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【03】お前、剣じゃなくて槍の方がいいな【03】


 暑い。重い。頬に当たるのは、なんだ。蒸れた感じだ。

 優しい匂いだ。石鹸か?

 そういえば一昨日の雑草抜きの仕事の時に、お婆さんが花の蜜を固めた石鹸を作ったといって、貰ったな。


「すゃぁ……ししょぉ……すぃぃ」


 ……。薄く目を開ける。

 上はタンクトップ一枚で、俺の顔面に抱き着く銀髪セミロングの少女、ハルル。

 意外に大きいその胸が、俺の顔面に。


 ──約十年、世の中と極力絡まないように生きていた訳で、恋人などとは無縁な訳で……いや、そういう話じゃないか。


 寝たふりをするか。いや、俺は何を考えているんだ。

 とりあえず、起こさない程度に、ハルルの腕からゆっくりと抜けた。


 タンクトップが少しはだけて、へそが見えている。

 下はショートパンツだから、張りのあるふとももが見えて、どぎまぎする。

 うに、などと声を上げて寝返りを打つ。

 更にタンクトップがはだけて胸の、寸前、まで。


 ……な、何を俺は観察してるんだ。

 いや、見ちゃうだろ。普通。普通の男なら。

 

 こうやって静かにしていると、……こいつ、意外と可愛いな。

 程よく肉のある足に、腰はくびれもあり、手はしなやか。胸も、いい感じにある。

 跳ねた銀白の髪は朝日に当たって綺麗だし、目も綺麗な薄い薄緑色で、よく見れば顔立ちも、幼さはあるが、端正よりだ。


 ……あれ。ハルル、寝てるのに、なんで目の色が分かったんだ。


 目が合う。


「……えっと、師匠。その、み、見たいときは、起きてる時に、言ってくださいッス。その、寝てる時見られてるのは、流石に恥ずかしいといいますか、え、えへへ」


「ちょっとガチっぽい照れ方するな! そ、そんな感じで見てたわけじゃなくて!」


「あと、襲うなら、せ、せめて夜にお願いしますッス」


「襲わない!! マジでしおらしく言うのやめてくれっ」


 ハルルとの生活は、かれこれ一週間。

 一週間も経ったが、こんな感じで、俺は全然静かに生活出来ていない。




◆ ◆ ◆




「そうッス、今日、夕飯いらなくなるかもしれないッス」

 洗面所の方からハルルがそんな声を投げてきた。

 朝刊を読みながら、そーか、と声を上げる。


「また、ラブトルたちとクエストか?」

 ラブトル。ハルルよりかは先輩にあたる剣を使う職業勇者だ。

 メーダという魔法使いの勇者と一緒にパーティを組んでいる。


 彼女たちとは、以前、地竜退治の折、一緒に逃げた仲である。

 色々思う所はあるが、ハルルは、たまに彼女たちとパーティを組んでクエストをしているらしい。


「今日は違うッス! ほら、地竜の鱗の件」

「ああ、換金待ちだったやつか」


 地竜退治の時の鱗、依頼主に届けて換金を待っていたのである。


「依頼主の学者さんが、研究所に来て欲しいと言ってるそうなんで、行ってくるッス」


 直接お礼も言いたい、って言われててー! などと嬉しそうにハルルは笑う。


「交友関係は広い方がいいからな。仲良くビジネスディナーしてくればいいさ」

「えへへ、了解ッス~!」


 よし、一食作らなくて済む。


「そうだ、師匠! 今日も稽古、お願いしたいッス!」

「えー……」

「ぜひともー!!」

「いや、今から学者の所行くんだろ?」

「いやいや、十七時の約束なんで、夕方までみっちり時間空いてるッス!」

八時間(フルタイム)の稽古する気か!?」

「えへへ。体力には自信があるッス!」


 はぁ……。稽古の約束、しなきゃよかった。

 そう。俺は約束してしまったのだ。

 ハルルが『便利屋の仕事の報酬の代わりに、稽古をつけて欲しいッス!』と言い出したことから始まる。


 まぁ、金が無いのは事実だし、稽古くらいならいいか、と、OKを出してしまった。

 結果、一昨日も稽古し、今日もせがまれている。


「いやぁ、今日は、ほら、雨降るかもしれないし」

「朝刊には、この一週間晴天って書いてるッス!」

「この後、お前、人に会う訳じゃん? 汗かいてたら、ほら、心象が悪いよ?」

「じゃぁギルドの訓練場で稽古しましょう! あそこならシャワールームあるッス!」

「……一昨日やったからなぁ」


「だからこそじゃないッスかー! 師匠のススメで、槍に変えたんで、その訓練に付き合ってくださいッス!」


 そうなのだ。

ハルルと稽古、というか模擬戦をしてみて、分かった。

 こいつは、昔の俺(ライヴェルグ)の戦いをファンとして真似ていた。

 だから、ずっと剣を使っていたらしい。


 『お前、剣じゃなくて槍の方がいいな』


 ハルルにそう告げ、槍を教えた。

 槍にした方がいい、と言ったのにはちゃんと理由がある。


 一つ。薙ぎより突きの方が、得意だった。

 そもそも、ハルルは、目が良い。相手の動きを洞察する力に長けている。

 ハルルの突き出しは、中々に良かった。


 いくら『術技(スキル)』無しの状態とはいえ、俺に攻撃を当てられそうになったのは、正直、良い物を持っていると言わざるを得ないだろう。


 二つ。本人の性質。直線的な動きが多い。

 剣士は、意外と技術が必要な職業だ。


 斬りあいに持ち込む為、間合いを縮める技。

 相手の攻撃に合わせて最善を選ぶ、選択能力。


 選択の幅を広げるために、斬撃の種類は勿論、蹴り技、投げ技、武器折り、隠し技、目暗ましなどなど。


 ハルルは、剣の技が少なかった。それでいて、足が速く、スピード感のある攻撃が出来る。

 なら、相手の隙を一撃突く、槍。


 それか、遠心力で斬り裂くような薙刀のような刀槍がいいだろう。


 などと、アドバイスしてしまったのだ。


 正直、ハルルは、予想以上に飲み込みもよかった。

 それに、山育ちで瞬発力もあり、なんというか、原石というヤツを感じてしまったのだ。

 で、ついつい、色々教えてしまった……。



「師匠、一昨日はあんなに丁寧に教えてくれたのに……ひどいッスよ、およよ」



 着替えも終わったのかドアの向こうで顔だけ覗かして泣いたふりをしている。

 まったく。

「……わぁったよ。ちゃんと、教えるっての」

「えへへ! ありがとうございますッス!!」

「だから、すぐ抱き着いてくるなってのっ」



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