表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

168/836

【11】狼先生の魔法習得講座【16】


 ◆ ◆ ◆


 カシュちゃんを見送った翌日の昼下がり。

オレと狼先生は、部屋の外でぼけーっと日向ぼっこをしていた。

 というのも、オレらにとっては室内にいるのが不可能だからだ。


「先生。髪の毛の色くらい、魔法で変えられないんですか?」

『そういう魔法があるのかもしれないが、私は知らないものでな』

「全ての魔法を極めた魔王なのに?」

『……いや、別に全ての魔法を極めたとかじゃないが……』

「髪を染める魔法、作ってくださいよ。無臭の」


『まぁ……確かに、挑戦してもいいかもな。無臭の』

 無臭の。と強調するくらいだからお察しの通り──髪染めが臭くて仕方なかった。

 赤毛草(あかげそう)という薬草の葉は薬に、根は何種類かの草と薬と合わせて煮詰めれば染物に使えるらしい。

 色移りし辛く、色落ちも少ない強力な染料。髪の毛を染めたり、衣服の色を出したりと重宝するそうだ。


 が──臭い。ともかく臭い。

 家の外まで臭ってきてる気がする。


 オレらは魔女の家から少し離れた大木の影に逃げた。

 ジリジリと暑い。


「暑ぃ……先生、魔法で涼しくしてくださいよ」

『嫌だよ』

「どうしてですかー……」


『冷風や冷気の魔法は魔力使用量に対して排熱量が自分に来る。

他者を冷やすということはイコール自分を熱するということで……』

「狼先生……いつものことですが……分かりやすく言わないと分かんないッスよ」


『……団扇(うちわ)で扇いでくれ先生、とガーが私に言っているようなもの、だ』

「おお、分かりやすい。そうか、それなら、嫌ですね」

 煙草に火を点け、狼先生が嫌そうな顔を向けてくる。


『よく吸えるな、そんな草木の欠片』

「はは。逆に先生が吸わないのが不思議ですよ」


『何?』

「なんか、魔王って吸ってそうじゃないですか? 葉巻をじりじりと」

『そうか? まぁ世間のイメージはそうかもしれないが、私は一切吸わない。

会議中も部下に吸わせたことは無いな』


 指に挟んだ煙草を見やり、狼先生を見る。

「えーっと、オレ、煙草吸ってて殺されたりします?」

『そうだな。噛み付いてしまうかもしれないな』

「おっかねぇ」


 そう言いながら煙草を吸って煙を吐く。ああ、そうだ、輪っかを作ろう。

 口の形を「お」にして、舌をぴったり下に固定して。おっおっ、と言うようにして。

 ドーナツのような煙に、狼先生がぴくっと耳を動かしてから目で追っていた。

『そんなことも出来るのだな』

「わりかし、有名な技術ですけどね」

『そうなのか。面白いじゃないか』

 尻尾をぺたぺた振っている。その尻尾がオレは面白いけどな。

 口調は変わってないが凄くテンションが高そうだ。

 風が流れる。雲がデカい。空も青くて、暇な色だ。


『ガーよ』


 不意に狼先生が声を出した。

「はい?」

『魔法……教えてやろうか』

「え? 急にどうしたんですか?」

『ふと思っただけだ。今後、あの子と一緒に居るなら戦いは避けられないだろ』

「まぁ……そりゃ」

『もちろん、無理にとは言わないが』

「断る理由はないですし、ありがたいですけど、オレ、魔法学とか人生で一度も触ってないですよ。学校も中退だし」

『なら教え甲斐がありそうじゃないか』

「ええ……まぁ、物覚え悪いんで、根気強く教えてくださると助かります」


『そうか。お前も根気強く学んでくれ』

「あと、分かりやすくお願いします」

『まぁ、善処しよう──所で、ガーにとって魔法とはなんだと思う?』

 魔法とはなんだと思う???


「どういうことですか?」

『そのままの意味だ。自分の言葉で教えてくれ』

 魔法かぁ。

 魔法って、面倒臭そうだなぁと思う。じゃ、回答にならないもんな。

 今までオレが見てきた魔法から考えるか。……生活魔法かな。オレは興味無くて使っていなかったけども、物を小さくして運んだり、料理をしたりする魔法だ。とても便利、っていうイメージだ。


 戦いで使われる魔法は、あんまり覚えがないな。

 なんか遠くからデカい水の塊とか、炎の塊を飛ばすようなイメージはあるけども。

 う~ん……。



「魔法って、原理とかよく分からないし、難しそうなモノですかね」



『……ふっ。はっはっ、凄い回答だな』

 何故笑われるのか。

『すまんすまん。そうか……難しそうか』

「変ですか?」

『いや。そうじゃない。そうだな。簡単な心理テスト、とでも言うべきか』

「はぃ?」


『魔法とは何か、の答えが『自分の魔法の発動方法』であり、自分の得意な属性となる』


 ……オレ、難しい発動方法で、難しい属性ってこと??


