【14】お隣、いいッスか?【09】
◆ ◆ ◆
ハルルがティスという少女と大喧嘩したそうだ。
理由や、経緯などの一通りの説明を受けた。
結局、その泥棒の半人少女はギルドが保護しているそうだ。
泥棒をした経緯等はまだ明らかではないようだが……その辺りも明日には分かるだろう。
一番して欲しい説明の『なんで俺がハルルの身元引受人なんだ?』には誰も回答してくれなかったけども。
「仕事中だったんスよね。急いで来させてごめんなさいッス……」
「別に急いでなんて来てないがな」
「でも、土弄りの服装じゃないッスか」
──しまった。慌てて来たから雑草抜き装備のままだ。
「ふふ。ハルルが怪我をしたって聞いたから心配して慌てていたからね」
「馬鹿。慌ててない。ただ早く行くことにこしたことはないと思ってだな」
「えへへ。ありがとうございます、心配してくださって」
「別に……ああ、うん」
ティスという少女は先に解放され、もうギルドには居ないらしい。
「一言、挨拶をしておきたかったんだがな」
「何だい? 挨拶って胸倉を掴んで『うちのハルルによくしてくれたみたいだな、覚悟は出来ているか?』ってやつかい?」
冗談めかしてルキが笑った。
先ほど机に運ばれてきたばかりの、まだ湯気も出てるような熱々の揚物料理の盛り合わせからポテトをフォークで刺す。
揚物といえばやはりポテトだ。熱いうちが一番美味い。
ルキが喧嘩を仲裁してくれたらしい。
その礼も兼ねて、今は少し早い夕飯を一緒にしている。
「俺を何だと思ってるんだよ」
「昔のジンならやっていたんじゃないかと思うけどね」
そんな非常識だったか、俺???
それよりも──。
「どこか痛むのか?」
隣に座ったハルルに話しかける。
頬にでっかい絆創膏。額には包帯。左腕も包帯ぐるぐる。
大怪我には見えるが、昨今のハルルの怪我から見れば軽傷だ。
無骨折無火傷なら、まぁ及第点だろう。
ただ、ハルルは腹部に重たい打撲を貰ったと聞いている。
腹は急所だ。痛みが中々退かないこともある。
痛みが残っているんだろうか。
「え? いえ、そんなことはないッス! 全然、痛くないッスよー!」
「ならいいんだけど。お前、さっきから全然食ってないだろ」
「あ、いえ。考え事していただけッス! いただくッスー!」
ハルルは隣で笑顔を浮かべてから、皿の上の芋や肉巻きの揚物を美味しそうに食べていた。
ルキと目が合った。ルキは首をすくめてからグラスに入ったワインを転がして、口に含んだ。
「そうだ。ボクは今日、ギルドハウスに泊まることにしたよ。
キミらの家にお邪魔しようと思っていたんだがね」
「あ、そうなのか」
「ああ。雑魚寝も楽しいんだがね。
今日はポムもいないし、広々とした部屋で眠らせて貰おうと思ってね」
「あいあい。どうせ家は犬小屋ですよ」
「ふふふ。そう卑下はするなよ。犬小屋には犬小屋の良さがあるだろ?」
「犬小屋は否定しないのかよ」
笑い合いながら、談笑は続いた。
まだ夜も浅い時間に、俺たちは解散した。
◆ ◆ ◆
窓の外には、夕刻過ぎの空が見えた。
まだ青暗く光っていて、夜と夕方の中間。
帰りそびれた雲は暗く影のように空に張り付いて、その切れ間に星がこっそりと顔を出していた。
表通りの人通りも減っており、ぽつぽつと点在するガス灯だけが暇そうに灯っていた。
今日は、俺がベッドの日。ハルルは机を挟んで向こう側、布団に包まって──静かであった。
静かすぎる程。寝てる──いや、狸寝入りってやつだな。
寝たふりというか、寝ようと無理しているというか。
ハルルはずっと、元気が無かった。
ルキとの食事の時から、ずっと、俺には元気がないように見えていた。
ルキも気付いていたのかもしれない。
……どうして元気がないのか、どうしたらいいのか。
原因を聞き出して、解明し、打開案を提示する。
などという、高度なコミュニケーション力要求されても俺にはない。
ので。
「いつもより怪我が少なくて偉いな」
読もうと思って開いていた雑誌を開いたまま、俺は窓の外を見ながら声を出してみた。
「……そうッスかね」
「進歩だろ」
「えへへ。ありがとうございますッス」
暫くの沈黙が続いた。
雑誌を捲る。ああ、捲るだけだ。中身なんて見えてない。
ハルル。
「何か、あったか?」
直球で訊ねた。
「え? いえいえ! そんな、師匠に話すようなことは何もないッスよ!」
「……そうか」
「そう、ッスよ」
部屋が、静かだった。
静かすぎるくらいで。俺は指を組んだ。
「ハルル。……お前がそう言うなら、それでいい。隠したいなら、俺は暴かないよ」
「……師匠」
「ただ心配はしている」
「……はいッス」
「それと……まぁ、その、なんだ。……恥ずかしながら、俺には親しく何でも喋れる友達なんてものはいない」
「え、急にどうしました??」
「精々、ルキか、ナズクルか。後、何でも屋の糸目だけだ。交友関係は無いに等しい」
「人付き合いはした方がいいッスよ? 老後、孤独死しちゃうッスよ?」
「うるさいわ。まぁ……その、お前が思ってること喋っても俺から漏れることは無い。
お前が、何が辛いとか、痛いとか、キツイとか。
喋りたい弱音、隠したいこと、全部喋っても、俺は誰にも言わない」
言わないし、言えない。相手がいないからな。と笑って見せる。
「だから、もし喋りたくなったらいつでも喋ってくれ。お前の思ってることなら何でも聞くよ」
「……師匠」
「聞くことしかできないかもしれないけどな。それでも……ん?」
ハルルは立ち上がって俺の方を見ていた。
包まっていた布団を抱きしめながら、俺をまっすぐに見ていた。
「なんだよ?」
「あの」
「あ?」
「お隣、いいッスか?」
え?
お隣って……え?
ベッド、だけど……えっと。
ベッド、小さいし狭いから、隣座ると、もうなんかくっつくしかないッスけど。
あれ、俺ハルルみたいな喋りに。
あ、えっとー。えー。
「ど……どうぞ」




