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【03】依頼ヨ。依頼【04】


 ハルルは、飲み込みがいい。

 ハルルとの模擬戦の中、改めて思う。


 彼女の一撃──訓練用の槍での攻撃──を、木剣で受け止める。

 そのまま、槍を弾き、ハルルはよろめく。


「攻撃が弾かれたら、すぐに回避。構えをすぐ直す」

「はいッス!!」


 ハルルは槍を構えなおしてすぐに向かってきた。

 素直で従順。指摘箇所を理解し、すぐに軌道修正できる、ある種の頭の回転の良さがある。


 あと、田舎育ちであるからこその、体力というかメンタルというか。

 ともかく、根性論で俺の教えをクリアしていく節がある。



 

 逸材。という奴だろう。




 見立て通り、槍棒術はすぐに実戦レベルに達せそうだ。

 田舎で農作業していたからッスかね、とハルルが笑っていたが、あながちそうかもしれない。

 腰の入れ方、振り下ろし方。なるほど、どれをとっても形になっているわけだ。


 半年も槍を学べば、この周辺にいる魔物程度に負けることはないだろうな。


「いい調子だ。敢えて言うなら、攻撃が直線的だ。それじゃ防がれる」

「はいッス!」


 突きをいなし、弾く──と、それに合わせて、ハルルは後ろに跳躍。

 実質の回避をし、槍を構えなおした。

 文句なし、だな。


 すると、ハルルはさっき教えた槍の両手持ち、正道の構えを解いた。

 何をする気だ? 片手で槍を持ち、真横に構えた。


 いや。待て。嫌な予感がする。

 何か見覚え……いや、『覚え』があるぞ。あれは。




「秘儀……斬滅必天(ざんめつひってん)の極み──雷火魔尖(らいかません)大天薙(おおてんなぎ)!!」




「やめろおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!」


 俺のっ! 黒歴史的なっ! 技の真似はっ!!


 技の出始めより先に動き、木剣の腹でハルルの頭を叩いた。


 ──そりゃね。当時は、カッコいいから、って、付けましたともさ。

 ──ああ、消したい。消したい記録だ。


 そこから、しばらく模擬戦をし、夕刻を告げる鐘が鳴った。

 後、二時間もすれば十七時。


 学者の家は、交易都市の最西端らしいから、この近くの乗り合い馬車に乗って、一時間程。まぁ、間に合うか。

 しかし、途中、休憩や構えの練習もしたが、なんだかんだ五時間近くぶっ続けで訓練していたようだ。


「ししょーみたいに上手く大薙出来なかったッス……」

「え、何、まだ俺のメンタル削りに来てんの?」


 ハルルが俺の隣に座った。


「《雷の翼》大全に載ってるししょーの技、色々、練習してるんスよ?

  極雷閃、鉄剣斬、双雷閃、破天滅裂!」

 その大全、もはや、呪いの書に見えてきた。


「あ。そうッス! いい機会ッス! 師匠! この技の中で、全然よく分からない技があるんスけど!」

「いや、俺、その辺の技、全部出来心で技名付けてるっていうか、もうそっとしておいてほしいというか」

「全部の技、能力説明とか攻撃方法とか、ほぼほぼ理解してるんスけど、どうもこれだけは分からなくて」

「堂々とスルーか」


「この『雷天絶景』ってどんな技なんスか?」


 ハルルが開いた大全の、勇者ライヴェルグのページ。

 その下の技一覧の中に『雷天絶景』の文字はあった。

 説明欄には。


「説明欄には、加速した世界は減速した世界と同義である、って書いてあるッス」

 恥ずかしい、死ぬ。恥ずか死。


 いや、技名は、『師匠から』受け継いだ由緒正しい技名で、そこはいいんだが。

 ……説明欄。そこ、調子乗って俺が書いたんだった。


「その、説明欄のことは、まぁ、編集者が適当に書いたんだろうな」

「そうなんスか? それはいいとして、この技、なんなんッス? 実際、その技を使ってる所、あまり本にもなってないッス」

 ハルルが言う。俺は、頷いた。


「それは、そうだろう。この技は、魔法でも術技(スキル)でもない、誰でも体得できる純粋な『技』──あ」


 しまった。

 こんな言い回しをしてしまったら。

 ハルルが、まるで餌を持った飼い主の所に走る犬のようなキラキラした目でこちらを見ている。


 いや……別に門外不出の技でもないし、割かし有名だから、教えてもいいんだが……。


「と、とりあえず、学者さんの所、行かなきゃな。だろ? 約束の時間が」

「いえいえ! 今すぐ、即教えてくださいッス!」

「いやいや! とりあえず、学者ん所行けよ! 十七時待ち合わせだよね!?」

「でも気になるッス!」

「教えるから」

「絶対約束ッス」

「わかったから! 早く行かないと遅刻するぞ!」



◆ ◆ ◆



 無理やりハルルを送り出してから、俺は夕飯の買い出しをして家に帰ってきた。

 夕飯は、モヤッシである。そして特価品の萎びたネギ。

これしか買えない。炒めれば、とりあえず食える。

 鍵を開けて、家に入る。


「や、おかえりネ!」

 独特な発音、景気のいい声。


「……いやいや。サイ。なんでお前、家にいるんだ?」

「鍵、開いてたヨ、ほらそこ」

「もしその窓を指さしてるんだとしたら、それ堂々とした不法侵入だからな?」

「アイヤー。どうりで小さな入口と思たヨ」

 舌を出して笑って見せる。


 不審な目で見るが、まぁ、サイとは本当に古い付き合いだ。

 神出鬼没なのも分かっている。

 家に勝手にいるのも、レアケースではあるが、何度かある。


「まぁ……よくないけど、いいわ。サイ。どうしたんだ?」


 サイは、こう見えて真面目な人間だ。

 だから何か用事がある時。それも、面倒事がある時に直接、依頼しに来る。

 その都度、家に勝手に上がられてるのは驚きだが。


「依頼ヨ。依頼。ちょっと厄介なことになってネ」

 サイは持ってきた風呂敷包みを机の上に置く。

 随分と重たい音がした。鉄か、鋼か?


「納期短くて、間に合わない。その荷物を届けて欲しいネ」


 

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