【12】単刀直入に言いましょう【03】
◆ ◆ ◆
道端に置かれているのは、骨だ。
皿の上に骨が置かれている。
絵に描かれたような見事な骨らしい骨だ。
「くすくす。これって師へのプレゼントじゃない?」
「なるほど。そう考えると皿の上にあるのも納得だ」
「でしょ。くすくす」
くすくすと笑うこちらの少女。
世界で一番美しい(主観)長い黒緑色の髪で、この世で最も綺麗な白い肌(所感)の少女。
背は低いけど、まぎれもなく世界で一番可愛い少女(オレ個人の意見)、レッタちゃんである。
その肩には一羽の『小さい』鴉が留まっている。
あの鴉の名前はノア。王鴉という人間より大きいサイズの鴉である。
え、その鴉が小さいって?
オレも驚いたよ。まぁ、後で話す機会もあると思うけど、術技を修得したらしい。
いやぁ、この一週間、オレもハッチも訓練してたけど、まさか一番に獲得するのがノアだったとはね……。
オスちゃんとシャル丸が旅に加わってから、術技習得訓練を毎日やっていたのである。
まぁ、術技習得の道は長く険しそうだわ……。
「罠かな? 狼先生なら跳びつくって思われた、とか」
彼女はハッチ。最近、髪を赤染し、光に当たると地毛の金と混ざった赤金色になる髪をしている。
オレより年下だが、皆のことをいつも心配してくれる母的ポジションだ──と愛しのレッタちゃんが語っていた。
まぁオレ的には悪友ポジションである。そんなハッチが狼先生を心配そうに見やった。
「罠ぁ? でも誰かに狙われてるの?」
オネェ言葉で喋るのは、筋肉ムキムキの魔女男。
オスちゃん。最近は村に出入りすることもあったので白の毛皮のコートを羽織っているが、その下にシャツなどは着ておらず筋肉が見えている。いや、見せているのか……。
その腕に抱かれているのが、翼の生えた子供獅子。
シャルヴェイスという魔物であり、名前はシャル丸。ちょっと生意気な子猫みたいである。
『これが私への罠なら、随分と舐められたモノだな……』
レッタちゃんの隣で深々とため息を付く黒銀の毛並みの喋る狼。
彼は狼の姿をしているが、本当は討伐されたはずの魔王である。
レッタちゃんの師らしいので、正体を知っているオレも、正体を知らない皆も不敬にも『狼先生』と呼んでいる。
オレたちは、旅をしている。まぁ、レッタちゃんの旅に随行しているって言う方がしっくりくるか。
レッタちゃんは、『死者蘇生』を叶えるために旅をしている。
理由は複雑らしい。今度、しっかりと話す機会があるだろう。
ともあれ……狼、鴉、猫。動物三匹。
レッタちゃん、美女、オカマとオレの計七名がレッタちゃんの仲間だ。
「それで……食いつかないの?」
『あのなぁ……。まぁいい。食いつこうが食いつくまいが、食い破る必要はありそうだ』
木々の陰で動いた気配がする。
「ははん、オレでも分かるってことはこいつら大した奴らじゃないぜ!」
「そうね。勇者だったらもっとマシな罠にするだろうし」
「さっきの町で後を付けられたのかしらねぇ? それで先回り?」
「くすくす。じゃあ私たちを狙った賞金稼ぎさんたちかな?」
その言葉の返事は──ピュィ! という口笛だった。
皆出てきた! あっ! 思ってたより多い!!
四方を囲まれている!
矢! 矢だ! 隠れていた奴らが弓を構えて矢を放ってきた!
「【靄舞】、奔れ」
レッタちゃんの手から黒い靄が生まれ──真横に跳んだ。
オレたちに跳んできた矢を一蹴してくれる。
相変わらずすげぇわ。
あの靄はレッタちゃんの術技だ。
なんでもレッタちゃんは靄を自在に操れるそうだ。
さらにあの靄は魔法の特性をコピーして──
「ガー! 上!」
「へ?」 影が落ちた。
ひぃぃぃい! とオレは前へ避けた。
魔法かっ、岩の魔法なのか!
