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【10】才能の無駄遣い:顔記憶力と推し語り【06】


 ◆ ◆ ◆


「驚いた。マジで死ねるんだけど。なんで自分がここにいるって分かったの?」


 昼下がりのカフェテラスに、その少女がいた。

 空色の髪、赤い眼鏡。昨晩の少女、アピア。


 まさか、本当に見つけてしまうとは……と苦笑いである。

 ハルル……人探し(ストーカー)能力はバリ高いな。思い知ったよ。

 よくよく思い返すと、ハルルはべらぼうに広い王国で俺を見つけ出した。

 王都と交易都市をくまなく探して、もう死んでいると言われたこの俺を見つけ出したのだ。

 驚きの奇行でしかないが。


 ともかく、ハルルは人の顔をよく覚えているのだろう。

 素直に凄いし羨ましい。俺は、割と忘れてしまう方だ。


 まぁ、今回は顔だけで見つけられた訳じゃない。

 ちゃんと『落とし物(ヒント)』があったのもデカいか。


 『アピアという名前』、『戯曲の脚本ということ』……それから『工房名』。

 一頁目に、タイトルと名前と紋印(サイン)が書いてあった。


 あの紋印(サイン)は、この戯曲制作を行った工房のサインだ。

 ちなみに、工房は演劇家と役者の集まった小さなギルドみたいな集団だ。

 この芸術の都(クオンガ)には、五人くらいの小さな工房から百人にも及ぶ大きな工房まで数十の工房がある。


 と、道を教えてくれた警兵さんが教えてくれた。


 そして、この紋印(サイン)は『白帽子(ホワイトキャップ)工房』という今流行りの人気工房らしい。

 そんな工房を探している最中──ハルルはカフェで紙に向かっている少女、アピアを発見した。


「えっへん。人探しは執念で探すモノッスから!」

 重みが違うな。流石である。


「そうか。軽く死ねるな。で、何の用なの?」

「いえ、これをお渡ししようと! 昨日散らばっちゃった残りッス!」


「!」

 少女アピアは大慌てでそれを奪い取──る寸前でハルルが避ける。

 そうだな。ハルルが素人に速度で負けるはずもない。


「返せっ」

「あの、これ、アピアさんが書いたんスか?」

「そ、そうだよ! というか名前なんで分かるんだよ!」

「ほら、表紙に書いてあるんで」

「ああ、そうだったなっ! ホント死ねるっ!」

「あのっ!」

 ハルルがアピアの顔にぐんと近づいた。

「な、なんだよ」


「これって、『大雪原の戦い』と『北方雪原奪還作戦』、

それから『溶岩窟の戦い』をミックスして書かれてるッスよね!? 

セリフとかも史実に忠実で!」


「……な」

 アピアが顔を赤くし──それから目線を逸らした。


「アピアさんも、ライヴェルグさんのこと、好きなんスか!」

「……」「……」「……」

 沈黙が流れ、そして。


 アピアは、口元をくしゃっとした羊皮紙で隠し、赤い顔で頷いた。


 ◆ ◆ ◆


 俺ノ 精神ハ 壊レテ シマウ カモ シレナイ ▽


「それで、雪原の城の決め台詞ッスよ!」

「『どんな闇も、俺の雷の前では力を無くす』」

「『これが真の極光。俺が──太陽だ』ッス! くぅー!」

「「カッコいいよね!」」


 ダサいよ! すっげぇええダサいよ!!

 直前に雷って言って、そこから太陽ってもう脈絡が腐ってるんだけど!!!


