【番外】クロニクル・オブ・ブラック【01】
本編外の回です。
──その日、ハルルはギルドのクエストを受けて、朝から居なかった。
その上、俺は今日は休日。まぁ、何もすることが無いので部屋を掃除している。
さて。俺、便利屋のジンは、魔王を討伐した勇者である。
と言っても昔の話だ。今は勇者でも何でもないただの便利屋なのである。
当時、まだ十六歳だった俺は、顔を黄金の獅子の全覆兜で隠して戦っていた。
だから、誰も俺の素顔を知らなかった。
そういう、ミステリアス? な部分も合ってか、当時は多くの雑誌取材を受けた。
ハルルが無造作に机の上に置きっぱなしにしている雑誌に目をやる。
『その時、勇者が動いた』というタイトルの雑誌と、黒歴史の塊である俺の詩集……。
今思えば、詩集出してください、なんてクソオファー、なんで出したんだろう。
燃やしてしまいたいが、一応、ハルルの持ち物だし。燃やせないし。
……しかし。そういえば。
前回、ハルルと公園で読んだ時、ある程度の場所しか読まなかった。
他のページには何が書いてあるんだろうか。
……。…………。
少しだけ。読んでみる……か。
◆ ◆ ◆
『その時、勇者が動いた -勇者の兜の下に迫る百の偉業編-』
キミは 魔王討伐の任を与えられた 勇者ライヴェルグ を知っているか。
彼の偉業の総てを、我々は独自に調査し、詳細に記す。
彼の力なら、魔王討伐の日は、人類の領地再生は、もう間もなくだと断言できる。
【爆裂魔法を受けても平然と立つ!】
攻城特化の高火力魔法の総称──爆裂魔法!
その内の、魔族どもが使う【焔槍】と呼ばれる危険な魔法を、
あの勇者は直に受けて平然と立っていたのである!
【魔族大隊、単独突破!!】
ライヴェルグの華々しい戦いぶりの中でもロルバッダ戦役を知らない者はいないだろう。
ライヴェルグが単独で魔王軍の大隊を撃破せしめたのだ!
※魔王軍小隊=15名。中隊=30名。大隊=45名。
【素手で幹部を撃破!】
もはや、幹部に対して武器は不要!!
ライヴェルグはなんと、武器を持たずに幹部のいる本陣に突撃!!
幹部を討伐せしめたその体術は、最強の名にふさわしい!!
【王国騎士、千人斬り!】
先月、勇者との組手をやったある王国騎士が語る。
手合わせで、何名でも来るがいい、とライヴェルグが挑発!
だが、あまりの強さに、王国騎士総員が医務室送りになった!?
【敵城壁を爆破!】
ライヴェルグのやることは、やはり天衣無縫!
ヴィシ・オ・セア城壁を攻略する際に、
なんと、遠隔魔法で爆破してみせたのだ!!
【ええ!? 伝説の聖剣、折っちゃった!?】
ライヴェルグの面白いエピソードの一つ!
なんと彼は、自分の聖剣テンプス=フギトを力のあまりに折ったという!
聖剣だから治ったらしいけど、勇者のお茶目な一面にほっこりだ!
【彼女が100人!?】
村に行けば、必ず、勇者の彼女がいる!
英雄、色を好むとは昔から言うが、まさにそう!
どの村を取材しても、私、ライヴェルグ様の彼女……!という発言があるぞ!
【兜の下は絶世の美女!】
これは、我々も調査中だ!
だが、そうに違いない! 取材班が調査しに行った時、ライヴェルグ自ら、
料理をしているところを発見! その際も兜を付けていたが……!
兜の下はいまだ謎だ!
だが、もし女の子だったら、あのきめ細やかな美しい技の数!
納得がいくんじゃないか!
◆ ◆ ◆
納得がいくんじゃないか! いや、いくか!
勢いだけで押し切ってる。やばい雑誌だったな。
後は……勇者パーティー大全と……詩集か。
大全は、俺のページだけ読んでおこうか……。
◆ ◆ ◆
『雷の翼 勇者パーティー大全 -超完全決定版-』
★ライヴェルグ・アルフィオン・エルヴェリオス・ブラン・シュヴァルド
年齢【非公開】 性別【非公開】 素顔【非公開】
身長【168cm】 体重【51kg】 血液型【O型】
流派
【我流】
武器
【聖剣 テンプス=フギト】
術技
【迅雷】
雷系統魔法の強化と、使用魔力踏み倒し。
自身に雷属性付与。高速移動も可!