怖っ! あんなの当たったら死んじゃうよっ!
あ。
目の前に見知らぬ皮鎧のお兄さん。
や、やぁ。そんなサーベルを構えてどうしたんだい? はははー。
「は、話し合お──うぉおお!」
ちょっ! 無言っ! 無言で斬りかかるの! 止めれっ!
ギリギリ躱せる。よし、こいつ、そんな強くないな!
お、応戦するぜ! オレ、最近、魔法が使えるようになったからな!
唯一使える魔法。それは鉄の魔法の劣化版だ。
拳を鉄みたいに硬く出来る。だから。
「鉄化ッ!」
サーベルを拳で弾く。後、オレ魔法が滅茶クソ下手なんで、腕を鉄化は出来ない。
マジで手首から先だけ。心もとない魔法だろ。オレもそう思う。
それに愛煙家は喧嘩なんてしたこともないので、後ろで敵を千切っては捨ててるレッタちゃんみたいにカッコよく戦えはしません。
けどまぁ……この人はギリギリ戦える、か、なっ!!
体全体を使ったような拳の打ち出し。
レッタちゃんのパンチの打ち方をずっと見ていたから、これだけは出来る。
鋭く、相手の顔面を殴り──飛ばす!
「ひゅぅ。あなた、カッコいいじゃない」
「オスちゃんに褒められてもなぁ」
山賊だか盗賊だかの男たちをラリアットで仕留めていたオスちゃん。流石の筋肉だ。
そして──襲撃は、収まった。
敵は全員倒された。死んだ奴もいるだろうが、襲って来たのはあっちだし。
終始、敵が無口だったのでアレだが、こいつら割と弱かったな。
というか。
「弱すぎ」
レッタちゃんが首を回しながら腕を組んだ。
「あ、やっぱりそう?」
ハッチが銃を仕舞う。そうあの薬師さん、メイン武器は銃なのよね。
この中で一番殺意高い武器だわ。
『カァカァ』 ノアも余裕だったと言っているな!
「そうねえ。我もそう感じたわ」
『なぉおぉん』
口の周りが血塗れだ。シャル丸、戦った?
いや、きっとオスちゃんを噛み続けたんだろうなぁ。
「確かに弱かったな。このオレが一人倒せたくらいだし!」
「くすくす。師はどう思う? ……あれ」
あれ。
狼先生が、いない?
「狼先生?」
ハッチが声に出す。周りを見回すが──いない。
ん……なんだ。
地面に、小さい黒い煙があった。丸い真珠みたいなものが落ちている。
「レッタちゃん。これって──レッタちゃん!?」
急にふらりと膝をついたレッタちゃんに駆け寄って支える。
「ん。ごめん。大丈夫」
「大丈夫って! まさかまだ治ってないの病気!? あ、それとも頭痛の方!?」
「違うの。これは、別……大丈夫」
大丈夫って、凄い呼吸が小さいんですけどっ。
ハッチもオスちゃんも慌てて近づいて来てくれた。
◆ ◆ ◆
──弛んでいた。今更反省しても仕方ないか。
「すふふ。魔王フェンズヴェイ様ともあろう方が、単純に掴まりましたねぇ」
すふふふ、という歯の抜けたような笑い方が真っ黒な部屋に木霊する。
狼姿の魔王の首には、首輪。鎖に繋がれた四肢。胴にまで鎖が巻かれている。
身動き一つできない。
──これは。
「おっと。暴れない方がいいですよ!
その鎖が、あなたの体を食い込みますからねぇ!」
それは、鳥の頭を被った男。枝のような細い手を広げて笑っている。
『……なんの冗談だ? 現魔族中枢会議、『十二本の杖』のメンバーのスカイランナー殿』
嫌味ったらしくそう告げる。
スカイランナー。そう呼ばれた魔族の男は、すふふ、と笑う。
「単刀直入に言いましょう。ワタスシに、魔王の座を明け渡しなさい。すふふ」




