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【12】あっ【08】


 ◆ ◆ ◆




(なんだこの人間二人はっ! バケモノかっ!?)




「お、おおお! 行けぇ! 『氷の刃』、『風弾』、『土の嵐』ッ!」


「くすくす。『氷は結びつきを無くせ(エクストラクト)』、

風速は再定義しよう(アンジップ)』、『土の質量が異常値です(エラーメッセージ)』」


(ま、魔法が無効化される! なんだあれは!! あの小娘はっ、魔王のただの器だろ!)


「もっと複雑な魔法を使ってよ。消し甲斐ある奴。例えば。

氷岩(アイスハンマー)』、『放散式石礫(マシンガン)』、『毒有風剣(ヴェノム・ソード)』」



(なんだあの魔法はっ!! 氷と岩っ! 連射で石っ!?

それに、毒の剣っ!? く、なんなんだ! 

魔王の、次の肉体なだけなのに、なんであんなに強いっ!? 

魔法とか、ワタスシより種類が多くないかぁ!?)



 慌てたように鳥頭は低空に移動した。

 足が焼けただれている。毒をもろに受けたようだ。


(それにっ! あっちの剣士! なんであんなスピードで動ける!? 

術技(スキル)か!? いや、それにしても異常──っ! また視界から消えた!)



「お前。もっと基礎的な戦闘力付けた方がいいぞ」



「は、ぇ?」


「まずは自動防御の魔法とか、発動しておかないとな」


「ぎぁああっ!!!?」

 背中から血が飛び散る。今の一瞬で背中には二回分切れ込みを入れておいた。

 加減はした。死なれたらサクヤの情報を聞き出せないからな。

 十中八九、こいつが何かしただろうし。


「す、すふふっ! すふっ……つ、強いことは分かりました、あなた方ぁっ!

い、良いですか、まずは話をっ」



「【長靴(シュティフェル)斬る(シュナイデン)



 靄で作った靴から、靄で作った刃が出る。

 なるほど。あれは戦い難いだろうな。

 蹴りの間合いから伸びる刃の長さは自由自在のようだしな。

 あの靄は魔法を付与させることが出来るから、あの刃に爆発属性とか……いやもっと単純に炎を纏わせるだけで凶悪な技になるだろう。


 ああ。あの鳥頭魔族、魔法特化型だから正直相手にならない。

 まぁ、攻撃魔法を透明化して消音掛けてた時点で察してはいたがな。

 戦闘に自信があれば、あんなに隠れて攻撃なんてしないだろうからさ。


 姿を現した時には、よほどの馬鹿か、何か策があるのかと思った。

 だが……まさか前者の『よほどの馬鹿』の方だったとは。


 ああ、悲しいかな。ヴィオレッタの方には見えないように背中で杖を振っているが、俺には丸見えだ。


 ──一閃、杖の頭を叩き切る。


「ひぃ!」

「杖以外で魔法を使える練習をした方がいいぞ。指とかがオススメだ。賢者もやるからな」

「そーだね。指のショートカット魔法は確かに面倒だったね」


 あわせてヴィオレッタが鳥の顎に蹴りを食い込ませる。

 蹴られた場所がバチッと発光した。雷撃系の魔法を付与したのだろう。


 空中を襤褸切れのように飛び、地面に叩きつけられた鳥頭の魔族。

 地面を這い(つくば)って息を荒くしている。



「に、二対一だから……卑怯なんですよ……一対一なら、ワタスシが、負ける訳っ……」


「くすくす。言い訳なんて見苦しいなぁ」

「つーか、透明消音コンボで気配を消したお前の岩投げ(まほう)攻撃の方が卑怯じゃねぇの?」



「っ……このっ、ガキどもめっ……」

 え。俺もガキか。若く見られるのは嫌な気分じゃないな……ではなく。

 丁度、俺からは人影が二つ見えた。

 鳥頭の背後側、町の瓦礫に隠れた二つの影は──ルキとハルルだろう。

 そして、ヴィオレッタの仲間たちも近づいてきている。


「さて。魔族の男。お前に勝ち目はない訳だ」

「大人しく、(せんせー)を返して」

 ん? 先生を返して? 先生ってのは、魔王のこと、だよな。

 そういえば、魔王はどこに。


 等と考えている時──鳥頭が何かしようとしている。

 体を動かして、腰にある何かを取り出そうと。

 まったく。往生際の悪い奴だ。何をする気かは分からないが、無駄な足搔きをしやがって。


 俺も、ヴィオレッタもその微細な動きには気づいている。



「す、すふふっ! ならば! ここは一度──」



 取り出した瞬間、俺がその『古い鍵』のようなものをその手ごと切り上げる。

 まったく同時に、ヴィオレッタの踵落としが古い鍵に叩きつけられた。


 鍵──?


 俺の一撃とヴィオレッタの踵落としで、『古い鍵』がバキンッ、と嫌な音を鳴らした。


「──退くとす……る、あっ」


 鍵はピキピキと音を立てて、罅が入っていく。その罅の奥では青白い光が輝いて見える。

 古い鍵が、緩やかに地面に落ちる。


「えっ?」「あっ?」


 嫌な予感しかしない。


 光が強くなっていく。ああ──『魔力暴発(バースト)』特有の青みが掛かった光だ……。


 そして、鍵は地面に落ち、綺麗に真っ二つに砕けた。





 ──青白い極光に慌てて目を閉じる。






 ◆ ◆ ◆



 んでさ。ここ、どこよ。

 転移魔法の暴発で、俺は知らない所に飛ばされていた。


 俺は大の字で洞窟の薄暗い天井を見ている。

 背中も岩でとても冷たい。が、足の辺りはなんだか温かい。


 ああ、知らない場所って言ったが、厳密には知ってる場所だ。


 ここは、雪禍嶺の地下にある地下大迷宮(ダンジョン)だろう。


 十年程前に、この地下大迷宮(ダンジョン)で全員が迷子になり……五日間も無駄に過ごしてしまった場所だ。


 ただ、あの時はもっと浅い場所での迷子。

 今回は……岩壁の色からして、遥か深層。


 まぁ、地道に上に登っていくしかない。

 地下大迷宮(ダンジョン)の壁は魔法でも物理でも破壊出来ない。

 破壊出来た所で生き埋めになるんだけどね。


 中層まで戻れれば帰り道は分かる──かも、しれない。


 仕方ない。俺は身体を起こす。

 と、そういえば足の辺りは何故温かいのか──と。


 俺の足を枕にするように、気を失った少女がいた。

 それは、指名手配の少女。


「ヴィオレッタ……」


「ん」

 パチっと急に目を開けた。怖ぇよ。


「……便利屋? ……え? ここどこ?」




 こうして奇妙な組み合わせが生まれてしまった訳だ。



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