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【13】牢獄でも地獄でも一緒に行くから【03】




「ギルマス! 大変です!」

 先ほどの眼鏡の勇者がまた声を荒げた。

 少年? 少女? 声質でどちらとも分からない中性的な声だ。

 流行の(ハンチング)帽子をまぶかに被った勇者が階段を降りてきた。


「今度は何? 酔っ払いの次は万引きでも出た?」

「そんな感じです。お店の飯を盗んだ猫と鴉と犬が、ギルドの中で大暴れをしまして……」


「マジか……。誰か動物使役魔法(ビーストテイム)出来る奴いないの?」

「あ、いえ! 実はもう既に確保してます!」


「マジ? 君、仕事出来るね! 夜勤? 昼に移動しなよ」

「あ、あはは。とりあえず、連れてきて大丈夫ですか?

「上に繋いである感じ?」

「ええ、そうです」


 眼鏡の勇者は大急ぎで階段を上り、両手に『羽の生えてない猫』と『白い鴉』を抱きしめて降りてきた。

 その後ろに首輪の付いた『白い犬』を連れている。

 ギルマスは小首を傾げた。


「そういえば、檻とか上に常備してなかったっけ? 

ほら、前任の馬鹿領主がさ、王鴉(オオガラス)捕獲用に」


「無かったと思いますけど。じゃぁ探すんで、この子たち預かってください」

 鴉はぐるぐる唸り、猫はしゃぁしゃぁ声を上げ、白い犬はため息を吐いていた。

 ギルマスは仕方ない、と呟いた。



「よーし、面倒だー、牢屋にぶち込めー」



 『羽の生えていない猫』、『何故か白い鴉』、そして『同じく白い犬』が投獄された。


「どんどん賑やかになるねぇ。くすくす」

「何だか悪いね、ヴィオレッタ。こんなに騒がしいのは珍しいんだ」

「くすくす。ううん。私は慣れてるからいいよ」

「ん? どういう意味だ?」


「あ。ギルマス。大変です! また逮捕者ですっ!」

「今度は何っ! デカいオカマが勇者でも襲ったか!?」

「大正解です!」

「マジかよッ!!」


「まだ襲ってないわよッ! 声を掛けただけで捕まったわッ! 横暴よ!」

 ピンク髪に、上半身裸で星型のニップルシールを付けた筋骨隆々のオカマ。

 (かのじょ)は、その腕と腰に紐が巻かれており、歩き難そうにしながら階段を降りてくる。


「……──見ただけでヤバさを感じる。投獄しよう」

「はい! 了解です!!」


「ちょっとッ! 真面目に取り調べなさいよッ! テンポが速いわッ!」


 数秒も待たずに、(かのじょ)は投獄された。


「ひっどい勇者っ!! (あたい)の手配書見て、もっと畏れ慄いてよっ! 

懸賞金の金額凄いんだからねっ!!?」

 眼鏡の勇者が机の上の手配書(ビンゴ)を確認する。

 赤金の髪を掻き揚げながら、あ、本当だ、と呟いた。


「ヴァネシオス……。ヴァネシオス・ド・ドドールっていうのね」

「ん? 君、女の子なの?」

「あ、ええ、まぁ、そうですけど。それより、オスちゃ──ヴァネシオスは、懸賞金が金貨百枚だそうです。暴行罪で中々の凶悪犯みたいですよ」

「へぇ、じゃぁヴィオレッタの足一本分くらいだな。五体中の五分の一」


「言い方っ!」

「金貨百枚で足触り放題ならオレ、買いますッ!!!」

「酔っ払いは静かにしてろっ! あれさっきまで寝てなかったけ!? 

