【14】恋は人を狂わせる【13】
◆ ◆ ◆
悪巧みをするならどこでする?
ああ、そこの貴方、ちょっとした小話だから逃げないでってば。
ただ聞きたいだけなんだ。
あ、悪巧みとはあれね。犯罪計画とかの打合せのことだよ。
さて、貴方なら『どこ』を選ぶ?
路地裏の暗がり? 人気のない廃墟? 誰も寄り付かない深い森? ふむふむ。
真夜中の墓地? 使われていない倉庫? 暗い洞窟?
そうだね、人目の付かない場所を選ぶんだね。なるほど。
いいね! 貴方は最高だ。貴方には悪党のセンスがある。
さて、じゃぁ条件を付け加えてみよう。
今時期ならどこでやるかな?
世間様は祝日やお祭りを控えている為、人通りが多い、こういう時期さ。
因みに、こういう時期を『繁盛』と呼ぶ。
うんうん。さっきと変わらない場所を選んじゃう?
ああ、残念! それは最高じゃない。
でも大丈夫。それは知識で補えるさ。
覚えておいて。
世間が繁盛ってる時、裏路地や裏街は一気に警戒される。
勇者っていうのも無能な生き物じゃない。
彼らは悪党の考えをちゃんと分かって動いている。
自分も知らなかったけど、彼らの頭は飾りじゃない!
なんと脳味噌がちゃんと入っているんだ。
だから、勇者は、人が増えると悪党が増えるという原理を理解している。
それ故、繁盛ったら裏路地、裏町、人気のない場所は執拗にマークされる。
人が溢れた時に、悪党はコソコソ動くのをよく知っているのだ。
そして彼ら勇者は、我々より『変装』やら『気配消し』を上手く使ってくる。
悪党たちの血と汗と涙の結晶である犯罪計画を──ああまるで『諜報機関』の如くに。
さながら、海鳥たちが海面に出た魚を搔っ攫うかのように、悪党を捕獲っていく。
という訳で、改めて質問しよう。
世間様が『繁盛ってる時』、どこで犯罪計画を練るのが正解だと思う?
勿論、何種類も正解がある。
皆、それぞれに考えて悪行を行うようにね。
自分のはあくまで模範解答なだけ。
◇ ◇ ◇
「自分ならここ。素敵で可愛い喫茶店で行うんだよ」
街中を歩く彼。彼の隣を横切った誰もが振り返る。
彼はスラッと上背のあり、どこの貴族よりも貴族らしい上品な服の着こなし。
よく手入れされた皺のない服。目元を隠すような中折れ帽。
確かに顔立ちも良いその糸目の彼は、腕の中のそれを撫でる。
優しい微笑みで、腕の中には可愛いらしい金色の髪の球体関節人形を撫でていた。
「スヴィクは今日も可愛いなあ」
「もうっ! イクサにも構って欲しいのにっ! スヴィクにばかり構ってっ!」
「ごめんごめん。美味しいケーキを上げるから許してよ」
彼の隣を歩くのは、靴にまで届くほどのウェーブがかった長い金髪の少女だ。イクサと呼ばれているようだ。
少女を連れて、人形に話しかけながら、彼はその場所に来た。
王都中央にあるお洒落なカフェ『スターフロント』。
「王都女子に大人気なカフェで、ここのパンケーキが絶品なんだってさ」
(悪巧みをするなら、やはりここだね)
彼は鼻を鳴らした。
「パンケーキ! 食べたいっ! 分かりました『恋様』のこと許しますっ!」
恋様。そう呼ばれた彼は優しく微笑みながら店に入った。
いらっしゃいませ、何名様ですか?
