【11】魔女 ヴァネシオス【06】
※変更報告です※
いつも読んでくださいまして、本当にありがとうございます!
前話に登場した単語である半人ですが、
作中に意図しない意味を有しており、
混乱を避ける為、別読みのフリガナを追加致しました。
変更前 半人
変更後 半人
本話より統一させていただきます。
また、ストーリー等の変更はございません。
申し訳ございませんでした。
◆ ◇ ◆
◆ ◆ ◆
鬱蒼と茂る深くて暗いの森。昼でも夜みたいに暗い。
だが、道は割と進みやすい。
更に爬虫人のヴィーヘさんが先導してくれるから迷うことも無かった。
「もうじき、魔女の家です」
「すみません。道案内までしてもらって」
ハッチが丁寧に言う。
蛇頭の爬虫人、ヴィーヘは「お気になさらず」と声を上げた。
「半人は手を取り合うべきですから。
昨今は半人への弾圧はとても強いですしね」
『確かに、爬虫人なんてよく弾圧されずにこの辺りに住めているな』
「あ、言われてみれば。ここ王国領だもんね。
今の『勇者法』に当て嵌めると爬虫人って確か」
二人の言葉に、ええ、とヴィーヘさんは頷いた。
「爬虫人は魔族種に認定されておりますので、西方諸島へ強制移送ですね」
西方諸島。それは大陸最西端……その北にある諸島だ。
旧魔族領の四分の一にも満たない諸島だ。現在、その諸島だけが魔族種の唯一の国である。
だが……その諸島の気候も土地も峻厳である。
年間を通して気温は低く、一年の半分以上は冬と言ってもいい。
作物は育ち辛く、山々は鋭く切り立つ世界だ。
詳しいだろ……まぁ、オレ、大昔はその辺に居たからねぇ。
「ただ、我々爬虫人は、西方諸島に行けないですからね。
あんな厳冬の大地に行ってしまったら、半年持たずに全滅してしまいますから」
体を大振りに、きっと笑って見せているのだろう。
「全滅って。そんな」
『ハッチよ。爬虫人は温かい所にしか住めないのだ』
「え?」
「はい。そうですよ。ロドラゴの樹の根は温かったでしょう?
光りと温度を生み出すロドラゴは、我々の宝です。
だから、あの土地をあらゆる手段で隠しているのですよ。
我々爬虫人の生命線ですね」
……戦争で負けたから、土地を離れて西方へ行け。
それが人間の法律だ。
だけど、この場所でしか暮らせない爬虫人は、死に物狂いで自らの居住区を隠したのか。
「……オレら、そんな大切な隠れ里に招いて本当によかったのか?」
「はい?」
「だって、オレら、人間側に隠れ里の場所、言うかもしれないぜ?」
「ははは。言わないと思いますけどね」
「でも……二人は、人間だぜ。というかオレも、混血だけど人間種よりだし。
信頼していいのか、人間を、さ」
問うと、ヴィーヘさんは腕を組んで見せた。
「ヴィオレッタさん、狼先生さん、ハッチさん、ノアさん、それに、ガーちゃんさん。
それぞれに、名前があり、個人があります」
一部名前じゃないのが居る気もするが!
「種族は大切ですが、全てではありません。私も爬虫人ではありますが、
ヴィーヘという個人です。……人間という括りで見るということは、私は出来ないですね」
本当に、素敵な人だ、ヴィーヘさん。
「あ。あちらの家が魔女さんの家です」
良い言い方をすれば、シンプルなログハウスだな。
言ってしまえば味気の無い木の家だ。板を力技で張り合わせたような、壊れそうな家に見える。
「では、少し話をしてきますので、お待ちください」
◆ ◆ ◆
さて、深くて暗いの森の魔女についてのおさらいだ。
魔女の背丈は大柄。そして胸は大きく、服装は特徴的だと伝えられた。
なんでも上半身はほぼ全裸で、乳首に星型のシールを張っているだけだと。
そんな恰好なら、色欲の魔女とか痴態の魔女と呼ばれちまうぜ!
……ひゅぅ!
と、内心では下心満載だが……本命の手前、静かに下心を隠しているのである。
「ねぇ、ガーちゃん。質問していい?」
レッタちゃんを抱き起している時、訊ねられた。
ちなみに、レッタちゃんの腕がボロボロだから、手で体を起こせず座ることは一人で出来ない。
だからオレが抱き起したわけだ。
「ん? なんだいレッタちゃん」
「ガーちゃん、胸大きい人が好きなの?」
「ひぎ?」
ひぎ、ってとんでもない声を上げたオレです。
「ずっとガーちゃんの顔、にやにや顔してるから」
マジか。そんな顔してた!?
「い、いや。誤解だ、レッタちゃん」
「?」
「一番可愛いのはレッタちゃん!
細くて綺麗な足と人形みたいな顔に華奢な体が最高だから!!」
「くすくす。嬉しい。ありがと。でも
──質問には答えて貰えてないなぁ」
「ひぎぃ」
「質問は、胸が大きい人が好きなのかどうか、だよ?」
なんか目が怖い気がするぜ!?
「た、確かに……大きい方が好きかもしれませんっ!
でも!
好きになった人の体が一番好きです!!」
「ガーっ! 大声でアンタ何言ってんのよっ!」
ハッチが後ろからべしっと背中を叩いてきた。
確かに変態発言だった。すみませんっ!
と、レッタちゃんに視線を戻すと、なんだか優しい顔をしていた。
「やっぱりガーちゃんはガーちゃんだね。よかったよかった」
レッタちゃんはくすくす笑っていた。
「とってもいい言葉、聞かせてもらったワ!! 素敵ネ、貴方!!」
バーン! と扉が開き、そんな声がした。
……低い声。
上裸。筋肉が隆起した──男。
あ、乳首に星のシール張ってあるね。うん。
「好きになった人の筋肉が一番好きって言ったワネぇ!!」
「言ってないわねぇ!? 体っつたんだけど!?」
思わずツッコンでしまったが。
いや、なんかもう嫌な予感がする。
冴えた上腕二頭筋をこれでもかと強調する両腕。
世間でよく言うマッスルポーズをしている。
「そう! 恋した相手の肉体こそ、本当に欲情に足るモノ! それこそ心理!」
そして、鉄板のような厚い胸肉を見せつけられた。
ゴツゴツと無骨な岩を張り付けたような太い腕に、彫刻のような足。
「ただ足りてる? 筋肉は足りてる?
つまり、恋した相手がさらに喜ぶような筋肉よ!
我は欲した! 自分に足りてると思えなかった! だから鍛えた!
この肉体は、いうなれば愛の証なのヨ!」
オレも、ハッチも……ノアも狼先生も目が点で固まっていた。
そして流石のレッタちゃんですら固まっている。
鬱蒼と茂る深くて暗いの森の木漏れ日の中。
ムキムキの男。
その隣に、ヴィーヘさんが立った。
「皆さん。彼女が、魔女のヴァネシオスさんです」
ヴィーヘさんは動じず冷静である。ああ、慣れてるだけか?
筋肉ムキムキの魔女。
ああ……肉体は男である。雄である。筋骨隆々の漢である。
いうなれば。
筋肉魔女。
「はじめまして! 我、深くて暗いの森の魔女、ヴァネシオス!
オスちゃんって呼んでいいわヨ! よろしくぅ、ネ!」
ああ、見事なシックスパッドだ。




