【13】やりすぎっしょ!!【06】
「天裂流。最初聞いた時は洒落者感が酷くて眩暈がしたが──」
「え、師匠の勇者日報によると『天裂流、天を斬り裂く一撃に擬えた剣技を見よ』って、超カッコいいモノとして書いてますけど?」
──俺の黒歴史が全て詰まった日報をハルルが所持している。
ああ、死にたい。いやあの日報、燃やしたい。
「……まぁ語源があるからさ。遥和の国の言葉を当てて、東文字ではこう、ね!」
天──己より高き者。強き者。そして権力のある者。
裂──それらを覆う分厚き外殻を裂り開き、白日の下に晒す。
「ほへぇ。しっかりとした意味があるんスね」
「ああ。そうだ」
「それで、その天裂流の『一針』が、師匠の師匠さん曰く」
「ああ、『犬でも出来る技』だそうだ。俺も最初そう言われて驚き半分怒り半分だったな」
「で、どういうこと何スか?」
「この技は『条件反射』。そして練習に『条件付け』という学習を使う」
「?? 条件反射ってあれですよね、えーっと。熱いモノを触ったら手をすぐ離す、みたいな?」
「ああ、それも条件反射だな。ただそれは無条件反射としておこう」
「無条件反射??」
「先天的に──まぁつまり、人間の体に備わった反射のことだな。
今回はそっちじゃなく、後付けの反射を行う」
条件反射で最も有名なのは、『ベル』と『犬』であろう。
犬にベルの音を聞かせる。犬に食事を出す。
ということを繰り返すことによって、犬はベルの音を聞いただけで食事が出ると思い涎を出して待つ──という物。
「『一針』は、相手が隙を晒した瞬間に『頭で考えるより早く』体が攻撃を繰り出す。さながら時計のように、歯車のように正確に。故に一針とも読む銘が与えられた技だ」
「なんか絶景よりかは簡単そうッスね」
「確かに原理は簡単だな。ただ一針は絶景と違って反復練習で覚える技だ。
お前の場合は突きだから、まずはどんな姿勢からでも『狙った場所』へ的確に当てる為の基礎の突き練習だな」
「はいッス! 基礎練頑張るッス!」
「その後に条件付け練習。
ある特定の動きをした相手に、条件反射で突きを出す練習だ。ま、まずは動体視力強化だな」
「はいッス!!」
「やる気満々でよろしいが、あれだぞ。多分、お前が思ってるより結構辛いからな?」
「そうなんスか?」
「ああ、そうだよ。まぁ、やれば分かるよ」
『一針』は、超極端に言えば──攻撃を体に覚えさせるだけの技だ。
言い換えれば、覚えさせる為に非常に詰まらない練習をしなければならない。
まず槍を持ってない状態から一瞬で構えて突く『構え突き』。
次にどんな体勢からでも無理矢理に突く『崩れ突き』。
この二つの突きを何十、何千、何万回行って、初めて自分の体に『突き』を落とし込める。
泥臭くやるしかこの技は覚えられない。
さて、まずは構え突きの練習から行こうかね。
やる気に満ちた目で、輝いている。
ハルルなら、大丈夫だろうな。
俺は少しだけ微笑んで、槍の構え方を──『口頭』で伝えた。
◆ ◆ ◆
──魔王討伐隊《雷の翼》は、とても若いメンバーで構成されていた。
ライヴェルグ16歳。サシャラ17歳。ルキ19歳。ナズクル27歳。……。
そんな若年層が多い中で、最年少の勇者は彼女だ。
サクヤ・アイシア13歳。
鬼人族の姫君。アルテミシアに次ぐ美少女であり、ルキに次ぐ高い魔力。
ラピスに次ぐ俊敏性と、ウィンに次ぐ射程距離を持つ。
……お気づきの通り、彼女は突出型ではなく、均等型。
13歳という若さで魔王討伐隊に抜擢され、『追加メンバー』として彼女は後加入したメンバーである。
追加メンバーに選ばれること自体がそもそも彼女の高い能力の証明のようなものだ。
