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【11】正義であります【23】


 ◆ ◆ ◆



 ──魔族の集落というものは、残念ながら我らが王国の土地に幾つも残っているのであります。

 ここもそう。悲しいのであります。


「『トラルセン条約』、第三。住居の限定であります。

魔族は王国監視領である西方諸島以外に住んではいけないと明確に定めているのであります」


 鉄を焼いたような赤い髪を一つ結いにした少女。輝く赤い瞳。

 背丈は極端に小さく、年の頃は十五歳くらいだろうか。

 白い長マントを靡かせて、彼女は心底悲しそうに呟いた。

「ティスさんっ! 攻撃来ます!」


 ティス。彼女は自分の名が呼ばれて眉を動かす。

 まるで蟻塚。岩山を要塞のようにしたこの集落。

 南方地区の五階建ギルドみたいな大きさだ。

 実際に、要塞化されている。上から今まさに矢が放たれていた。


「同、第五。武器の放棄に違反しているのであります」


「それは分かってたじゃないですか! ここに来た時点で魔族は敵対の意志があっ──痛っ!」

「おや。大丈夫でありますか? 矢は避けるか落とすかした方がいいでありますよ」

 足を射抜かれた部下に問いながら、ティスは自分の得物を構えた。


「やれやれ……無駄な抵抗でありますな」


 その得物は、ティスの身の丈ほどの巨大な鉄槌(スレッジ・ハンマー)