★大技一覧
【極雷閃】 勇者ライヴェルグの技といえばこれ! 雷撃のような剣裁き!
【真雷閃】 派生技。一撃の破壊力◎
【双雷閃】 聖剣を用いた二刀流の大技!
【迅雷閃】 聖剣に雷を宿した高速剣技!
【破天滅裂】 上下同時攻撃!
【覇迅竜斬】 竜すら斬り落とす斬撃!
【炎龍人・◆◆武装】 爪・牙・翼の3種!
【雷煌導弾】 珍しい雷魔法だけの技!
★秘儀
【雷天絶景】 加速した世界は減速した世界と同義である!
【宙楼貫・飛天】 幹部ゴーディオンを貫いた突き技!
【斬滅必天の極み 雷火魔尖の大天薙】 龍王を撃破したあの秘儀!
【極雷閃の極み 閃轟魔斬の覇界滅】 魔王城を砕いだぞ!
◆ ◆ ◆
ベッドの上で頭を抱えてジタバタした。
違うんだ。違う。その時は、本気でいいとは思ってたんだ。
いや、もう、最後まで雷閃シリーズで通せばいいのに。
なんで途中から、フリガナブーム来てるんだよ!
炎龍人でボルトって、あれか、ほ→ほの→ほのお で、りゅう→りゅ→り→る みたいな。
無茶苦茶ぞ。無茶苦茶ぞっっ!
はぁ……雷閃と雷天絶景だけ載せておけばよかった。
どっちも師匠から受け継いだ技だし、こんな恥ずかしい思いしなくて済んだのに。
ある意味、俺の本系がほぼ流通してなくてよかった。
まともな神経じゃ、これ、自殺レベルだったわ……。
……そして、最後に残った詩集。
読みたくは無いが。一応。念の為。何を書いていたか……チェックしておこう。
◆ ◆ ◆
【ライヴェルグ詩集 ~勇者の素顔に詩と写真で迫る~】
彼方に観える雷雲が俺の心の総てを逆立てる。
黒地、焔煙、誘われて征く。
調べが喉と胸を響かせる。
剣の如き心が、雷に合わせて高鳴った。
征くぞ、征くぞ、と背中を敲く。
雷天絶景の遥か先、黒き空に舞う羽根へ。
鳴動、煌紅、誘われて征く。
散るが縁に咲くが花と、稲妻のように征こう。
そこから写真少し写真集。
●2ページ目 兜を被ったライヴェルグの正面写真。
●3ページ目 剣を構えたポーズのアップ。
●4ページ目 何故か暗い場所で、後ろから。どこかへ向かうようなポーズ。
●5ページ目 何かを勘違いした座り方。
月を見上げて、其処まで征くと、告げる。
彼方、銀河を切り裂くと、告げる。
● ライヴェルグさんと夜の月の写真を見開きに、その二行詩。
● 兜の下へ。 電撃インタビュー
我々は独自のルートで多忙なライヴェルグさん(以下、ライ。敬称略)とコンタクトを取った。そして、魔王討伐で多忙な中、貴重な時間を頂き~~(中略)~~貴重な、インタビュアー(以下、イン)とライヴェルグさん(以下、ライ)の語らいをここに残す。
(略)
イン「ライさんが恐怖を感じることはありますか?」
ライ「ありませんね。強いて恐怖を感じるとすれば、自分の強さを恐れている、でしょうか」
イン「流石ですね」
ライ「ええ。自分という雷を恐れ、制御することが、最も難しいことでもありますね」
(略)
◆ ◆ ◆
俺は今、こんな雑誌が世界に残っているということに恐れているよ!
やべぇやつじゃん。超、イキってるじゃんっっっ。
ああああああもう、まじ、なんなの。いや、実際、インタビューなんて嬉しかったんだよ!
だって、ないじゃん。そんな機会、人生にあるわけないじゃん!
やってやるって思うじゃん。あああああもう燃やしたいわ!
あの酒場で、こっち踏めよ! こっちならそのままにしたよ!! くそっ!
しばらくジタバタしてから、訪れる虚無。
何やってんだろう、俺。二十六にもなって……。
はぁ。もう忘れよう……とりあえず、夕飯の買い出しでもするか……。
肉と野菜でも買って、炒めるくらいなら、流石に出来るしな……。




