【12】鴉と猫でした~【36】
◆ ◆ ◆
「一体、どこへ行ったのですか、魔王たちはッ!!」
青いインコのような鳥の頭の剥製を被った小枝のように細い四肢の男、スカイランナー。
彼は部下の男二人に向かって怒鳴った。
「はい! 分かりません!」
勢いが良い喋り方をするのは、真っ黒な岩の肌を持つ男だ。
鋭い猛禽類のような顔立ち。その尖った鳥のような黄色い目。魔族でも有名な種族の一つ、怪刻の男である。
その怪刻男はビシッと背筋を伸ばしていた。
その隣にももう一人怪刻。こちらは背筋を丸めて欠伸をしていた。態度は豪く違うが、兄弟である。
「早く見つけるんですよ! 何をしてるんですか貴方達はッ!」
スカイランナーは怪刻たちを怒鳴りつけた。
「はい! すみません!」「はいー、さーせん」
リアクションもそれぞれ違う二人を見て、スカイランナーはまたも深くため息を吐く。
「パバトも地下大迷宮に行ってしまいましたし……よくよく考えたらワタスシはイオが居ないと強術技は使えません。とにかく探し出すように! ただちに!!」
「はい! 畏まりました!」「うっす~」
怪刻二人ともがそれぞれの敬礼をした。
「あ。そうだ、あのー、スカイランナーさまー。遅くなりましたが報告ですー。
先ほど、村で謎の魔物を発見いたしましたー」
「キミ。さっきからあれですよ? もっとハキハキ喋りなさい。で。なんです? 謎の魔物?」
「鴉と猫でした~」
鴉と猫? スカイランナーは腕を組んだ。
「……どこにでもいるでしょ! そんなの!!!」
「でも人をふみふみして癒してましたよ~」
「それは可愛い。ではなくっ! だから、今は魔王を探していて!」
「スカイランナー様! もしかすると、その二匹は魔王のペットかもしれません!!」
元気な方の怪刻に言われ、スカイランナーは口ごもった。
「何?」
「出現した時間から逆算するに、魔王のペットの可能性は高いかもしれません。
それに、鴉の方は術技を使っているのを確認しています!」
「……ほう」
「それからー、種族的には鴉と猫じゃなくてー、王鴉と有翼獅子という魔物みたいなー」
「鴉と猫って報告しなかったですか、最初!?」
「こちらのー鴉ですがー。そういえば前から欲しがっていた術技かもしれないですよー」
「ガン無視ッ!」
「鴉は、『大きさを自由に変える術技』を使っておりましたー」
怪刻の言葉に、被り物の下のスカイランナーの目はらんらんと輝いていただろう。
「詳しく説明を」
「はい?」
「それは、物質の大小の変化ですか、それとも、自身?
いや、他者をも変化させられますか?」
「はい! 自身の体を大小変化させているように見えました!」
スカイランナーは拳を握った。
「ただちに! ただちに捕まえて、ここに連れてきなさいッ!!」
◇ ◇ ◇
怪刻には羽がある。
それは、飾りではなく、空を飛ぶ為だ。
スカイランナーが『ただちに、すぐ行け、すぐ!』と怒鳴って来たので、二人の怪刻はまともな道具も持たずに飛び立っていた。
「捕まえるったってねぇ~……どうやるのー?」
「それはもう力づくしかないだろう!」
「ほう~。まぁ、考えなくていいからいいけどさぁ」
「お前は考えなさすぎるのだ! 気にせずパッと捕まえて終わらせよう!」
「ぇぇ……うぃー」
「いい返事だ!」
「いい返事かぁー??」
◆ ◆ ◆
王鴉。
人間とほぼ変わらない大きさの鴉であり、その鋭い嘴と足の爪で戦う姿が見られる『魔物』である。
ただ、魔物の区分ではあるが、人間が調教し共生も出来る。
王国の『飛空騎士団』の人気もあり昨今では恐れられてはいないが、兼ねてより魔族の使い魔というイメージが根強く、一般人の多くは『魔物』という認識だ。
有翼の獅子。
獅子に翼が生えた魔物だ。成体は人間よりも大きくなることもある。
個体によって性格は大きく異なり、気性の荒いモノに至っては縄張りに入った竜種ですら殺して捕食しているのが目撃されている。
有翼の獅子が国を一晩で滅ぼしたことがあるという記録もあり、『災害のような魔物』という認識が広くされている。
そんな魔物の代名詞といってもいい王鴉と有翼獅子が雁首揃えて村人の鬼人族の男の顔を覗き込んでいた。
男は怯えたが、だが──癒されていく。
王鴉は身体を大きくし優しく包み込む。
そして子猫のような小さな有翼獅子はお腹の上に乗ってきて踏み踏みと身体を踏んでいた。
◇ ◇ ◇
※ 実際には、人間語ではなく、我々には分からない言語で喋っています。 ※
「シャル丸さん。これが正しい『癒しの魔法』なのですね」
「正しいかどうかは分からないけどね。ぼくの弟の見様見真似」
「正しいと思いますよ。見てください、こちらの男の方のお顔を」
黒い羽毛に抱かれ、だらしなく微笑んだ鬼人族の男。
「うん。……まぁ、黒いのが少女を見てる時みたいな顔しているね。……うん」
「見事な癒しです。お見せいただきありがとうございます。勉強になりました」
真面目な王鴉はペコリと頭を下げた。
「あー、いや。でも血が止まった訳じゃないから、なんとも」
「それはそうかもしれませんが、多くの人を──きゃっ!」
「!? ノア!!」
会話の途中、急にノアが叫ぶ。
慌ててノアを見ると──その首根っこを掴んだ黒い岩の肌を持つ男二人組が居た。
ノアの羽を乱雑に紐で縛り始める。
「Hit! Critical王鴉! Gefangen!」
人間たちの言葉は『ニュアンス』は分かっても『意味』は分からない。
ノアを捕まえて喜んでいるというのだけは伝わり、シャル丸はすぐに毛を逆立てて威嚇する。
「な、何やってんだお前たちっ!」
「Next,猫vil……!」
次はお前だ、と言われた気になった。実際そうなんだろう。
シャル丸は爪を出す。
「ノア……今、助けるからね!」




