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【14】嫌な予感は当たるものだ【01】


 ◆ ◆ ◆



 顔半分だけ暑い。ああカーテン……風でちょっと開いたのか。

 カーテンの隙間から日差しが差している。体をグイっと伸ばして、首だけでベッドの上を見る。

 ベッドの上は空っぽ。ハルルは朝からギルドに行ったようだ。

 俺は気の抜けた布団(ブランケット)を退かしながら欠伸交じりに起き上がる。


 ああ、我が家だ。まぁ持ち家じゃなく賃貸の安い二階建ての住宅棟(アパルトメント)だが。

 ここの一階に大家さんが住んでいて上の部屋は三部屋あるが、二部屋空き家である。何年も住んでいるが隣に人が入居したことは殆ど無い。まぁどうだっていいけどな。


 しかし、どうしてだろうか。

 自分の家で目を覚ましただけで、何だか懐かしい気持ちにすらなる。

 よくよく考えれば一ヶ月近くも家を空けていたのか。



 俺とハルルは交易都市に戻って来ている。



 何故かって? ちょっと紆余曲折あってあれだが……。

 簡単にまとめると、ナズクルと連絡が取れないんで家帰ろう、ってことになった。


 いやまぁ、雪禍嶺(せっかりょう)で魔王と接触したこと、流石にナズクルへ連絡しないとまずいよなぁってなったんだ。

 ただ連絡手段が無かったんで、一度、共和国領のクオンガに戻って荷物を回収した。

 その後、無線機の試作型である『耳飾型通話機(イヤリング・フォン)』でルキが代表で連絡をしてくれた。

 

 ──まぁ、この時点でちょっと嫌な予感はしてたんだ。

 ルキには少し悪い所がある。

 生い立ちから考えれば、仕方ない部分でもあるのだが……ルキは役人が嫌いなのだ。

 彼女は逃げるように暮らしていた森の魔女に育てられた。その魔女は国から追われ続けていたのだ。罪人ではなく、国の命令に反したらしい。

 記録上、俺と出会う前のルキは、何度も役人とは揉めていたとは聞いていた。

 ナズクルと馬が合わない根本の原因の一つなんじゃないかとも思うが、本人は別にそんなことはない、と言っていたが……。


 実際、ルキはもういい大人だ。

 嫌いな相手に対しても、いや、嫌いな相手だからこそ、丁寧に礼儀正しく接するのは基本のキである。


 通話の詳しいやり取りは聞こえなかったが、ルキは繋がった先の王国の中枢である参謀部と笑顔で話していた。

 しかし、次第に顔色が険しくなっていった。

 聞こえる話から推察するに、『ナズクルに繋いでくれ』という要求が『無理』とか『取り次げない』とかの一点張りで返されているんだろう。

 俗にいうお役所仕事をされて、じりじりと怒りが溜まっているのが見て取れた。

 んで、何を言われたのかは分からないが、ルキの表情がだいぶ冷たくなった。

 細い目でルキは『それほど忙しいならば、ナズクルの手が空いたら連絡させろ。』と吐き捨てるように言って通話を切ってしまった。

 あの瞬間のルキはマジで怖かったわ。


 まぁ、どうやらナズクルは王都周辺には居ないらしい。

 ルキがどこに行ったか聞いても答えられないとの回答しかなく、イライラしていたそうだ。

 ……しかし、困ったな。アイツに話があったんだが。



 それで、今後のことを考えて、俺もルキもお互い家に戻っておこうってことになった訳だ。



 今後のこと。

 ──そう。魔王は、復活していた。

 ただ、あの魔王が何をしたいのか。俺にはまだ何も分からない。


 しかし、備えは必要だ。ルキもそういう考えなのだろう。

 ルキはあのデカい家ごと交易都市の近くに引っ越すと言っていた。

 それは、今後に備えて、なのだろう。


 確かに、キナ臭い。

 魔王の復活、靄の少女ヴィオレッタ。

 そして、雪禍嶺(せっかりょう)の村での死体が増えていたこと。

 それと……俺が拾ったスカイランナーの落とし物。


 何に繋がるかは分からない。

 だが……やっぱりナズクルを捕まえて話すしかない。




 何かが、起こる前に。




 『コンコン』

 ノックの音が、転がった。

 ……この部屋をノックする人物は、数少ない。

 少しだけ神妙な面持ちで、俺はドアに近づいていく。


 嫌な予感は当たるものだ。


 そして。



 ◆ ◆ ◆



 交易都市の勇者ギルドハウスは騒がしい。

 いや、どこのギルドも騒がしい。

 考えなく乱雑に置かれた机に、昼間だというのに酒を飲んで笑い合う勇者方。


 ここを拠点とする勇者なら、机の『奪い方』は慣れた物だろうが、初めてここを利用する勇者は椅子取りゲームに参加できない。

 その為、新規利用者のほぼ全てがカウンターに座ることになる。


 そんなカウンター席を遠目に見ているのは金髪の少女だ。

 青い目、整った顔、長い金髪の剣士。彼女の名前はラブトル。

 8級勇者。まぁ駆け出しクラスの勇者である。


(だから、クエストに誘うなら、カウンター席の子が一番いい! んだけど……うう、みんな二人一組だなぁ……)


 ラブトルは今、パーティーメンバーを探していた。

 それは彼女自身の手違いによって、『行けないクエスト』を受注してしまったからだ。


 ともかく、あと一人、絶対に仲間が必要で。

 それで出来れば同じくらいの階級が理想。


(あ、あの級章(タグ)は、5級! うーん、ちょっと遠いけど……あの子、同い年くらいに見えるし……! ワンチャン!)


「あの、お一人ですか?」

 ラブトルはその少女に声を掛けた。

「はい?」


「その、実は四人じゃないといけないクエストを依頼してしまって。

一緒にクエストを受けてくれる人を探しているんです!

もしよければ、一緒にクエスト、行ってくれませんか!?

内容は非活性岩竜の討伐で、難度は七等級でして! 

あ、距離的には半日で終わるとは思うんですけど……夕方には戻ってこれます!」


 ラブトルが言うと、少女は、ふむ、と声を上げて時計を見た。

 彼女は暇をしていただけだった。

 それくらいの時間潰しなら丁度良かった。


 赤熱した一つ結いの髪の少女は、にこりと微笑む。


「いいでありますよ!」


「ほんと! ありがと! 私はラブトル! まだ8級勇者ですが、よろしくお願いします!」


「自分は、ティスであります。ティス・J・オールスター、階級は5級であります! 

何卒よろしくお願い申し上げるであります!」


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