だが、それでも『最強の勇者』たちの枠に入った時、彼女は自分の力不足を強く痛感していた。
そんな落ち込んだ彼女を支えたのは、隊長であるライヴェルグ。
《雷の翼》が出来て一年を経た頃だった。その頃は彼も多少は人と喋れるようになっていた。
誰よりも強くて、誰にでも優しい。
情には脆いが、常に冷静で、機転が利く。
僕の憧れの人。
夜通し未来のことを喋ったこともある。
一緒の布団に寝てドキドキしたこともある。
僕が恋した人。
ぎゅってされたことだってある。──攻撃から守って貰った時ね。
最後の決戦の時、一緒に居られなかった。
この戦いが終わったら──貴方に、伝えたいことがあるから。
っていう壮絶な死亡フラグを立てて四翼とかいう幹部と戦った。
勿論、幹部は倒した。でも、死にはしなかったけど、全力を出して倒れてた。
その後、目が覚めた時には……ライヴェルグ死亡と新聞の文字が目に映った。
彼が、居ない。
目の前が真っ暗になって……でも、生きていかなきゃいけなくて。
悲しみを原動力に、僕は鬼族の族長として平和を作っていこう。
そう思って、今日まで生きてきた。
けど。
B ・ S ・ S ! B ・ S ・ S !
B ・ S ・ S !
「Bー! Sー! Sー!」
「サクヤ。ちょっと五月蠅いぞ」
「これが、五月蠅くせずに、いられる!? うああああんっ!」
ルキはため息を吐きながら紅茶を飲む。
窓辺で顔を押さえているのは女性にしては背の高い女性──サクヤ・アイシア。
目鼻立ちがすっきりとし、顔立ちもいい。
麗人という表現が正しいのだが、行動は……若干、麗人という立ち振る舞いではないようだ。
「こういう奇行が無ければ美人なのだがね」
「奇行じゃないよおおお! これは正当な叫びだぁあああ」
「はいはい。流石、『前章全話』眠っていただけあって五月蠅いくらい元気が有り余ってるじゃないか」
「眠ってたくて眠ってた訳じゃないやいっ」
「ふふ。そういえば、そのBSSとは何だい?」
「知らないの? ふっ……『B:ぼくが』『S:さきに』『S:好きだったのに』!
の略だよおぉおお!! うわあぁああああん」
「ああそういう意味なのか。その言葉は知らなかったな。
キミがジンを好きなのはよく知っているよ」
「再会即、失恋女子とか、雪原にして荒野なんですけど……!!」
サクヤの独特な言い回しを聞き流して、ルキは悠々と外を眺める。
外ではジンがハルルに槍の突き方を口頭で指導しているのが見て取れた。
(ん──口頭? 何故だ? ……もしかして)
「ねぇ、ルキ姉……」
「ん? なんだい?」
サクヤは膝を付いて──車椅子のルキにぎゅっと抱き着いた。
強く強く──抱き締めていた。
そして、ぼろぼろと、大粒の涙を流している。
「よかった。……よかったね。隊長、生きてたよ」
「ああ……そうだな」
「死んじゃったって、聞いて……もう、ほんとに。ありえないって思って」
「……噂を頼りに探し回ったりもしたな」
「うんっ……良かった。……ほんとに、良かったッ……」
泣きじゃくるサクヤの頭をぽんぽんとルキは優しく撫でる。
「ぅぅ……なんで」
「うん?」
「なんで隊長、すぐに、僕らに、言わなかったんだぁぁっ!!」
「ああ、それな。ボクも思ったから、相当注意したよ」
「……僕はこれ以上言うなって?」
「いいや、逆だ」
「逆?」
「嫌味、超絶、言ってやれ。どれほどこちらを心配させたか……!
都合で姿を晦ますことになったのは、やむを得ないとはいえ……」
「十年音信不通は、やりすぎっしょ!!」
「その通り」
ルキは笑う。サクヤも笑った。
「よーし、この後、散々、言ってやろーっと! に、ひ。にひひ!!」
涙をボロボロと出しながら、サクヤは最高にあどけない笑顔で笑っていた。




