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【13】チェックアウト【09】


 ◆ ◆ ◆


「ね、ギルドマスターさん。私、そろそろ出ようと思う」

「え、ごめん、どういうこと?」


「自首、もう終わったからさ。ここから出して貰っていいかな?」


「あははー、そういうことねー! オッケー、チェックアウト一名! 

──とはならんだろ!?」


「チェックアウトは3名と3匹だよ?? 

ガーちゃん、オスちゃん、(せんせー)、ノア、シャル丸」


『4名と2匹だ。私は名にカウントしろ』

 鴉も(しし)もぎゃーぎゃー騒いでいる。こっちも名だぁ! とのこと。


「くすくす。ね。全員チェックアウトで」


「だから……ヴィオレッタ。ここ、旅館じゃないんだっての」

 ギルドマスターはゆっくりと立ち上がる。

 その手には豪奢な大剣。



「それに、ここが旅館だったとしても──

刑務期間(しゅくはくにってい)の変更は受け付けてないんだよね」



「くすくす──止めるつもり?」

「……だとしたら?」


 ヴィオレッタは手首をくるくると回す。

 すると靄が──最早術技(スキル)名を言わずに──形になり黒い剣が顕現する。

 それは、とても細身の剣。狼先生には見覚えがあった──あの勇者が使っていた剣に似ている。


 ガーも拳を握る。ぽきぽきとヴァネシオスは指を鳴らし、狼先生はやれやれとため息を吐く。

 わずかな緊張感。そして。

 剣はまっすぐに牢の外のギルドマスターへ向けられる。




「止めさせない」




 ふっ、とギルマスは笑い──





 ガチャり。





「7名様チェックアウトでーーーーす!!」

 鍵を開けて元気よくギルドマスターは言った。


「いいんだ!?」『いいのか!?』


「いやー、オジサンの力じゃ止められないよ。

現役だったのはもう何年前だと思ってんだよー。

それに、牢屋ぶっ壊されたら他の犯罪者収容出来ないし。

なら脱獄されたことにして見送るのが一番いいでしょ」


「くすくす。ありがとね、ギルマスさん」

「いやいや。今度は罪を償うつもりになってから来てくれ」

「んー。じゃあもう来ないかも」

「はっはー、だろうな」

 ぞろぞろと階段を上がっていく。

 ふぅ、とため息を吐いてから椅子に座り──牢の隣に居る眼鏡をかけた赤金髪の勇者を見る。


「君も早く行きなって」

「え?」


「いつまでも勇者の格好(ふり)してないでいいから、さっさと行きなよ。

君もヴィオレッタの仲間なんだろ?」


「……いつから気付いてたんですか?」

「さぁいつからだったかな。さっきかもしれん。

ほれ、お前がここに居たり捕まえようとしたらあの子がキレてギルドに襲い掛かって来るかもしれんから、早く行けっての」


「オジサン、意外と凄い人なんですね」

「お世辞はいいよ。でもオジサン、喜んじゃう」

 帽子を脱ぎ──ハッチは笑った。


「お騒がせしました。うちのレッタちゃんが」

「そーね。ほんとお騒がせだわ」

「じゃ、失礼します」

 階段を一歩ずつ上るハッチ。


「ああ、早く行けー。それと今度潜入する時はもうちょっと調べてから来なさいー」

「え?」

「ギルドの夜勤は、ギルド職員だけで──勇者に夜勤は無いんだなぁー。

その場合は夜間警護依頼中って扱いになるー。ま、それを夜勤っていう勇者もいるかもだけど」

 ハッチは驚いて振り返る。

 背中姿のギルドマスターは机の上に転がってる缶詰を開けて古びた針でパクパク何かを食べていた。

 その隙だらけの背中が、逆に少し恐ろしく──すぐに階段を上っていった。


 ギルドマスターは気の抜けた麦酒をかっ込み、タコの足を食べながら──ため息を吐いた。


「はっはー、ほんと。近頃の若いヤツって、ぜーんぜんよく分かんねーー!」



 ◆ ◆ ◆



 私は、知りたがりだ。

 ある意味、変な人間かもしれない。


 でも、無い? 好きな人や好きな物の名前を人物名鑑から『検索』したり辞書で『調べたり』とか。


 私はよくやってしまう。

 知りたい。その気持ちに理由は無くて。とにかく知りたくなる。


 だから、インタビューして色々知った。


 彼女の名前は、ヴィオレッタ。

 多分、偽名だ。年齢16歳。出身は北部らしい。

 目は紫色で髪は黒に緑が混ざった黒緑色。

 好きな色は深緑色。好きな食べ物は特にないけど甘い物を好む傾向あり。

 笑い方が『くすくす』笑い。だけど、これは本人による矯正。

 大笑いが下品だと教育されて育った? 良家・貴族の教育経験あり? でもそれにしては歪んだ言葉遣いだ?


 ◇ ◇ ◇


『カメラ好きなんだ──カメカメちゃんだね!』

『レンカ、という名前の方が短くていい気がするが……』

『レッタちゃんがニックネーム付けるのは友達の証だぜ』


 ◇ ◇ ◇


 友達にはニックネームを付ける。

 幼少期の傾向……幼少期は友達がいなかった?

 または友達を作ることが出来ない状況?

 他者との関わり方の距離感にある独特さ的に見て後者の可能性が高い。


 ◇ ◇ ◇


『目的? くすくす。秘密だよ』

『オレはレッタちゃんとずっと一緒に居ることが目的だぜ!』

(あたい)は最高の筋肉をつけることかしらね!』

『ヴァネシオス。お前、前に言ってたことと違くないか??』


 ◇ ◇ ◇


 目的は語られなかった。

 でも『秘密』ということは、言わないという決意があるということ。

 つまり──『固い決意』で行いたい『目的』があるということ。

 そして、その『目的』は十中八九、他者に受け入れられない。


 それから……。


 ◇ ◇ ◇


 家族構成を質問した。

『大姉ちゃんと小姉ちゃん、お兄ちゃんが一人だよ』

 どんな人たちなの、と聞くと──とても生き生きと、楽しそうに語り出してくれた。

 姉兄(かぞく)愛が非常に強い。もしかすると、異常な程に?

『大姉ちゃんもお兄ちゃんも冒険者で』

『活躍は手紙で色々知ってた。凄いんだよ。爪翼竜(ワイバーン)鵺竜(キメラドニク)を倒したりしてたんだって!』


 ◇ ◇ ◇


 姉と兄が冒険者──つまり勇者制度が始まる前の人たち。


 北部出身の姉弟の冒険者で、爪翼竜(ワイバーン)鵺竜(キメラドニク)を倒せる程の実力者?


 そう多くは無さそう。その上、もしかすると二人とも。


 気になる。知りたいかも。

 ……ちょっと、調べてみよう。明日の夜勤中にでも。




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