『そんな不安な顔しなくてもいいさ。

自分の根底にある魔法の姿なだけで、厳密に言えば魔法が使えない生命体などいない。

……そうだな。ガー。お前には単純で発動しやすく、原理も分かるモノがいいんだろうな』


「そんな魔法があるんですか??」

『あるとも。それに……そうだな。ふむ』

「?」

『ああ、すまん。気にしないでくれ。ガーに教える魔法は『鉄』の魔法だ』

 鉄の魔法?


「二人とも、お待たせ! 髪染め終わったから昼ごはんにしましょうか!」


 ハッチの声がした。返事をしようと顔を上げる。


「ん、昼飯か……おお」

 その髪の色、そして、長さが変わっていた。

 染め上げられた赤。地毛(もと)の蜂蜜色と混ざったからか、光沢のある赤黄色とでも呼ぶような色になっていた。

「髪も切って、随分とさっぱりしたな」

 長かった髪が、耳が出る程短くなっていた。

 大分、印象が変わる。勝気さに磨きがかかったとも言えるが、素直に綺麗だ。


「短くしたな。色も綺麗で似合ってるし、いいじゃん」

『ああ、鮮やかだ。染髪、今の時代はこんなに色鮮やかなのか』


「もー。照れるって! でも、褒めてくれてありがとね」

 ちょっともじもじしてからハッチは微笑み返してくれた。


『ふむ。では昼食の後から魔法練習をしようではないか』

「りょ、了解です」

「何、ガーちゃん。魔法勉強するの?」

「そ、その予定!」

「がんばりなよ〜」

 悪戯っぽく笑われる。


『大丈夫。一つずつゆっくり教えてやろう』

 なんか今日の狼先生、ちょっと優しいな。



◆ ◆ ◆



 そして、その翌日の夕方ァ!!

 魔法って!! 難しいなァ!!!


 ハァ……ハァ……、変なテンションになっちゃうよ。


『う~ん……昨日もそうだが、今日も上手くいかないか。

ここまで進捗が悪いとはな』

 狼先生は優しく教えてくれているが……どうにもオレ、魔法を上手く使えていないのである。


「くそぉぅ。やっぱりオレに魔法は無理なのか……」

『無理なんてものはないさ。そうだな、なんだろうな。魔力捌きが雑、とでも言おうか……』


「魔力捌き??」

『造語だ。体捌きとか言うだろ。

体の動かし方が早いが雑な奴がいるのと同じように、お前は体内の魔力が一気に集まりやすいんだよな』


「うーん。せっかちってこと?」

『そうだな。瞬間で高い魔力は集められるんだが、上手く行かないモノだな』


「あ、まだ造形練習?」


 夕焼けに照らされながら、ハッチが歩いてきた。

「そーだよ」

『ん? 夕飯にしてはまだ早いな。なんだ、あの子がもう起きたか?』

「ううん。逆。今日は熟睡してる。夜まで起きないかもね。昼に強い薬飲んでもらったから」


『そうか。ならまだ練習できるな』

「おっしゃ、がんばるぜ……」


 カラ元気である……。

 魔力を使えば疲労する。ちゃんと発動出来なければ尚更だそうだ。


 手に溜めた魔力を砂に与え、形を作る魔法。

 魔法の基礎の基礎らしい。


「ああ、魔法造形練習ね。アタシも昔やったなぁ」

 ハッチが人差し指で砂に触れ、ゆっくりと指を上にあげる。

 砂が、まるで磁石に引きずられるように指に向かってついて来た。


「すげぇ……」

「凄くないよ。これはただ釣り上げてるだけ。

魔法が上手い人ならもっと色々出来るけどね」


「マジかよ。オレ、さっきから何やっても砂がうにょうにょ動くだけだぜ……」


 砂に手を当てる。ふんっ! と力を込めても……なんか蚯蚓がのたうつみたいな動きを砂がするだけ。


「うわっ……なんか、ちょっと気持ち悪いわね」

「気持ち悪い言うなや」

「ごめんごめん」


『ここまで魔力の放出が苦手とはな……ふむ。

ハッチ、何かアドバイスはないか?』


「アドバイス? アタシから??」

『ああ。同じ人間なら何かあるかと思ってな』

 うーん、とハッチは頭を捻る。


「魔法、そういえばラキが教えてくれたわね

目を瞑って魔法を出したい場所を黒く塗るイメージだったかしら。

例えば、手の上に炎を出したいなら、手の上に黒く炎を塗るイメージ」


「ほう! コツっぽいコツだ!」


 魔法を出したい場所を黒く塗──ん?


 今、何か高い音がした?


「なんか、変な音しなかった?」

「確かに聞こえた気がする」

『うん? どうした?』

「あ、先生は聞こえなかったのか? え、じゃあ気のせいか……?」

 

 いやでも。


 ふと、背後を振り返る。あっちは南東で深い森が続いている。

 その森から、何か煙が出てるように見えた。

 あの場所って。


「ハッチ! あの煙の場所って!」

「……! まさか、あの辺って……薬草園のところあたりじゃない!?」


 

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