5名です。あとで来ます。あ、パンケーキ五つで。
かしこまりました、こちらへどうぞ。
席に案内され、イクサはルンルンと鼻歌を歌う。
恋様とやらも席に着く──や、否や。
「へっくしょん……!」
くしゃみが一つ出た。隣に座った少女が目を丸くする。
「『恋様』っ! 大丈夫ですか! お風邪ですか! 今すぐに温かいモノをっ!」
「いや大丈夫だよ。きっと誰かが噂をしているんだろうね。……貴方たちかな、自分の噂をしていたのは」
後から来たのは──。
タンクトップに謎の金ネックレスとサングラスの男。
そして、花柄のシャツにバンダナを頭に巻いた男の怪しげな二人組。
「なっ!! 貴方たちっ! 第一装って伝えたじゃないですかっ!」
少女イクサが少し拳を握って怒鳴ると、後から来た男二人は困ったように顔を見つめ合った。
「俺たちこの服装でも結構しっかりフォーマル意識したんだぞ?? というか『海賊』にフォーマルなんて──ッ」
一閃、『恋』の手、その爪が男の頬を掠めた。
シュッという風を切る音ともに、男の頬から血が流れた。
「外で、貴方たちの職業を言わない」
「はっ、はい……」
「まぁら逆に自分はそういう格好で来ると思いましたよ」
「でも恋様、これじゃ目立ちますっ!」
恋様と呼ばれた彼は笑う。
「前に話した通り。繁盛ってる時は寧ろ少し目立つくらいの方が、逆に目立たないんだ」
「そう、なんですかね。恋さん。本当に目立ってないですかね」
「目立つけど、記憶に残らない。特に勇者の記憶にはね。
一見すれば派手だけど、派手な格好は覚えやすい。だから油断して皆覚えないんだよ」
恋という名を名乗る彼は、指を組んで、ずっと笑った顔のままだ。
糸目の奥の感情を、彼らは読み切れない。
ふと、机の上にパンケーキが四つ置かれた。
ふんだんに使われた生クリームと、姫火蜂の蜂蜜を混ぜた甘蜜が絶品。
そして、南方諸島から輸入された宝石のように色鮮やかな果物も乗っていて、見ていても心地が良い。
恋の隣に居る少女イクサは眼を爛々と輝かす。
「凄いっ! クリームが頭おかしいくらい盛られてるっ!!」
「イクサ。ゆっくり食べなよ」
いただきます! とイクサはナイフとフォークを使ってパンケーキを乱雑に切り分け始めた。
「で、恋さん。今回もまた、『人さらい』ですか?」
瞬間──ナイフが男の目の前に在った。
『恋』の手に握られたナイフが、男の目玉の前にある。
「格好は怪しまれなくても、会話は気を抜かない。
さっきの失言を合わせたら二度目だよ。三度目はどうなるか分からないけどね。
ともかく、せっかく暗号を事前に決めたんだから、暗号を使ってね」
ナイフがゆっくりと男の手前の皿に乗り、パンケーキが、バランスの悪い8:2くらいの割合に切られた。
「す、すみません」
男二人が竦んで、震えた。
恋は、瞼を閉じた笑みをずっと浮かべている。
笑っている。それが、逆に怖い。
「今回は、こちらの研究を行う為の素材を集めて欲しいんですよ」
「今回も獣人のデミですよね、了解ですぜ」
「いいや、今回は違う」
恋がそう言うと、少女イクサはパンケーキを切るのを止めて、大きなカバンから糸で止められた紙の束を取り出す。
渡された紙の束を海賊の男がペラペラとめくる。
「こ、このリストって」
「希望リストだよ」
「で、でも、これって」
「純粋な人族の少年少女を各十名。なるべく早く頼むよ」
「い、いや……人族って。これだと犯罪に」
「もう貴方たちは巻き込まれてるんだから、腹を括りなよ」
「……で、ですが、その。今までは王国法でギリギリ犯罪じゃ無かったじゃないですか。デミの売買ならギリ」
「格言ですが」「はァ???」
「恋は人を狂わせる」
その微笑みから出た言葉に、海賊二人は背筋を伸ばした。
「もう貴方達二人は狂ってしまった。自分……つまり、12本の杖が一人、恋と関わった時から。だから」
恋は杖を振る。二つ隣のテーブル席から皿が全部床に落ちた。
瞬間、喧騒がより大きくなった。それに合わせて。
「祭りに乗じて子供の誘拐。
やってくれますよね、二人とも」




