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【10】全額出してくれるよね?【03】



 ◆ ◆ ◆



 改めて……俺の名前は、ジンと言う。

 十年前に魔王を討伐した。

 その頃の俺は……正直、随分とイキっていた。


 お恥ずかしながら……魔王討伐の旅の途中から、有名人扱いされた。

 雑誌記者にインタビューされたり、写真撮られたり、グッズが出来たり。

 まぁ世間に乗せられたのもある。


 実際さ、悪い気はしないじゃん? 急にちやほやされたら。

 三年以上の戦争は、毎日殺し合ってたわけじゃない。

 一時停戦……というか、まぁ戦わない期間もあった。


 王都に戻ったら、まぁちやほやされる訳だ。

 それは、当時の俺の格好が獅子の黄金兜を被っていたのもあるし、目立った訳だ。


 でさ。まぁ色々な方向から仕事しませんか~? って言われるわけよ。

 写真集を、とか。作詞、歌とか……詩を作ろうとか。


 特に、歌は多くてさ。王国は識字率が高い方だけど、字が読めない人も多い。

 英雄の詩、として吟遊詩人が歌う為に作ろう、ってよく言われたんだ。


 そして、乗せられた俺は、詩をたくさん書いてしまった。

 さらに言えば、歌なんかも作ってしまっていた。


「栄光あれ~栄光あれ~♪ 雷~の~剣~♪ 轟雷~響く~最強の刃で~黒き~力を~♪」

 ああもう。マジでやめてくれ、俺の黒歴史ソングスっ!!


 麦わら帽子に──いつぞやかに購入した、淡いレモン色のワンピースをハルルは着ている。

 袖の長さが五部。春物なのだが、別に暑くないとのこと。

 いつもの革の鎧と違い、余所行きの服装(おしゃれ)をしたハルルは、隣で楽しそうに口ずさんでいる。


 俺たちは今、交易都市の東側の馬車停まりに向かって歩いている。

 そこが待ち合わせ場所なのだ。


「あれ。歌、下手でした? リズム違いましたかね?」

「いや。リズムも完璧だし、歌、上手いぞ」

 上手くないのは、俺の歌詞だ……。


「えへへ。褒められちゃったッス」

 照れ笑いを浮かべるハルルに、俺はため息を禁じえなかった。


「そういえば、もう平気か? 左腕は」

 安静固定帯(ギプス)はもう二、三日前に外してはいた。


「はい! もう平気ッス! 

もちろん、無理して怪我はしないようにと治癒術師さんには念を押されたッスけど!」

「そうか、それなら良かった」

 ハルルの左腕、蛇竜戦でバキバキだったのだが、もう傷とかも無いし、回復もこれほど早いとは。

 あの島にいたお婆さんの治癒術の腕が良かったのだろう。まぁ、一安心だ。


「えへへ。心配をおかけしましたッス!」

 そう言ってからハルルはまた鼻歌交じりだ。


「今日はやけに上機嫌だな」

「えへへ。そりゃ、機嫌もよくなるッスよ~! 

今日だけで憧れ二つが叶うことが確定してるッスからね!」

「憧れ二つ?」


「そッス! 一度は乗ってみたかった憧れの乗り物ッスよ! 蒸気機関車!」

「ああ。なるほどな」

 蒸気機関車。戦後に西方地域まで線路を作ると国は豪語していたが……十年経った今も西方地域はおろか、王都から行けるのは東部方面だけである。


 まぁ、東部方面は治安が良い。

 外国と隣接してもいるし、物資運搬等色々と使われているのだろう。


「そして、何より、憧れの町! 芸術の都クオンガに行けることが、楽しみでしかないッス!」

 共和国領にある、芸術の都クオンガ。

 俺でも聞いたことくらいはある。

 音楽やら絵やらが盛んな町で、劇場が多く立ち並んでいるとか。


 ただ、俺的にはイメージは良くないんだがな。

 あの国の上流階級を自称する貴族は昔から面倒なんだよな。

 特に、当時は冒険者への風当たりが強かった。

 今はどうかは知らないが……。


「お前、芸術とかに興味あったんだな」

 絵のモデルも割と嫌じゃなかったのだろうか。


「たしなむ程度には好きッスよ~! 

