【11】小さい子のモノ覚えって凄いわ【13】
◆ ◆ ◆
コミュ力高いの、羨ましい。
特に、小さい子との会話なんて、オレ出来んよ。凄いな、二人は。
今は薬草園に行く途中だ。
ちなみにレッタちゃんはまだ眠っているので、狼先生とノアは魔女の家でお留守番である。
カシュちゃんは、お母さんが病気になってしまって、それで一人で魔女を探して森まで来たそうだ。
だから、最初は、ずっと暗い顔をしていた。
なんて声を掛けていいか、分からなかった。
だけど……ハッチは話しかけた。
『今、どんな遊びが流行ってるか教えてくれる?』
そして、遊びを教わり、一緒にやり、気付いたら。
「「オリンセイアの岳の上~♪」」「ハァどっこぃ!」
「「羊を運んで~鐘を鳴らして~♪」」「サァそやさっ!」
「「ぶどうを踏みましょう~♪」」「イィィハッ!」
大合唱である。
ハッチとカシュが楽しそうに童謡を歌い、それに合わせて合いの手をオスちゃんが入れている。
いやしかし合いの手、渋すぎん?? まぁ、楽しそうだからいいのか?
実際、歌を歌って緊張や心配を少し吹き飛ばしたみたいだ。
今は、年相応。これが一番。
暗い顔をしているより、笑ってる方がいいな。
そういえば、この童謡、オレは聞き覚えないけど、有名な手遊びの歌らしい。
本来は、歌のリズムに合わせて手を叩いて遊ぶそうだ。
こう、相手の手と手を合わせたり、肘と肘を合わせたりする。
ふと、カシュちゃんが振り返った。オレと目が合う。
「さん、はい!」
「え……え!?」
「さん、はーい!」
歌え、と! 歌、歌を!
「ガー。オリンセイアの~」
知らないし、オレ、歌下手なんだけどなっ……。
とはいえ、もうリクエストされて、カシュちゃんは指揮者のように拾った木の枝を構えている。
歌を断って暗い顔をさせるくらいならっ。ええいっ。
「お、おりんせェいアッ~の~たけの~うエッ」
声が裏返って散々だ。
「ははっ、ガー、下手っぴ!」
「ほっとけっ!」
オレとハッチの掛け合いに、カシュちゃんは笑ってくれた。
なら、まぁ、ちょっと良かった……のか?
◆ ◆ ◆
「オ、オスちゃん、大丈夫なの? そんな、噛まれて」
カシュちゃんがおっかなびっくり言っている。
まぁ、うん。初対面の六歳は引くよね、この光景。
「ええ、平気よ! 鍛えてるからね!!」
頭にがぶっと、有翼子獅子がくっついている。
えぐい血が飛び散っており、まぁ、子供にはトラウマ映像になりそうなので、
なるはやでオレとハッチが間に入った。
「シャル丸? こんな変なの食べても美味しくないわよ?」
「にゃぁごぉ」
ハッチに口の周りの血を拭いて貰いながらネコナデ声を出す小さい羽有の獅子、シャル丸。
見た目は子ライオンに羽が生えた可愛らしい姿だ。だが。
ハッチが抱き上げると──その大きめの胸の間に顔を埋めている。
なんか、幸せそうな顔してる。
絶対にそういう性を秘めてると思うんだけどなぁっ!