 ああ。なんで、俺、勇者日報に中二台詞(よまいごと)まで記入していたんだろうか……。


 勇者日報。

 当時は冒険者日報という名称でもあったが……その日の戦闘記録などを詳細に残すものだ。

 主な用途は『死亡時』の遺言だったり、死の要因の直前記録。


 無駄に有能な日報くんは、書いたことをほぼリアルタイムで王国中央図書館に記録として複写する。


 結果として……俺が発し、俺が記入した、俺の黒歴史は……残り続けているのである。

 何故、魔法はそんな無駄な用途だけ発展しているのか。憤慨している。


 夏の日射の中で、俺の体今凄い寒いし鳥肌だし変な汗を掻いている。

 ハルルとアピアは、とても生き生きと笑顔で語らっている。

 端的に言えば、アピアもどうやらライヴェルグのファンだったらしい。ありがとう。


「ハルルは、『四天王撃破戦』は理解ある?」

 理解あるって聞き方、なんなの?


「あるッスよ! 『炎翼のルイア』との戦いの名言の多さッスよね!」

 名言の多さなの?


「分かってるね。『お前が百の炎なら、俺は千の雷で──潰すぜ』。

 くぅっ! 死ねるよね、あの戦い!」

 死ねるね、俺がね?


 素敵な午後のカフェテラス。

 二人は本当に楽しそうな、年相応な可愛い顔で──ライヴェルグ談義を語らっていた。

 まるで、十年前の黒歴史(アルバム)を撒き散らかされるかの如き所業。

 いや、撒き散らかされているのか、マジに。


 いつの間にやら、机の上にはライヴェルグの写真や、本が並べられている。

 主にハルルが持参したものだが、アピアの持っていたものもレアらしく、ハルルが羨ましがっていた。


「でも、凄いッス! アピアさん!」

「え、え? 何が?」

「だって、ライヴェルグさんを演劇にするなんて! 本当に凄いッスよ!」

「いや……割かしみんなやってるよ? 英雄譚劇」

 ──ハッ! ハルルが憧れにしてた二つのモノの一つは、まさか英雄譚劇だったんじゃないか!?


 英雄譚劇。

 それは、読んで字の如く、勇者の物語を劇にしたものだ。

 大衆演劇や大衆娯楽ではとても好まれていると聞く。


 ここ、クオンガでもそういう劇はやっているだろう。……危ない。気付けて良かった。

 危うく二時間拘束で俺の黒歴史劇場を見ることになるところだった。

 ハルルに誘われても何か口実を見つけて断る気構えでいないとな。


「でも、ここまでライヴェルグさんの歴史をしっかりと紐解いて合わせてる作品は少ないと思うッス」

 ハルルの言葉に、アピアは顔を赤くした。


「別に。歴史書や雑誌からも読み取れる人物像を書いているだけだよ」

「それでも、やっぱりライヴェルグさんを理解しようとしていないと、こんなに良い物は書けないッスよ!」

 ハルルは微笑む。

 アピアも喜んだように見えたが──すぐに顔を陰らせた。


「良い物か……。良いってだけじゃ、お金は貰えないんだけどね」


 アピアの言葉に、俺も流石に見やってしまった。

「え?」

「あっ。いや、何でもないよ。ごめん」

「アピアさん。その、良いってだけじゃ、ってどういう──」


「アピア!! まだ休憩!? 早く戻りなさいよ!!」


 甲高い声がした。それこそ役者張りの大声が。

 俺の視界──つまりはアピアの後ろの方、少し遠くに声の主はいた。

 派手な金のドレスに、鷲のような鳥の剥製が乗った帽子。

 鳥を頭に乗せるとは、奇抜だ。どこかの貴族か何かだろうか。


「はぁ……死ねるわ。……ごめん。行かないと」

「あっ。アピアさん! また会えます!?」

 ハルルが訊ねると、アピアは照れたのか頬を赤くした。


「うん。自分は、このカフェテラスによくいるから。明日も、居ると思うから」

「じゃあ、また明日ッス!」

「うん。また明日」


「早く来て頂戴! 役者を待たせられないでしょ!」

「今行きます」

 アピアが少し声を大きくして言い、机にお金を置いてその女の人の元へ歩いて行った。



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