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【12】ガーちゃんさん【09】

 


 ◆ ◆ ◆



 追い込まれた時の行動が、人間の本質、ってよく言うじゃん?

 言わない? まぁ、なんでもいいか。



 とりあえず、追い込まれたオレは……煙草を吸いたいと思います。



 胸ポケットから煙草の白い箱を取り出す。トランプの(スート)が描かれた箱から一本取り、咥えて『カシャン』とライターを鳴らして火を点ける。


 オレの名前はガー。とても元気な喫煙者だ。冗談だって。

 どこにでも……は、居ない見た目に生まれた、どこにでもいる真面目系クズ。それがオレだ。


 煙草を持つ指を見る。まぁオレの皮膚は黒い。

 魔族の、それも有名な怪刻(ガーゴイル)という種族と人間の混血なんだそうだ。

 でも、普通はどっちかに寄るらしい。


 人間らしく片手の指が五本で、魔族らしく目が黄色。

 人間らしからぬちょっと尖った耳。魔族らしからぬ牙の無い歯。


 特徴がこうも綺麗に半分ずつ出るのはレアだってよ。


 だから、半人(デミ)種と勘違いされやすいけど、そうじゃないからね。

 半人(デミ)種は半人(デミ)種。

 竜人(ドラゴニア)とか爬虫人(リザードマン)とか……そういう種族が半人(デミ)種。

 オレはただの半端だから、種で括れない。人間なのか魔族なのか、半人(デミ)なのか。

 なんて。まぁ、いいや。やめようぜ、そういう変な考えさ。

 薄暗い洞窟の中だから、変なことばっかり考えちまうよ。




 薄暗い洞窟……そう。今更だが……。

 マジで! ここ、どこだよ!




 鍾乳洞か? 洞窟か? ただ、変な岩が多いな。

 鉱物が光っているのか、優しい青緑色の灯りが岩から出ている。


 頭を働かせよう。直近を思い出そう。

 レッタちゃんと、謎の剣士が鳥頭と戦っていた。

 曰く、レッタちゃんの背中を斬ったヤツらしい。

 思い返せば出会った日、背中を痛そうにしていた。アイツが犯人かっ!?


 で、最後、鳥頭を追い詰めた時に、なんか二人が鳥頭の武器? 道具? を叩き落として、爆発した。


 んで、目が覚めたら、この洞窟と。



 ……つまり、オレは死んでしまった……ってコト!?



 そりゃないか。ま、仮にここが地獄だろうが冥界だろうが、煙草さえ吸えるならまぁいいや。

 ふぅー……落ち着てきたわ。


 とりあえず、ここは洞窟だな。なんでかは分からないけど変な洞窟にいる。

 後ろは行き止まりのようだし、進んでみるか。

 一つ二つと煙を吐きながら、オレは道を進む。


 正直、迷子(はぐ)れたら動かずにその場で待つのが基本(ベター)だけどなぁ。


 ただ、早くレッタちゃんに会いたいじゃん?


 そう。レッタちゃん。あの子はこの世で一番可愛い。

 顔が可愛い。姿が可愛い。呼吸しているのが可愛い。トニカク、可愛いんだよ。


 あの長い黒緑色の髪も、菫色の宝石みたいな目も、壊してしまいそうな白い肌も……何もかもが、好きだ。


 はぁ、ダメだ。寂しくなってきたな。

 レッタちゃんが近くに居ないと辛い。


 開けた場所に来た。ここだけ光る岩も少ないから、暗い。

 ああ。くそ。

 レッタちゃん。どこだよ。ああ。もう。





「レッタちゃあああああん!」「ししょおおおおおおおお!」





「ん?」「え?」

 真横、つまり隣。

 偶然おんなじタイミングで叫んだのは、女の子だ。

 白い野良猫のようなモフモフっとした毛並みの女の子がいた。

 街の中にいる元気そうな子だな。目も顔立ちも整っていて(レッタちゃんの五分の一程度には)可愛い子だ。



 少し見つめ合った。そして、なんでか、本能的に。






「しっしょおおおおおおおおおおおおお!!!」

「レッタちゃあああああああああああん!!!」






 声の大きさで張り合った!

 なんだか知らないが、負けられない気がしたんだ!!

 思いの大きさ勝負的なっ!


 ……数分無駄にして、お互いがちょっと距離を取って座る。

 大声コンテストをおっぱじめた馬鹿二人であるオレたちは喉がスカスカである。


「えーっと、ハジメマシテ?」

 オレ、声、スカスカやん。

「あっ、はい。は、初めましてッス!」

 向こうも声少しイガイガしてそうだ。


 ふぅ。少し喉が落ち着いてきたわ。


「あれ。貴方、手配書の人ッスか?」

「ん? あ。えーっと……えっと。に、似てる人、とかじゃダメ?」

 『ッス』少女(ガール)はおもむろに背中に背負った鞄を下ろす。

 そして、中から、縄を取り出した。


「あのー。お嬢さん?」

「えっと。両手を前に出して貰えます?」

「こんな感じで?」

「そッスそッス! で、もうちょっと手首を合わせて」

「こう?」

「そうッス! で、縄を手首に巻いてと……痛いッスか?」

「いや、痛くないかな」

「じゃぁこれをこう縛っていって……完成!」

「おお、これは綺麗な手錠結び」




「指名手配犯、ゲットだぜ! ッス!!」


「ぎゃああああ捕まったぁああああ」




「ノリ良いッスね、貴方」

「急に真面目な顔で言われると照れるって言うより先に恐怖の感情が来るね」

 というと、女の子は、にこっと笑った。

 笑った顔、可愛い子だなぁ。まぁレッタちゃんの足元にも及ばないが!


 ふと、縄をまた手際よく解き始めた。

 あれ。


「いいのか、解いちゃって」

「いいッス。だって連れて歩くの大変ッスし、何より私、迷子なんで」

「あ、なんだキミも迷子か。ああ、じゃなきゃ寂しくなって叫ばないもんな」


「ち、違うッス! あれは、その……きゅ、救難信号ッス!」

「それは無理ありすぎじゃね?」


「まぁとりあえず、この場所を出ましょう。出てから捕まえるとか決めるんで」

「出るのは賛成だけど、捕まりたくはないんだけど」


「正直な人ッスねー……。あ、私はハルルッス」

「へぇ、カッコいい名前だな、ハルルッスか! オレはガーちゃんって呼ばれてる」


「ハルルッスじゃなくて、ハルル、ッス!!」

「あはは。冗談だよ。ハルルッス、よろしくな」


「はぁ。もう、よろしくッス、ガーちゃんさん」


 

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