「薬草、ここにあるの? この花?」
「ううん。それは違うよ。これは白編草。
花、可愛らしいよね、ちっちゃくて」
「うんっ! 可愛い白編草!」
おお、もう花の名前を覚えた。凄いな、小さい子は。
「へぇ、そんな小さな花にも名前があるのねェ」
「オレも知らなかったわ」
「そうよ。名前の無い花なんて無いんだから。
ちなみにこの子は道端に普通に生えてる所謂雑草よ。この時期は花開くだけでね」
へぇ、そうなのか。雑草も可愛い花を咲かせるんだなぁ。
「シャル丸~、この子も薬草園に入れていいかしら~?」
「にゃおにゃおぉんっ」
「かわいい」
シャル丸を撫でるカシュちゃん。
やっぱり、女の子には絶対に噛みつかないし、オレにも噛み付かない。
オスちゃんだけ特別ってことだなぁ。いい意味よ、いい意味で。
ハッチとカシュちゃんが先行して岩山に入る。
「ここ?」
「そ、岩山に隠してあるんだって。外から見たら岩山だけど……ほら!」
オレらも続いて入る。
赤、白、黄に橙。点描画のように見渡す限りの色とりどりの花々。
風にもまれて舞い上がった花弁が絵画のようだ。
澄み切った小川に花筏は浮かび、何十種類もの木々は風に歌っているように揺れる。
カシュちゃんは、目をらんらんと輝かせていた。
女の子は、やっぱり、花が好きなのね。
オレですら、感動した綺麗な花畑の丘だ。この子にとっては忘れられない体験かもしれないな。ああ、早く、レッタちゃんに見せたいな。
空を見上げる。上空だけは空気の層みたいな魔法があり、空が二重に歪んでいる。
「さて、薬草を摘むわよ~! 一緒にやろっか、カシュちゃん!」
「うんっ!」
ハッチが薬草の花の名前を教えながら摘んでいた。
なんとも楽しそうである。
「これが白切蕗、手鞠薊」
「しろきりふき、てまりあざみ!」
「赤毛花。優しく抜いてあげてね今回使うから」
「あかげばな!」
「梔子も。月割草も」
「くちなし、つきわりそー!」
「離香蘭、竜食花。この二つは使わないわ」
「これが、りこーらん。りゅーしょくか」
「あ、そこに赤毛花が咲いてるわ。抜いてごらん」
「はーい!」
「もう赤毛花を覚えたのね! 凄いわー!」
「えっへん!」
「あとは、夜咲鬼灯。清花ね。取っていくわよ」
「やしょーほーずき、はっかー!」
「あ! カシュちゃん! ダメ! それは直接触ると手が痒くなっちゃうの!」
「そうなの?」
「うん。仙日草はね、その可愛い花が毒で、触ったら痒い痒いになるの。危ない花なの」
「せんにちそー、あぶない!」
凄いな。カシュちゃん。どんどん薬草を覚えてるんじゃないか?
小さい子のモノ覚えって凄いわ。興味があるモノをどんどん覚えてく。
あれだな。吸収力が凄いってやつだ。
オレは全然覚えられないが。精々あの赤毛花ってのが薬のベースになるってのと。
後は高額な……ん? 高額な薬草。なんか、心当たりがある。
そうだ。竜食花!
たしか、あの竜食花。花びら一枚が……一枚が!
「花びら一枚が金貨十枚の価値! 金貨百二十枚さんだッ!!」
超高価の超希少な魔法薬草!!
「びっくりした。ガー、アンタ知ってるの?」
「ああ、実は……あー。ちょっとあってね。レッタちゃんに聞いた」
……嫌な記憶が蘇っていた。王鴉が一緒に旅をすることになったきっかけの事件。
その時にボンクラ貴族が要求していたのが、超高級薬草の竜食花だった。
その高級薬草が、今目の前にっ。しかも、五本くらい咲いてらっしゃいますね!
「金貨六百枚がそこに……!」
「今回は使わない花よ。必要な人が現れるまでそっとしておきなさいよ」
「っ……ほ、いっ」
振り返るとシャル丸の目が座っている。
そういえば、シャル丸は人語をしっかり理解しているそうだ。
「だ、大丈夫だよ。そんな盗むようなことしませんって、ははは」
ため息。そして、苛立ちの目で見られた。
パタパタ飛んで、オレ──を通り過ぎ、オスちゃんの足元に移動した。
そして、歯を剥き出しにして、膝にがぶりと噛みついていた。
「なんか痛い!? なんで我!?」
責任者が喰らえ! ってことかな?
というかなんでちょっと韻を踏んで痛がってんだ……?




