【09】あの子との約束【08】
◆ ◆ ◆
今は小休止。軽食や飲み物は自由らしい。
途中結果として、最初チップ五十枚から始めた二人であるが……。
「よ、弱くね。ハッチ」
「うるさい! へ、下手の横好きなんだよっ」
もしかして、前追われてたのって、いつも超負けてるから大勝してイカサマ疑われたとかないよな……。
「あれ、ハッチさっき手にチップ持ってなかった? 後何枚なの?」
レッタちゃんが飲み物を飲みながら呟いた。
「えーっとね」
「数えるような枚数じゃねぇだろ。手に握りしめてるそれだけなんだから」
「数えなきゃわかんないよ! 増えてるかもしれないでしょ! 一、二! それから三!」
「終わりじゃねぇか」
「くすくす。でもさ、私もこれ一枚しかないよ?」
席を移動する時に減った、ってレッタちゃんが言ってチップを見せてくる。
『75』と書かれているチップ。
ハッチの持ってるチップと色が違う。
「なんだこれ?」
「ああ。それは七十五枚分のチップってことだな。
やっぱ仮にも貴族の賭博開催だから額合せまでしてくれるんだな」
「なるほど。たくさん持って移動なんて大変だもんな」
「私、チップいっぱいあるんだ? じゃぁ私のチップ半分いいよ」
「ま、マジ!? でも、レッタちゃん。ごめん、受け取れない」
「? どーして?」
「貸銭は運を落とすってジンクスがある!
っていうのもあるけど、やっぱり賭博は人に借りてまでやるものじゃないからさ」
「くすくす。そっかー」
でも、ハッチの目はチップに釘付けな気がするんですがね。
「ハッチー。座って」
レッタちゃんが隣の椅子をポンポン叩いた。
何? と呟いてからハッチは座る。
ハッチの手を、レッタちゃんが握った。……羨ましい。
「私のね、師が言ってた。大きな困難より小さな苦痛が心を押し潰す、って」
「大きな困難より、小さな苦痛?」
「そう。ハッチがいつも作り笑いしてたから。苦痛になってないなら、それでいいんだけどね」
私だったら、超苦痛。そう言ってレッタちゃんは立ち上がって伸びをした。
「作り笑いも、その場にあった相槌も、もうたくさん。
私は、そういう小さい嫌なこと、もう我慢しないって決めてるから」
「……そう、なんだ」
ハッチは、少し面食らった顔をした。
それから、にひっと笑った。
「レッタちゃん。綺麗で可愛くて、好きだわ」
アぁ? 何オレの隣でスカしてくれてんだ、このド間抜け!
と声を上げちゃだめだ。せいせいせい。
今は男の姿だが、中身は女だ。落ち着け。
「くすくす。ありがと」
「はあぁ……アタシ、レッタちゃん、嫁にしたい」
「駄目に決まってんだろっ」
「くすくす。そーだねー」
「ダメかぁ。やっぱり、ガーがいい感じ?」
げふっと、咽た。
「んー。そーだねー」
オレの目を覗き込むレッタちゃん。
「じゃあ、早い者勝ちかなぁ?」
瞬間、オレとハッチがレッタちゃんの手に向かって手を伸ばした。
が、触れない! くそっ、レッタちゃん、何故避けた!?
「くすくす。二人ともガチっぽくて面白い。ありがとう、二人とも」
レッタちゃんは笑う。ああ、楽しそうでよかった。
それはそれとして。
「ハッチはなんでそんな全力で手伸ばしてんだ。お前、女の子だろ?」
「ガーこそ女じゃん」
「今はね!? いや、メンタル全て男だからね!?」
「勘違いするなよ。女々しい的な意味の女だって」
「あー。なるほどね。それは確かにある……ってお前な!?
まだ会って累計二十四時間経ってない奴への風速じゃねぇぞ!?」
「風当たりが強すぎるから風速か。アンタ意外と上手いこというね」
「そ、そんな褒めんなよ。照れる」
って、何懐柔されてんだ。ちょろいぞオレ。
「まぁいいや。オレ、ちょっと出てくる」
「ガーちゃん、どこ行くの?」
「お花を摘みに行くんだろ、どーせ」
「んー、なら雑草を枯らしにかな」
「あっ! 煙草ね! 行ってらっしゃい~」
「なんでレッタちゃん伝わったの!?」
ははは。驚くなハッチよ。
オレが途中退席なんて、それしかないのだ。
立ち上がり、煙草を胸ポケット……が無いから、鞄だ。
そうだ。ドレスだ。クソ、なんだこのヒラヒラ。
しかし、二人とも楽しそうでよかったわ。
レッタちゃんも年相応な笑顔を浮かべてるし、こういう時間は大切なんだろうな。
まぁ、場所とやってることはアレだけど。
立ち上がり、歩き出す。
「ね。レッタちゃん。さっきありがとね。アタシ、小さい苦痛さ。どうにかしようと思う」
ん。背中で小さな話声が聞こえた。よかった。
「でね。考えたんだよ、アタシ。
やっぱり小さい苦痛だから厳しいんだ。
負けたら次の掛ける金額を倍にしていく! それも負けたらさらに倍!
で、勝ったらその最初の金額に戻すっていう手法にする! 大きな困難に!」
「倍々法は破滅の入口だぞ。やめとけ?」
振り返ってツッコミを入れておいた。
◆ ◆ ◆
庭園……だと、凄い貴族の若い男たちに声を掛けられて落ち着かなかった。
その為、裏庭まで逃げてきた。
いや、容姿がね。確かに綺麗だ。
オレの女化した後の地顔っつーよりかは、ハッチの化粧テクが凄いんだろうな。
いい顔になりすぎてる。
とりあえず、一番人目が無さそうな館の裏に来た。
一本……と思ったら奥で声がする。先客かよ。
『こんな所にこの私を呼び出すとは、偉くなったな。スカイランナー』
え、狼先生の声だ。
スカイランナー? 誰だ?
「いえいえ。ワタスシから会いに行ってしまったら、
皆さまに入らぬ誤解をさせてしまいましょうから。すふふ」
甲高い、妙な声だ。そして空気が抜けるように笑っている。
『要件は何だ』
「魔王様は相変わらずセッカチですな。すふふ。何、進捗を伺おうと思いまして」
『進捗?』
「ええ。魔王様が拾ったあの少女。その体を食い尽くし、乗っ取るのはいつ行うので?」
……え。
魔王、様? 狼先生が魔王? ……いや、そんなことより。
狼先生が拾った少女って、レッタちゃんのことか? それって。
「あの少女を随分と長くてもとに置いておられる。
我々『十二本の杖』は早く魔王再臨を広く知らしめ、失われた魔族の誇りを取り戻さねばならないと考えております。
さもなければ、次の魔王を立てねば、と!」
『ははは、『十二本の杖』だと? まだあんな遊びを続けていたのか。
ふん、スカイランナー。セッカチなのは貴様の方だ』
「はぁ?」
『前にも伝えただろ。あの子との約束……契約終了は、次の冬の終わりだ。
それが過ぎた時に初めて、あの子の残りの命と、その体を私が貰う。それが契約だ』




