【12】ドクロ発光ムラサキ茸【14】
◆ ◆ ◆
「ハルルッス、強ぇえ」
銀白の髪の少女が着地した時、オレは思わずそう呟いた。
ハルルッス。ああ、ハルルっていうヤツなんだけど、ッスって語尾なんだよね。
自己紹介でハルルッスって言っていたから愛称でそう呼んでいる。
いや、オレもレッタちゃんみたいにニックネームを付けて呼びたくなった、ってところだろうかね。へっ!
爆発する槍をくるくるとバトンのように回す。
それが合図みたいでどんどん小さくなって、ネックレスサイズになった。
ハルルッスの後ろで、巨大な猪が崩れ落ちる。
「えへへ。まぁ岩猪なら余裕ッスよ!
でも、うちの師匠はこの百億倍強いッス!」
「マジか……でもうちのレッタちゃんは千億倍強いけどな」
「じゃあ師匠は一兆倍ッスよ」「十兆」
「千兆ッス」「景」「垓ッス」「……無限」「無限億ッス」「んだその単位っ」
譲らないなっ! こいつ!!
「あ、分かれ道ッスよ! 立札があるッス!」
「ほんとだな。えーっと。謎かけに正解すれば正しき道。誤れば岩に踏み潰されるだろう。
だってよ」
「謎かけってどこに書いてあるんスか?」
「……これか?」
オレとハルルッスの足元。ボロボロになって腐った木くずがある。
「……直感二択と思って選びましょ!」
「そうだな! 頭使うより全然いいな!」
「せーの」「「左」」「おお……一致した」
左の道へ入っていく。お、良い傾斜だな。遠くに光も見える。
「当たりか!」「そうッスね!」
がこん。ごろっ……。
「「岩が当たった!」ッスね!」
ぎゃーーーと絶叫の声を上げて走って戻る。
息を荒くして、間一髪回避。
「いやぁ、怖かったッスねぇ!」
「なんか……ルッスは、楽しそうだけどな……」
「その略し方だと一文字しか名前になってないッス!」
「ははは」
「まぁ、楽しいッス。実際、雪禍嶺の地下大迷宮は憧れッスから」
「え、憧れなの?」
「そうッスよ! 多くの冒険者が挑んだ超有名ダンジョンッスから!」
「へぇ。オレ、全然知らねぇわ」
「そうなんスかー……」
「まぁ。でも、来たかった場所なら、楽しんだ方が得だな。
なんか記念に砂でも持ち帰る?」
「ガーちゃんさん……。あ、でも、砂とかはいらないッス」
「あ、そ」
そして、オレたちは進む訳だが……。
オレたちのいる中層は東側ダンジョンという名称で、罠だらけのルートだそうだ。
主に二択。左右のどっちかが正規ルートで片方が罠。
「「ぎゃああーーーーー!」」 岩の針が足元から生えたり。
「「ひぃいいいいいい!」」 両壁から矢が飛び出たり。
「「やあああああああ!」」 ゾンビが襲い掛かってきたり。
「なんで二分の一を全部当てるんだよ! 奇跡かよ!!」
「ふぅ! 大変ッスね! このダンジョン!」
良い笑顔じゃん?? 随分いい笑顔じゃん???
疲れた……オレ、体を煙草に捧げてるようなもんだから、そんなに体力無いのよ……。
「ハルルッス……休憩を……煙草……吸っていいか……」
「えー、臭い付着るんでパパっと済ませてくださいよ」
「はぁ……はぁ……。次こそ、安全な道を、だな」
カシャンコ、とライターの蓋を開けて火を点ける。
はぁああぁ……疲れたよ。煙草が染みる……。
煙を目で追う。どれくらい吸ってなかったか。
この地下に来てから何時間か吸わなかった。
多分、半日吸ってない。すげぇ。禁煙大成功だな。
ん……煙が! 煙が!! ……おお!
「ハルルッス! 煙、見てくれ!」
「なんスー? あ、煙が吸われてるッスね!」
そう。片方の道に煙が吸われていく。風の道がある。
「煙追ったら安全じゃん!?」
「かもしれないッス?」
煙草の煙の行く方に進む。
お! 当たりじゃん!?