ああもう、調書どころじゃないじゃねぇか!」

 ギルマスは頭を掻き毟って机を叩いた。


「とりあえず、明日の朝から調書とかやるからな。

全員! 今日は就寝ッ! もうそろ深夜二時だからもう寝るッ! ──それと、君」

 ギルマスはまっすぐに勇者を見た。


「37歳、この国境を守る町のギルドマスターに選ばれた私は、こう見えてしっかりと人を見る目があるよ。君は──」


 ビクッと、赤金髪の彼女はハンチング帽を目深に被った。




「──私の代わりに見張りの交代をしてくれる。と、言うことだね?」




「え、あ。ええ? 願ったりというか、はい。いいですけど」

「はっはっは~いや、助かるよ。正直、この時間まで働くのは辛いからさ。

牢番業務頼むよ! なぁに昇級試験時には優遇するよ! えーっと名前は?」


「えっと、……ら、ラキです」

「おっけー、ラキね! 今後も勇者がんばれよー、おじさん応援しちゃう!」


 ──そしてギルマスは上階へ移動し、しばらくの沈黙が訪れた。

 光源は牢の外にあるカンテラの灯りだけ。

 その橙色の灯りに照らされて、ヴィオレッタは頬を掻いた。


「なんで皆いるの?」

 変装、または魔法で変身、変色、変態──はそのままだが──彼らはヴィオレッタの仲間。

 翼の無い猫は、翼が本当はある『シャル丸』。白い鴉は、本当は黒い『ノア』。

 白い犬は黒い狼の魔王。勇者に変装して牢の外にいるのは『ハッチ』。

 変態は『オスちゃん』、金髪の黒肌は『ガーちゃん』。


 ヴィオレッタの質問に、白い犬(おおかみ)はため息を吐いた。


『あのなぁ』


「レッタちゃん。質問の答えの前に、オレ言いたいこと言うよ」


 金髪のカツラを被ったガーちゃんは、ヴィオレッタの真横に座っている。

 ただ、レッタ大好き男(ガーちゃん)を知る人間から見たら、彼の行動は過去にない行動だった。

 いつもなら、ヴィオレッタのことをまっすぐに見て彼は喋る。

 それなのに、彼は、牢の外、カンテラの灯りだけを見つめていた。


「オレ、頼りないヤツだけどさ。レッタちゃんが行く所、行ける所までずっと付いていくつもりなんだぜ」

『風呂場はやりすぎだがな』

「それは言わない約束だったよね!? 先生!?」

「あら、(あたい)のお風呂は断っておきながら、酷いわねぇ」

「そっちは世界一危険だからなっ! ああ、もう脱線した。そうじゃなくて、レッタちゃん」

 ヴィオレッタは小首を傾げて、その横顔を見た。


「……戦場(どこ)行くにしても、馬鹿(なに)やるにしてもさ。オレらに隠して行くのだけは、もう無しにしてくれ」


「……ガーちゃん」

「レッタちゃんが行きたいなら、牢獄でも地獄でも一緒に行くから。……マジで、お願いだ」

「うん。分かった。約束する」

 ありがと、とガーちゃんは呟いてから──


「んで、質問の答えは、単純。皆が皆、レッタちゃんがどこに行ったか心配したから、……だぜ!」


 ──ニッとヴィオレッタにガーちゃんは笑いかけた。

 そして、ヴィオレッタはくすくす、と笑って見せた。


「そのカツラだと、緊張感が無いなぁ」

「すぐに捨てるッ!」

「ガーちゃん。それに、みんな」


 不意に──ヴィオレッタは彼の胴に、頭を預けた。


「心配かけてごめんなさい。来てくれて、ありがと」

 ヴィオレッタが微笑み、ガーちゃんは──胸板に当たるなめらかな髪先のくすぐったさに幸せを噛みしめていた。


『しかし、君が転移魔法まで覚えてるとはな。知らなかったよ』

(せんせー)の発動を何回も見てたもん。覚えちゃうよ」

『はは、そうか』


「自首ってあの賭けよね。レッタちゃんと一緒に行動していた剣士だっけ?」

「うん。そうだよ」

「もう一戦して決めるのは駄目なの? レッタちゃんがルールを大切にしてるのは知ってるんだけどさ」

「んー。でも、あの時の賭け(ゲーム)の清算はちゃんとしたいから」


「そうなのね……」

「でも、自首するってねぇ。(あたい)はまだまだシャバの空気を楽しみたいのよねぇ。

というか(あたい)の目標はレッタちゃんと旅しながらシャル丸と過ごすことだし」

 シャル丸は我関せず伸びているし、ノアも空飛びたい(かぁかぁー)と鳴いていた。


「それで言ったらアタシもレッタちゃんとの旅自体が目的よ。

まぁ、牢獄の中でも一緒なら別にいいけどさ」


「? みんな、何か話がかみ合ってないよ?」

 ヴィオレッタが言うと、狼先生以外がきょとんとする。



「自首は終わったから、出るよ?」



「え? どういうこと?」

「だから脱獄()るってば」

「……あ、もしかして」



「約束は自首すること。自首して一日くらい牢獄に居たら、約束は達成かなって。

だから、皆とじゃなくて一人で来たんだよ」



 ヴァネシオスとハッチは視線を交わして、苦笑いを浮かべる。

 最初から今までため息をずっと続けていた狼先生も、それはそれは盛大なため息を一つ吐いた。


『まぁ、そんなことだろうと思っていたが。

……まったく。君、そういうのは本当に皆に説明してから行きなさい』



  


 

ハッチ「あれ、ガー、途中から急に静かね」

レッタ「頭を乗せたあたりから静か。どうしたの? あっ」

ヴァネ「し……死んでるわっ。レッタちゃんが頭を乗せたのが幸せ過ぎて、幸せ死してるっ!」

狼先生『ああもう放っとけ。そいつはもうなんかそういうヤツだ。尺の邪魔だ。映さなくていい』

レッタ「くすくす。仕方のない人だよね、ガーちゃんは。頬撫でちゃお」

ハッチ「あーあ、本人……起きてたら幸せだったろうに」

狼先生『いやまぁ、……ふ。幸せそうな顔してるな』

ハッチ「ウソみたいよね」

ヴァネ「死んでるんだぜ。それで」

ガー(生きてるからねっ!?)

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