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【09】脈あり行動 実践編【11】


 剣術とか教えるくらいなら、いいよ。


 とは言ったが、十代の女子たち、フットワーク軽すぎるよなぁ。

 早速、手合わせをお願いします。とのこと。

 俺だったらじゃあ明日からね! ってなるんだが。


 今は、俺の家からほど近くの空き地。

 真剣を構えるラブトルと対峙している。


「お師匠様、質問してもいいですか?」

「お師匠様って……ジンでいいよ。ジンで。で、何?」


「は、はい。ジンさん、剣は持ってないみたいですが……」

「ん。ああ、一応、勇者法に則って刃の無いモノしか武装しないよ」


「けど、真剣相手に……そんな木の枝で大丈夫なんですか?」

「気遣いありがとうな。大丈夫。基本的に木の枝で攻撃を防ぐようなことはしないから」


「なら……遠慮なく!!」


 ラブトルとメーダの二人がハルルみたいに弟子にして欲しいと話してきた。

 ハルルはそもそも弟子ではない、とは言ったが。

 やはり、二人から見たらハルルは特別な授業を受けたように思えたんだろう。


 ハルルの勇者階級が、先輩の二人を抜いたことはなんとなく察していた。


 ここで無下にしたら、ハルルも文句を言いそうだし……。

 何よりハルルのメンツが立たないと思ったのだ。


 けども何故、ハルルの表情があんな面白複雑怪奇になっているのか。


 時々、眉が吊り上がり。

(師匠、自分の時は頑なに剣術も教えてくれなかったのにっ……)


 なんだか優しそうな顔から、不安そうな顔をし。

(でも、基本的に誰にでも優しいッスから……あれ、もしかして私も、特別扱いされてないッス?)


 とても不満気に眉間に皺をよせて。

(そうなったら……思い上がり? え、でも手を繋いで思わせぶりって無いッスよね??)


 ちょっと目を伏せて辛そうな変な顔をしている。

(師匠が今、ラブトルさんに教えてるの見て……。私、師匠を独占したいって……思ってたんスかね。だとしたら……私っていやな、ヤツッスね……)



 表情から、何考えてるか分からん。

 あれか。ハルル……何か悪い物でも食ったとかか?


「てやっ!」

 大きな踏み込み、まっすぐな太刀筋。振り下ろされた縦一文字の剣撃。

 まぁ、ハルルの剣術よりかは形になっているが……そうだなぁ。

 横に一歩避けて、ラブトルの腰を木の枝で軽く突く。


「腰が引けてる。もっと胸を張って、しっかりと」

「は、はいっ! ……すごい、本当に避けられた」

「ああ。避けるのは得意だからな。とりあえず、全力で打ち込んで来い」

「はい!」

 一撃、二撃……まぁ数回の攻撃の応酬で分かった。

 ラブトルは誰か師匠がいるな。剣の形がなるほどしっかりしている。


 しかし、剣の振り切りが早すぎて威力に繋がっていない。

 これはラブトルのクセの問題だな。

 ラブトルの剣は一撃一撃が細かい。

 

 ハルルには、剣が大振りで読みやすいと指摘したことがあったな。

 ラブトルの攻撃は、細かくて軽すぎる。

 

 攻撃をいなし、ラブトルの剣を弾く。


「うゎっ」

「とりあえず分かった。一回休んでてくれ。次は交代でメーダ」

「は~い」


 メーダは鉄杖。魔法使いらしい。棒術も素人。

 なるほど、こいつは……基礎からだな。

 ラブトルの半分以下の応酬で、メーダは杖を落とした。体力面に課題ありと。


「とりあえず、二人の課題は分かったから、あくまで参考程度で伝えるが……」

 二人の問題点を伝える。

 こう言っては何だが、意外にも、二人は真剣に話を聞いてくれた。


 不意に頭に、昼読んだ本の『女子の脈あり行動』を思い出す。

『(1)アイコンタクト →目が合うって、つまりキミを見つめてる証拠!

やっぱり目が合う時間が長ければ長いほど……!?』


 そうだ。こういう時はアイコンタクトでハルルを見ておくべきだ。

 敢えて少し優しい目でハルルを見つめてみた。

 どういう経緯かは知らないが、ハルルだってラブトルとメーダの成長(レベルアップ)は嬉しいはず。喜んでくれるだろう。



(なっ……なんスか、その優しい顔からの流し目はっ!? あれッスか、私はこうは行かなかったという当て付けッスかっ!?)