いつもなら入ってすぐに罠が発動する。なのに、進めた!
「やったぜ、ハルルッス! ……あれ、ハルルッス?」
振り返るとハルルッスが居ない。
まさか、何か見落とした罠があって、分断され──
「ぎゃあああーーーーー!!」
「なんで隣の道からルッスの声がするんですかねええええ!?」
引き返してみると、ずぶ濡れになったハルルッスが笑っていた。
「えへへ。水系の罠っした!」
「なんでワザワザ罠にかかりに行ってるの!?」
「え、いやぁー、せっかくダンジョン来ましたし、完全踏破を目指して!」
「罠に全部かかるのは完全踏破って言わなくね!?
っつーか、まさか、さっきからの二分の一の罠を引きまくったのって……」
ハルルッスは笑う。何言ってんスかー、と笑いながら──目が泳いでいる。
「ダンジョンクレイジー過ぎんだろ……!」
「えへへ。まぁ、それほどでも」
それからしばらく歩くと……ハルルッスが、あっ! と声を上げた。
「安地ッスー!!」
「安地?」
「安全地帯ッスよ! ダンジョンにあるんスよー!」
地下大迷宮には、安全地帯という場所があるそうだ。
魔物が入り難い場所で、魔物が苦手な臭いの花とか、物理的に入れない場所とかを、安全地帯と呼ぶと説明された。
ただ、安全地帯が必ずあるとは限らなく、安全地帯が無い場合は、見張りを立てて野営で休息をする。それが地下大迷宮の鉄則だそうだ。
「でも、ここ安地なのか?」
紫色に発光する茸。よく見ればドクロっぽい模様も見受けられる。
「安地ッス! 『ドクロ発光ムラサキ茸』は魔物が苦手な臭いを出すんス」
「ドクロ発光ムラサキ茸。声に出して言いたくなる不思議な語感のキノコだなぁ……」
紫色の灯りを放っている茸が群生している。ほんのりおばあちゃんちのタンスの匂い……。
「なんか、目が覚めたら体に寄生してるとかないよな。怖いんだけど」
「そしたら新種認定ッスね! 『ガーちゃんさん・マンドラダケさん』って名前にするッス!」
「不名誉っ!」
「実際はこの茸は安全ッスね。
本にも日誌にも安全って書いてありますし、何より魔物とかの足跡が見られないッス」
横目で本と日誌をチラッと見る。
「なるほど。急に真面目な勇者っぽいじゃないか……。
さっきまでのぶっ飛びクレイジーっぷりは何だったのかと内心でオレはそんなことを呟きながら、腰掛けた」
「口に出てるんスよ、地の文が」
◆ ◆ ◆
──そして、簡単な食事を済ませた。
簡単すぎるけどな。緊急用の干しパンだけだから……。
時間感覚が無くなるけど……もう夜のようだ。
ハルルッスとオレは焚火を囲み、水が沸騰するのを待っていた。
煮沸大切。蒸留水大切。
「ガーちゃんさん」
「ん?」
「魔王、復活させて、何がしたいんスか?」
直球に、オレは固まった。
どう、答えるのが正解か。頭が急にフル回転する。
「こういう時、上手く聞き出すのが本来の勇者なんでしょうけど……直球で聞こうと思いまして」
「……それは」
「ガーちゃんさんは、悪い奴には見えないッス」
「見た目、怪刻の血が濃いけどな」
「それは気にならないッス。竜人の子と友達ですし」
「そうか」
「……また、戦争を始めるつもりなんスか?」
オレは、言葉に詰まる。
どうするべきだろうか。何を、喋っていいんだろう。
何も、語っちゃまずいよな?
◆ ◇没◇ ◆
爆発する槍をくるくるとバトンのように回す。
それが合図みたいでどんどん小さくなって、ネックレスサイズになった。
「逆封●解除みてぇだな。それ」
「ほぇ?」




