【04】ジンの一番長い一日【02】
俺の【迅雷】には明確な弱点がある。
充電式なのだ。充電方法は日光。エコでクリーンなスキルだ。
充電を使い切ってしまったら、もちろん、効果が発動できなくなる。
つまり、長時間の使用──特に、長距離の移動には向いていない。
それに、昨日、結構な量の充電を無駄使いしてしまった。
移動時は、戦闘時の五倍近いスピードで充電を使ってしまう。
今日くらいの快晴なら、一時間も日光浴してれば、最大まで充電されるだろう。
まぁ、術技無しでも害竜二十匹くらいなら狩れるし、大丈夫だろう。
 
着地。
充電残量は、20%くらいか。
真っ直ぐ来て、20%弱使用。やはり移動は無駄に充電を食う。
『森の近くの町』と彫られた看板。
まぁ、目的地まで来れたし、後はゆっくり馬車で帰るとしようかね。
小さな町だ。町の周りには畑が多い。農業が盛んなのだろう。
どおりで空気が澄んでる。いや気のせいか?
とりあえず、目的の家を探さないと。
町の中央にある噴水広場から、少し離れた所にある、岩と水晶の家……?
いやいや。どんな家だ。そして、全然、分からん。
「すみません。この辺りにシルヴァさんのお宅があると伺ったんですが、ご存じじゃないでしょうか?」
麦わら帽子のおじさん二人組に話しかけた。
目の細い方のおじさんは、首を傾げる。
「シルヴァ? 聞かねぇ名前だな?」
「そうさなぁ。この辺りけ? お兄ちゃん、何かの配達員さんか?」
「まぁ、そんな感じです」
岩と水晶の家はないか、聞くと、ああ、とおじさん二人が目を見合わせて頷いた。
「兄ちゃん。それ、銀車輪の学者さんのことか」
あ。俺も、納得した。
この届け先の名前、この人の通り名なのか。
所謂、通称、という奴だ。
「ああ! じゃあ、兄ちゃん、運が悪いな……そん人、二ヶ月くらい前に引っ越しちまったんだよ」
「え、そうなんですか」
「んだんだ。なんでも、研究中の『なんだか』ってのの、新種? が出ただのなんだのでな。大慌てでなぁ。家ごと、行っちまったよ」
「なぁー、腰痛の薬もよぉーく効いてよ。凄い頼ってたんだがなぁ」
家ごと?
まさか転移魔法を使えるのか、その学者。
割と高位の術者だな。
「ちなみにどちらに引っ越されたとか聞いてますか?」
「えーっと。どこだったかなぁ」
「あー、確か、北の方の、そうだ、あれだ」
「「 山間の町だ! 」」
マジで言ってるの?
……何。結局、戻るのか。
俺は、ガクッと肩を落とした。
◆ ◆ ◆
「そ、それは、散々な目にあったッスね……」
乗り合い馬車の中、俺は事の顛末をくたびれながら話し終えた。
まぁ、こういう残念な日もある……。
無駄に体力消費して、無駄に行き来して。
結局、森の近くの町からこの馬車に戻るまで、無駄に一時間ほど駆け回っていたことになる。
「ジンの一番長い一日、なのだ?」
ポムが冗談めかせて言ってきた。
ははは。そうだな、なるほど。
0時を起点にしたら確かに盛りだくさんだったか……。
山賊を埋めて、行ったり来たりして、スキルの充電もゼロパーセント。
「確かに、長くて災難な一日だな……」
「ま、まぁ、でも! 結果的に、同じ方向でよかったッスね!」
「まぁ、それは、そうだな」
「それに、師匠も一緒なら、一安心ッス。さっきから、今日は山賊のパーティーでもあるのかってくらい、馬車が襲われましたから!」
嗾けた本人である俺は静かにしておく。
「次また山賊が襲ってきても、もう無敵ッス!」
「いやいや、山賊が来たとしても、手は出さないぞ」
そもそも、ハルルの為に残した山賊たちだしな。
ハルルが俺の返答に驚いたのか、フクロウみたいに目を丸くした。
「俺みたいな一般人をしっかり守ってくださいよ、勇者様」
とはいえ、もう場所的に、山間の町付近。
残念ながら、もう山賊は出ないだろう。
「わ、分かったッス。頑張るッス!」
ハルルが槍を握ってそう答えた。
戦いを乗り越えて、心なしか、頼りある感じに見える。
気のせいか? まぁ、ちゃんと戦闘経験は積めた筈だ。
それに、ハルルは、俺がいなくてもしっかり勇者していたみたいだ。
馬車が殆ど定刻通りに進めているのが、証拠。
ハルルは山賊の集団との戦いを、しっかり戦い抜いたようだ。
「おい、ハルル」
「はいッス?」
頬についた土だか鉄だかの汚れを親指で拭う。
軽装の皮鎧に傷跡。この汚れは攻撃を回避した時か。
それに、膝や腰に土の跡もある。その場に居なくても、ハルルの戦いぶりは、よくわかった。
「よく頑張ったな」
「え、えへへ。そ、そうッスかね」
頬を少し赤くして、大きな緑色の目が少しよそを向いた。
照れ隠しのように、はにかんだ微笑みをハルルは向けてきた。
◆ ◆ ◆
外の風景は、のどかなものでもう家や風車も見える。
数分の後、俺たちは山間の町に辿り着いた。
山から流れる清流がここを豊かな場所にしているのだろう。
町を守る柵の向こうは、煉瓦造りの美しい家が多かった。
そして、その町の奥。
「あれが師匠の家なのだ!」
「おおおお!」
「すげぇ。なんだありゃ」
巨大な滝がある。
そして、その滝壺の真上に、水晶と岩で造られた砦のような建造物が浮いている。
……ん。水晶と岩……あれ。まさか、俺の配達先も?
「ふっふっふー! お師匠様はこういう魔法も作り出す凄い人なのだ!」
「いやいや、凄すぎだろ……大魔法使い……いや、賢者クラスじゃねぇか」
「そうなのだ」
「え?」
「あ、二人にはまだ話してなかったのだ! ポムの師匠は、何を隠そう、あの魔王討伐隊《雷の翼》に所属していた、元賢者様なのだー!!」
ぁあ? ……なんだと?