 ◆ ◆ ◆


 問題点を踏まえ、模擬戦を終えた。

 ラブトルとハルルは、いい汗かいたと笑っていた。


「もうムリ。もうだめぇ……ハルルっちに全然攻撃当たんねぇ~……」

 メーダはくたばっているが。

 ちなみに、ハルルの左腕はまだ吊ってる状態で、戦うのは不可能だ。

 だが、ずっと座ってても暇だとのことで、メーダの攻撃を避ける遊びをしてもらった。

 メーダの反応を見るに、当たりもしなかったのだろう。


 さて、まだ明るいがもう夕方過ぎ。そろそろ解散しようという所であった。

「でも、ジンさんだけです。こんなに親身に教えてくださった先輩は」

 ラブトルが気品のある顔でそんなことを言ってきた。

 これはあれか、『(4)○○くんだけだよ! って言ってきたらガチ!』ってやつか。いいや、違うか。


 ……ハルルからそういうセリフが跳んでくるなら分かりやすいのだが。

 ──って俺がそのセリフを言われたいみたいじゃないか。

 つか、今日のハルル、大人しいな……どうした。


「そういえば、ジンさんって彼女いるんですか?」

 思わず水を吹き出しそうになり、むせ返る。

 脈あり女子行動、『(2)彼女いる? って質問される』。

 ま、まさか。この訓練中に!? って、んな訳あるか。


「いない、な」

「へぇ~。じゃぁ~ジンさんは、どういう子が好きなんですか~?」

 メーダも質問に乗っかってきた。

 どういう子ってなぁ。

 ふとハルルに目が行く。丁度、水筒から水をごくっと飲んでいたので目は合わなかった。


「まぁ。一生懸命な奴が好きかな」

 ふぅん、と二人が見てくる。

 なんだよ。息ぴったりか、こいつら。

 二人は目を合わせて俺を見た。


「ジンさんと一緒にクエスト行けたら安心感ハンパないよね~」

「そうだね。ジンさんとなら高難易度も行けそう」

「あ~、ジンさんなら頼り甲斐があるから、二人でクエスト行けるかもなぁ~」


 『(3)2人でクエスト行こう、って誘われる』!?

 いや、これはあくまで俺の技術目当てのやつだな。

 にたっとメーダが笑った気がした。


 ハルルが凄い顔で見てる。どんな顔だあれ。

 目のハイライトが無くなってる気がする。


 バシッ、とラブトルがメーダの頭を叩いていた。

 そういう挨拶なのか?


「メーダ?」

「ごめんごめん。やりすぎたって。じゃ、ジンさん、今度、皆でご飯しましょ~ね。ジンさん」

「ん? ああ、そうだな。なんなら今から」

「いえ、今日は解散で。メーダ、行くよ。あんた、ちょっと反省会」

 メーダが連行されていった。なんだったんだろうか。


「とりま、飯でも買って帰るか」

「そ。そッスね」

「大丈夫か、ハルル。お前、なんか今日大人しいけど」

「え!? いや、別に、そんな」

 目線が泳いだ。どうしたんだ?

 それに。よく見たら……右手。血が付いている。


「どうした、その手」

「え? あれ。なんスかね……メーダさんの攻撃は避け切ったんスけど。

どっかにぶつかったッスかね?」


「お前が?」

 ハルルは空間把握能力、結構高かったと思うのだが。


「え、っと。今日、ちょっと不調気味で」

 ……だから、大人しかったのか?


 手を優しめに引っ張って観察する。

 甲を擦りむいているようだ。

 もう乾いてはいる。カサブタになりつつある。これくらいなら大丈夫か。


「ったく。不調なら先に言えよな。今は右手しか使えないんだから」

「は、はい」


「お前に怪我なんかして欲しくないんだ。本当なら……」


 ふと、目が合う。

 大きい目だ。優しい薄緑色の零れそうな目が潤んでいた。


 今、俺は、ハルルの手を掴んでいる──ハルルの手が、俺の手をぎゅっと握った。

 ……優しく、握り返した。


 『(5)手を繋ぐのを嫌がられない』。

 俺も、嫌じゃない。ハルルも──。


「……師匠」

「ん?」

「不調。治ったみたいッス」


 夕焼けに照らされた花みたいな笑顔が、そこにあった。

 握った手が、熱い。どっちの体温か、分からない。

 ハルルの笑顔に、俺は釘付けになってしまっていた。


 

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