でも、今回は~。まぁそれは着いてからのお楽しみッス!」

「はいはい。分かったよ」

「えへへ」


 ハルルの様子を思い返す。こいつは昨日からずっと旅行本を買って楽しみにしていた。

 ふと、ハルルが手を振り出した。待ち合わせ場所にいた二人の姿を見つけたようだ。


「ポムさん! ルキさん!」

「や。ハルル。ジンも悪いね、わざわざ」


「ハルル、ジン! 今回も護衛、ありがとうなのだー!」

 ルキとポムが顔を見せる。

 ルキの両脚は無い。予備の義足も無いとのことだ。

 そう、今回も護衛だ。だが、前回とは全然違う。


「まぁ、気軽に楽しもうじゃないか」

 ルキはニヤリと笑い、蒸気機関車のチケットを見せてきた。


 ──数日前。ルキが退院する日のこと。

 ヴィオレッタたちの脅威に関して、俺たちは『双方どちらも動けない』と判断した。


 ヴィオレッタ側は、彼女の怪我の具合は相当悪しとルキは見立てた。

 もっと言えば、何か病も患っているようだったとのこと。

 そして……こちら側は、追うに追えないということ。

 魔法の痕跡や手がかりも無い。最初に戻った状態で、やれることが無いのだ。


 歯がゆさは、ある。

 魔王が復活しているなら、俺は、また奴を討つべきだ。

 もう、サシャラや……多くの人間の犠牲はご免だから。


 思うところはあるが、ナズクルの作戦は一時凍結ということとなった。

 尤も……気がかりなことはあるが。


 ……ナズクルが、何かを隠しているようには見えた。だが。それは。

 ともかく、話は終わりになり、解散の運びになる。


 ──そこで、まぁ。ちゃっかりしてたのが、ルキだった。


『両脚の義足の破損。それを補填はしてくれるんだよね?』

『そうだな。もちろんだ』

『いやぁ、両脚が無いと不便でね。すぐに作りたい所だ』

『魔法で浮けるんだろ? 不便という程ではないんじゃないか?』

『いいや、日常生活に支障が出るね。あー、大変』

『……分かった。なら特急料金も含めて支払おう』

『最短で仕上げてくれる、ということだね』

『いかにも』

『なら、ボクら、共和国にある鉄の町に行きたい。あそこの義肢作成技術は目を見張るものがある』

『……分かった』

『全額出してくれるよね? 旅費』

『……あ、ああ』


 ──ナズクル、流石に顔引きつってたなぁ。


 まぁ、でも、ヴィオレッタたちの狙いが《雷の翼》のメンバーだって言うなら、怪我したルキが国外に行くのは一つの安全策でもある。

 道中は俺もハルルもいるし。


 それに、共和国は現在同盟国だ。

 小競り合いも無いし、治安もいい。


 で──鉄の町は芸術の都と程近い。ほとんど隣の町だ。

 ルキが義肢の調整を終えるまでの間、俺たちは芸術の都に滞在しよう、という話になっているのだ。


 つまりは。

「全部ナズクル持ちで休暇を楽しもうじゃないか」

 ということらしい。


 まぁ、俺も乗っからせてもらった訳なので、何も言えない。

 お。三頭引きの馬車か。


「師匠」

「ん?」

「師匠も楽しみッスか?」

「……まぁ、な」

 共和国の芸術の都といえば観光名所も多い。

 それに。

「?」

 ハルルが首を傾げた。

「おーい。ジン。馬車にボクを乗せておくれ。ポムの力だけだと可哀想だろう?」

「お前、魔法で浮けるんじゃないの?」

「ふふふ。浮けるがまぁ」


「はいはい……使うと疲れるでしたね」

 ルキを車椅子から一度抱き起し、馬車に乗せる。

 窓辺で座ったポムの隣に座らせる。その隣に俺が座り、ハルルも座った。


 魔王との戦いへ行く訳じゃない。ただの友達との旅。


「こういう旅……したかったからな」

 聞こえないように呟いた。だが、ハルルは聞こえてしまうらしい。

「えへへ。楽しみましょうね」

 俺は少し照れ臭く頷いた。


 

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