 ただ大きくした無骨な金槌と言った方が良いだろう。

 血塗れのハンマーヘッドには『正義』の二文字が刻印されているだけの、無骨で巨大な金槌だ。


 そんな超重量級の金槌を軽く振るい、矢を叩き落とす。


「もう戦いは終わっているのに。

何故、『悪党』は今際の時も矢を撃つような真似をするのか、理解できないであります」


 終わっている。

 その通り。この城壁の攻防は最終局面だ。

 というのも、ティスの命令で一階から村落に火を放った。

 良く燃えるように周囲や壁にも硬油(オイル)を塗り込んで。


 そろそろ三階まで火の手が上った。

 悪魔たちの叫び声や断末魔が聞こえる。


「……よ、よろしかったのですか?」

「何がであります?」

 部下の足から矢を引き抜き──血が思ったより大量に出て、処置を間違えたなぁと内心困りながら──ティスは首を傾げる。


「非戦闘員も……いたのかと」

「非戦闘員?」

「え。ええ……ここは魔族共の村落です。だから……」

「ああ。それは──」


 話している最中、爆発音がし頬が熱くなるほどの光があった。

 ああ、何かに引火して爆発したのだろう。


 そして、叫び声を上げ、何かが落ちた。


「おお。燃える村からの決死のダイブ。なるほど、生き残る為に当然といえば当然でありますな」


 赤い一つ結い(ポニーテール)の少女、ティスは巨大鉄槌(スレッジハンマー)を引きずって落ちた物に近づいた。


「っ……あ、ああっ。勇者様。どうかっ、お見逃し、くださいっ」

 それは、緑色の肌を持つ半人(デミ)──野小鬼(ゴブリン)だった。

 野小鬼(ゴブリン)とは、背丈が人間より低いが会話も出来る種族だ。

 大昔は人間と交流も深かったとされているが、魔族側に付いている種族だ。


 その落ちてきた女性ゴブリンは──両脚があらぬ方向に向いている。あの高さから落ちたのだから当然か。


 そして、その腕の中には、それも緑色の赤子がいた。

 オギャァオギャァと泣いている。


「あの高さを飛び降りるとは。大した勇気でありますな。しかし、今は戦闘中でありますよ」

「う、うう。この子だけでも。どうか」

「大丈夫でありますよ」

 ティスは聖母のように微笑んだ。

「あ、ああ。ありが──」


 一薙ぎ。


 母ゴブリンの頭が地面に転がる。

 そして、その腕から力が抜け──赤子が転がり落ちてティスの足にぶつかる。


「大丈夫でありますよ。母も子も、助けるつもりなど毛頭有りませんから」


 力任せに、赤子の頭を踏む。

 甲高い叫び声が上がる。それでも力は緩めない。

 赤子の頭蓋は思っているよりかは頑丈だ。

 だから、仕方なく、ティスは鉄槌(ハンマー)を構えた。



「次は人間に生まれられるといいでありますね」



 ──振り下ろされた鉄槌。

 持ち上げると、べちゃりと臓器やら血管やらがこびり付いている。

 気持ち悪い、とティスは苦い顔をする。


 軽く振り回す。血飛沫が床に飛び散る。

 まだ鉄槌(ハンマー)に残ってる血や汚物。

 部下に拭かせようと決めた。


 矢を受けた部下が、うっ、と口を押えていた。


「あ、赤子まで、殺さなくても。ティスさん」

「え? 赤子は殺さない方がいいのでありますか?」

「そう、ですよ。だって」



「どこに書かれているのでありますか? 魔族の赤子は殺すな、と?」



 ティスはその鉄槌(ハンマー)を部下の男の顎に当てる。

 まだ温度の残ったぬめりのある血が、男の頬から足に落ちた。


「王国法にも勇者法にも書かれていないのでありますよ」


「そ、そうですが」


「そして、言うのであります。

『とはいえ赤子や子供は可哀想だ。殺してはいけない。見逃してやろう』と、偽善者がしったような優しさを振りまく。

しかし、生き残った魔族の子は復讐の意志を持つのであります。

結果として我らに敵対するのでありますよ」

「っ……」


「思うのであります。その偽善者ってつまり実質、魔族(てき)側じゃね? であります」


 鉄槌(ハンマー)が、部下の足に食い込む。

「ぎぃっぁああ!!」

「正義を忘れるなであります。魔族を滅ぼす。それが正義であります。

そして、魔族を滅ぼそうと決意がある自分たちが──正義であります」


 鉄槌が振り下ろされる──その瞬間。


「ティス。報告に来たのだが」

 ──無精ひげの男がいた。

 衣服はボロボロ。年季の入った腰巻に、武器と呼べそうなモノは背にある棒だけ。


「スタブルさん。どうしたのであります? 確か、どこかの村の駐在中であったと思ったのでありますが」

「ああ。そうだが、どうしても報告しなければならないことがあって来た」

「そうでありますか。こちらももう終わる所なのでありますよ」

 部下の横に鉄槌を置き、スタブルの元へティスは歩いた。


「ああ、その鉄槌(ハンマー)。綺麗に磨いておいて欲しいであります」

 助かった、と胸を撫でおろした男にティスは横目でそう指示を飛ばした。


「部下を嬲り殺しにするのは、流石に不味いぞ」

「物騒なことを言わないでください。さっきやろうとしたのは正義の教育を施そうとしたまでであります」

「正義の教育ね。ティスの教育なら死人が出そうだが」


「……スタブルさん。自分は貴方の上司に当たります。

年齢は確かに十三個も下でありますが。自分への敬語と敬称を要求するであります」


「ああ。気を付けよう。で、ティス。報告を聞いてくれるか?」

 のっぺりとしたスタブルの言葉にティスは、はぁ、と息を吐いた。


「本当にスタブルさんはマイペースであります……で、報告はなんでありますか?」


「ああ。駐在中の勇者が殺された。生き残ったのは俺とバーンズだけだな。

指名手配の黒い男。それと、そいつの仲間に殺されたと思われる」


 ティスはしばらく歩いてから野営のテントに入る。

 そして、椅子に座って、言葉を反芻し、腕を組んだ。


「……それ、大事件では?」


「だな。だから馬を飛ばして急いできた訳だ」

「……とりあえず。本部へ連絡であります……」


 

    



 

 


◆ ◇ ◆


いつも読んで頂き、本当にありがとうございます!

いいねや、評価、それにブックマークもこれほど多く頂き、感謝してもしきれません。

心より深く感謝させて頂きます。本当にありがとうございます!


また少しばかりですが、本日はこの後におまけを投稿させて頂こうと思っております。

備忘録代わりの二点ですので、作中本筋とは別の為、読み飛ばしてしまって大丈夫です。


これからもまだ続きますので、何卒ご容赦ください。

誤字脱字もほぼ毎回出ている文章ではありますが……

毎回、付き合っていただき、本当にありがとうございます!

今後ともよろしくお願いいたします!

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