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【03】よし、行ってこい【06】

 


「大丈夫なのだ! 幼生岩芋虫(ミニストーンワーム)は友達、怖くないのだ!」


「おい、ハルル! そいつを止めろ! 虫が友達だったとしても鍋の友達にはなれない!!」

「我々発明家の研究に、失敗はつきものなのだ!」

「研究じゃなくてこれ鍋だからな!? 失敗しちゃダメなんだって!」

 ポムの手にある怪しげな瓶を奪い取り、鞄の中に強制送還(フリースロー)する。


「んで、ハルル! 肉ばかり食うな! 野菜も食え!」

「ふもっ! ふみまふぇん!」

「食うか喋るかにしろ!」

「! ……!」

「もくもくと肉ばかり食うな! 俺、まだ肉食ってないんだからね!?」

「あ! 鍋の底にお肉発見なのだ~」


 ジンの狭い家に、ポムとハルルの二人がいる。

 ポム──本名はポムッハ。ギルドでそこそこ名の知れた、発明家兼学者だそうだ。


 ハルル曰く、ポムの家が吹っ飛んでしまったので、今日は泊めて欲しいッス! とのことだ。


 泊めてもいいが飯がないぞ。

 と話すと、ハルルが、ならば鍋にしましょう! と提案。

 ポムが鍋を食べたことがないと発言。俺とハルルにとっては衝撃だったが、よく考えれば、鍋料理というのは北部の田舎料理。知らなくても当然か。


 冒険、旅の途中では、何でも煮てしまえばいいだけなので重宝されるが、そういう機会の無い人には浸透していない様子だ。

 

 そして、材料の買い出し。ポムが意外と常識人で、『宿をお借りする身なのだし、少ないですが、お金を払うのだー』と資金提供してくれた。


 というわけで、少し肉が上質となったこの鍋を囲み、現在の混沌とした状況に至る。

 つまり、肉は絶対に食べたいので、少し本気を出す。



◆ ◆ ◆



「もっと肉買ってくればよかったのだー!」

「いやぁ~満腹ッス~!」

「ああ。本当に美味かったな」

 鍋をしっかりと食べ終え、一息つく。

 さて、ここからが本題か。


「で、なんなんだ? 依頼っていのうのは」


 俺が訪ねる。

 そう、彼女、ポムはただ泊りに来ただけではなく、依頼があるとのことだ。

「そうだったのだ。忘れていたのだ」

 ポムは座り直し、俺とハルルを見た。


「ジンとハルルは、便利屋だと伺ったのだ! だから、二人に、護衛の依頼をお願いしたいのだ」


 護衛?


「あ! 別に、誰かに狙われているという訳ではないのだ! ただ、ちょっと、ここから離れた場所に行きたくて、その旅のお供をお願いしたいのだ!」


「あー、いや、全然そういう仕事は受けても平気なんだが。

ただ、護衛系の依頼はギルドに出せばすぐ受けてもらえると思うぞ?」


 それに、勇者法のせいで民間人(おれ)は武装出来ないけど。とも付け加える。

 まぁ、武器なんてなくてもそこらへんの賊くらいなら倒せるんだけども。


「それもそうなのだけども。出来たら、ハルルに守ってもらいたいのだ」

「え!? ご指名ッスか!?」

「のだのだ! 竜の鱗も良質だったのだ! それに、ハルルはいい奴で、信頼がおけるのだ!」


 んー……確かに、護衛という依頼で一番大切なのは信頼関係だ。

 どこまで行くかは明確に聞いてないが。


 長距離になればなるほど、安心できる奴は重宝される。

 話が合わない勇者を護衛にしたら、四六時中無言で辛いのだ。


 ハルルは、そういう面では問題なさそうだ。どうやらポムに相当気に入られた様子だ。

 しかし、とはいえ……。


 ハルルを見る。

 ハルルはやる気満々のようだ。


「実は、俺、別の依頼が一件あって、最短でも三日間は身動きが取れないんだよ」

「え! 初耳ッス!」

「飯食ったら言うつもりだったんだよ。サイがどうしても荷物を運んでほしいってな」


 だから、タイミングが悪い。


「正直に言えば、ハルルの今の力じゃ、護衛が完遂できると胸を張って送り出せない」


 実力的に見て。多分、山賊ならタイマンから三人までなら撃退出来るだろう。

 戦闘において、優秀であることは間違いない。


 だが、四人以上になったら怪しくなるし、相手が術技(スキル)持ちだったらまた変わる。


「一応、八割以上の移動が馬車なのだ! 大通りばかりで安全なのだ!」

「でもなぁ」

「馬車で片道二日程度の距離なのだー!」

「距離、まぁ、遠すぎるわけではないが……」


「あと、成功報酬は金貨十枚払うのだ!」

「よし、行ってこい、ハルル」

「金が出た途端に!?」

「いや、ハルル。お前にとっていいレベルアップの機会だ。お前の為になると判断したまでのことだ」


 何より、護衛の相場は単日金貨一枚と食費別。

 往復四日としても倍払いだ。絶対に成し遂げてこい。


「師匠が途端に胡散臭くなったッス!」


「大丈夫だ、お前なら出来る。頑張ってこい」

 まぁ、何かあった時用に、いい武器くらいは探して渡すがな。


「俺は明日出発の予定だ。そっちも明日でいいのか?」

「のだ! むしろ今から出発でも大丈夫なのだ!」

「了解ッス! 今すぐ準備するッス!」

「出発は明日だからな??」


 まぁ。少し俺の手の届かないところに出して、そこで成長を促す、というのも大切か。

 いや、弟子ではないけどな。それでも成長は促してやるべきだろう。


 

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