【14】戦いの極意:ジンの技術【08】
◆ ◆ ◆
堅牢だ。この石土は、一撃では難しいだろう。
仕方ない。俺は戦いの為に──専用の武器を、そして防具を整えることにした。
英雄、剣を選ばず。なんて言葉があるが、それは誤りだと思う。持論だけどな。
強いヤツであればある程、普段使う道具や武器の手入れは怠らない。
今まで出会った奴らは皆そうだった。
魔族の幹部の『四翼』なんて自分たちしか使えないような独創的な武器を使っていた。
仲間もそう。《雷の翼》の奴らは武器を大切に使っていたし、いい武器を選ぶことに余念が無かった。
かくいう俺も、戦う相手に応じて武器種を変える程度には種類豊富に持ち歩いていた。
まぁ聖剣があれば大抵は何とかなっちゃうんだけどな。
ともかく、物を大切にする姿勢と、戦況に合わせる柔軟さは大切だと思う。
『戦いの極意とは──見極めること』。
戦況の把握。武器の選択。防具の選定。
魔物との戦いで怪我をせずに済み、魔族との戦いを有利に運び──魔王の討伐も果たす。
新品を手に入れた。
真新しい防具、そして武器を前に、俺は頷く。
そういや師匠にも『戦闘の最中で思考を止めるな』と叩き込まれた。
どんな相手との戦いでも、弱点を見つけること。
強敵との戦いでは、弱点を見つけることが最も大切なのは言わずもがな。
そして、相手が自分より実力がなかったとしても、それでも必ず弱点を見出し、最短の攻略法を見つける。
戦いの極意は、そういう一つ一つの積み重ねだ。
さて、では、その極意、実践しようか。
防具を被る。まずは頭部。人体の急所を万遍なく守る。
防具を付ける。手と腕の防御は大切だ。万が一、『誤爆』した時、これで防げる。
防具を履く。極力履きなれた物を、そして同時に色彩は暗澹色が理想だ。何故かって? 跳ね返った汚泥が目立ちにくいだろ。
最後に防具を着る。使い古された物が理想だ。機動力重視。この戦いが終わったら廃棄するが、それでも気密性は大切だ。
握る。この武器を。
見れば見る程、猛々しい衣装じゃないか。戦場における破壊の象徴。
突撃すれば敵の防衛陣地などいとも容易く打ち砕く『戦象』の意匠。
ふ──中々良い物を揃えてしまった。
「流石、何でも屋サイ……いい道具を揃えている」
では、挑むとする。強敵の排除。
「状況開始……ッ!」
じょろろろろ。
──『ゾウさんのじょうろ』で土に軽く水を撒く。
少し湿らせる。これが大切だ。本当なら雨が上がってから2・3日したあたりで行うのが一番理想なんだが。
辺り一帯に撒き終え、『ゾウさんのじょうろ』を置いて、少し間を置く。
乾いたら、腰を落とし、茎元を握る。土が小指に付くくらいしっかりと下を握り、まっすぐに引き上げる。
「見たかっ! これが『雑草取りの極意』! 根ごと引き抜きだ!! はっはっはー!」
はーーーー……。はぁ。真面目にやろう。
頭の防具は、長ツバの麦わら帽子。ネットを掛けて虫対策は万全。
手の防具は、布軍手。ズボンも服も捨ててもいい服。どちらも蜂対策で色は暗め。靴は履きやすいモノが推奨。
そうとも。ガチの草弄り装備だ。
理由あって家の裏の大家さんの雑草畑──もとい庭の雑草抜きをしている。
……いや、ごめん。変なテンションをしてしまって。
でも誰も見てないんだし、ちょっとテンション上げて行かないと持たないじゃん?
そうだ。昔、ある仕事をしたとき、先輩に教わった魔法がある。
大変で面倒な仕事の時にこそ、その魔法を使う。俺も習って使っている。詠唱は一言。
「ふぅ……! 楽しくて仕方がないぜ……!」
この言葉こそ、この世界で一番の大魔法だ。
辛い時にこそ、嘘でもそう言えば、どんな仕事でも乗り切れる。
テンション上げて行こう。それが辛い時こそ。今こそ!
「秘儀、連続垂直抜きっ!
経験上だが草が真っ直ぐ上に向かって生えてる草の根っこは真っ直ぐに伸びており、とても抜きやすい!」
しかしまぁ、雑草を抜く感じは嫌いじゃない。
「無駄な抵抗などするな。すべて駆逐してやるぜ」
掃除は苦手だ。だが、やり始めると完全に綺麗にしたくなるだろ?
「ははは、悪あがきを。固く根を張っても無駄さ。これで終わりだ」
一ヶ所ずつ綺麗になっていく。何か楽しいんだよね、これ。
「俺の後ろに不要な草は生えない。なんてな。ははー」
雑草の種類は複雑多種だ。
俺はまず抜きやすい『真っ直ぐ雑草(あだ名)』から手を付けている。
その後は、葉が広く開いた雑草。そして、デカい雑草。その次が地面を這う様な雑草だ。
「へぇ。順番に理由はあるのかい?」
「ああ。根の種類だ。広く広がった葉っぱは土の中で広く広がっている。
もちろん経験上なだけで違う種類もあるが、7・8割はこの経験則の通りで──ぁ」
長い髪は夜のような紫紺色。車椅子に座って微笑む女性。ルキ。
「やぁ。すまない。『随分と楽しそう』だったので、声を掛けるタイミングを失っていたよ」
「っくっ!! い、いつから見てたんだよっ! 趣味が悪いぞ!」
「戦いの極意とは──見極めることだ。の辺りから全部かな。
全部小声でぶつぶつ言葉にしていたよ」
はい。死にたーい。
「ったくっ。何しに来たんだよ。引っ越しの準備で山間の村に戻ったんじゃないのかよ」
「ああ、そのつもり、というかその途中で引き返してきた」
「何? 何かあったのか」
「実はね。ちょっとキミにご足労願おうと思ってね」
「ぁ? ご足労?? なんだ、俺、逮捕でもされるのか?」
「いや、身柄を拘束されているのはハルルでね」
「は??」
「実はね、ハルルが今日、パーティメンバーと喧嘩をしてね。それで怪我をしてしまって。
とりあえず、身元引受人であるキミが居ないとギルドから出られないそうでね」
な? え、何だと? 喧嘩?? 怪我???
「よくわからんがすぐ行く」
「そうだね。ギルドに向かいながら詳しいことは話そうか」




