない心地……世界中の人に味わってほしい。
ふはぁ……最高だ。
『せっかく来たんだし、一泊くらいしていけばいい』
日も暮れて、『そろそろお暇するよ』と告げた時、彼女──ルキから、そんな提案がされた。
流石に突然押しかけたのに悪い、と伝えたのだが、遠慮はするなと押し切られ、泊まることになった。
実際、泊まらせてくれてありがとう、だ。
こんな良い風呂があるとは……!
そういえば、魔王討伐の旅の途中で、俺たちは露天風呂なる文化に出会ったことがあったな。
外が見える風呂で、あの大自然との一体感……俺はかなり気に入っていた。
その時も一番食いついていたのはルキだったような気がする。
あいつ、あの後、凄く風呂の本とか集めて勉強していたし。
あの時から、家にデカい風呂付けるのを目標にしていたんだろうか。
そう思うと、少し面白いな。
ここは露天風呂ではないが、大きく張られた窓ガラスで、外の滝が見えるようになっている。
展望風呂、とでもいうべきか?
ちなみに魔法か何かの痕跡が見受けられるから、外からは見えないようになっているみたいだ。
滝を望みながら風呂。豪華だ。
肩まで浸かり、不意に天井の明かりを見上げる。
ルキは、少し、変わった。
昔は、もう少し棘っぽさ……冷たさがある奴だったが、今は随分と柔和に見える。
それと、欠損。か。
魔王に捥がれた右腕。
そして、戦闘時に受けた攻撃で、両脚が毒に侵されて、太腿から下を失ったそうだ。
俺の届け物は、義手と義足だった、という訳だ。
サイの知り合いに義手と義足を作る一流がいるらしい。
義手義足を見せてもらったが、緩衝装置やら魔力伝達装置やらが付けられており、少しの距離ならしっかりと歩ける代物だそうだ。
それに義手は、ルキの術技も合わせれば、ぎこちなくはあるが、動かせるようになったらしい。
さて、そろそろ、湯船から上が──扉が開いただと。
「お師匠様の風呂、やっぱりデッケーのだー!」
「おお、本当にデカいッスね!!」
「ふふ。自慢のお風呂場だからね。是非とも堪能していってね」
なっ。三人が入ってきた。
しまった。咄嗟に湯船の真ん中にある謎の岩の裏に隠れてしまったが、悪手だ。
今見つかっておけば、この後、スムーズにラッキースケベのみで逃げ切れたのに。
なんでだ。なんで。いや、あれ、そうか、最初に言われてたな。
『ボクたちが夕飯の買い出しをしてくるから、ジンは先にお風呂に入っておいてくれ。その後、ボクらも入るから。入ってる間は使用中の看板を出しておいてくれればいいから』
使用中の看板、出してなかったっ!!
俺のミスか。いや。どうするべきか。
お風呂場の出入り口は一ヶ所。
この貯水池みたいにデカい風呂の真ん中に岩があり、岩の裏側であるここは死角ではある。
だが、ポムとハルルがいる。あいつら、絶対こっち来るだろ。
滝が綺麗っスー! とか言いながら、あのガラスに張り付いてから振り返って俺と目が合うパターンだ。絶対そうだ。
迅雷を使うか。いや、水場だし、感電……というかまず充電が無い。
高速移動での脱出が不可能。こうなったら隠れ潜むのが最適か。
いや、違う。すぐに見つからないと隠れてみていた変態になる。
ここは颯爽と、『あ!? なんでお前ら入ってきてるんだよお!』のノリで押し切って──
「お師匠様、義手は外してきたけど、義足外さなくて大丈夫なのだ?」
「うん。義足でお風呂に入ってもいいとのことだよ」
「へぇ、義手の方は水濡れダメなんスか?」
「いいや。大丈夫らしいけど、気分的にね。前の義手は外していたから、その名残かな」
「そうなんスね~。あれ、でも、お風呂は一人で入られてるんス?」
「そうだよ。ポムが居た時はポムに手伝ってもらっていたけどね。一応、ボクの術技は使い勝手もいいし」
くそ。普通に会話が始まってしまった!!
どうする。いやもう隠れ続けるか。
そうだ。別に覗いてないし、セーフなんじゃないか! いや、ダメだな、アウトだな。
そうだ。今、手を上げて、すまない、俺いるんだ! 的なことを言って、隠してもらって横を通る。
これだ。これが完璧だ。
画的にはダメダメだが、それが一番健全&ノーリスク。
このまま万が一にもガールズトークが始まって、それを聞いてしまった後だと、もう言い出すとかは絶対に不可能。なら、今しか。
「そういえば、ハルル。キミは、ジンと一緒に暮らしてるとポムから聞いたんだが、そうなの?」
「え、い、いやぁ、居候、してましてッス」
「へぇ、じゃぁ異性として意識したりしてるのかな?」
普通に聞いたらダメな奴始まった!
「そ、それは──」
「ほうほう」
声が小さくて聞こえない……い、いや、聞きたいわけじゃないが。
というか、人の気持ちなんか聞かないのが吉だし、聞いた所で、その、まぁあれだ。色々だ。
『あなたを、好きなんですから』
以前、言われた言葉を思い出した。
同時に……あいつは、勇者の俺を好きだと言っていた。
憧れという意味だろう。憧れと恋愛感情は違うという。
……いや、別にあいつに好きになってほしいとか、あいつを好きか嫌いかじゃなくて。
「あれ、ジン! まだ入っていたのだ? お師匠様ぁ! ジン、みっけたのだー!」
「うぉおお!?」
しまった。驚きのあまりに声を出してしまった。
岩の上から声がした。振り返れば、一糸まとわぬポムが、大声を出していた。
「し、師匠!? ええ、な、なんで!?」
「おや。噂をすれば、だね。恥ずかしいね」
とりあえず、土下座で許してもらえますかね!




