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【09】1D100【07】


 ◆ ◆ ◆


 交差点の町(サン・コーテ)は巨大な町だ。

 ここ十年で急成長をした町であり、町というより都市に近いほどだ。


 ある程度の大きさになった町は、どこでも同じだが、東西南北の四区域に分かれている。


 中央から南側は一般商店。東周辺は、ホーネス教会を筆頭に研究施設関係。

 北周辺がギルド関係に宿場。南周辺には学問関係。

 西は馬車の発着駅が多く、その裏通りに歓楽街と風俗街がある。


 詰まる所、大交差点(クロスロード・ポート)は王都から最も近いグレーゾーンの集積地だ。


 それから、大交差点(クロスロード・ポート)にいる若い貴族の間で、『サロン』という物が流行っている。


 西方で言うサロンは、王都近郊で行われている『文学サロン』のような教養のあるまともな同好会ではない。

 王都での流行りの猿真似の『自由サロン』。


 やる内容は、文化貢献や文化交流などではなく、エロか酒か賭博か。


 その夜は、ちょうどよく賭博サロンが開かれていた。

 もちろん、公に賭博やります、などとは言えない。


 隠語や暗号でこういうものはやり取りされる。

 さらに言えば、サロンと銘を打っている故、貴族たちしか入れない。

 取り締まられることもほぼ無い。


 庭園で談笑していた貴族の若い男たちが急にざわついた。


「おい、あれ見ろよ。貴族の坊ちゃんと、その後ろの二人」

「やべぇ、可愛いな」「声掛けたら?」「お、おれ、突撃するか」


 視線は全て、この時間に現れた客人たちに向けられている。


 貴族のボンボンらしい男と、黒髪の少女……そして。


「凄い……美女だ」「ああ。ヤバい。演劇女優か?」「オペラ歌手かも」


 黒褐色の肌に似合う豊満な体。上背があり、足もすらっと長い。

 彼女はラインがくっきり出るゴールドのドレスを身にまとい、手に持つ赤い皮のハンドバッグを乱雑に肩に掛けた。

 長いウェーブがかった赤い髪をかきあげる。


 その少し荒れた育ちを感じさせる仕草。

 だが、それがいい。貴族の坊たちにはそれが色っぽく感じられ、釘付けになっていた。


 一人の貴族の坊と、黒褐色の女性の目が合う。

 魔物のような黄色い目は冷たく蔑むような、人を寄せ付けない目だった。


 だが魅力的。そういう冷たい目に若い貴族たちはゾクゾクしていた。


 黒褐色の女性は──隣を歩く少女を見る。


「オレ、マジで女なの」

「くすくす。そーだよ。ガーちゃん。マジで女なの。超綺麗じゃん!」

「は、ははは。超綺麗なんだな、オレ……複雑だ」


「いやぁ、いいね。服も似合うし、逸材だった」

術技(スキル)で色々弄ったからだろ」

「女には変えたが、顔立ちは元の物だよ。

その辺を変更する術技(スキル)は使ってなかったからね」


「……嬉しくはねぇなぁ」

 そう、彼女は男である。今は、全てにおいて女である。

 だが、実際は術技(スキル)で女の姿になっているだけ。


「なんでオレが女になる必要があったんだよ……」

「仕方ないのさ。こういうサロンに男性二人組は入れないからね」

 静寂の聖女と呼ばれていた女性──こちらも今は男性──ハッチがカラカラと笑いながらそう言った。


「なんだその貴族の謎ルール」

「ここは、表向きじゃ社交界といっても、出会いの場(ごーコン)みたいなモンだからな。

馬鹿男たちは、女性を多くして少しでも確率アップ狙ってんだろ」


「なるほどな……。いや待て、それならハッチが女のままでよかったんじゃねぇの?」

「それは駄目だよ。アタシの顔、貴族社会じゃバレバレだから」

「ああ、そうか……聖女様でしたね」

「そーだよ。悪いね」


「でも、可愛いし綺麗だし、見れてよかったよ」

 黒い少女、ヴィオレッタは目をキラキラ輝かせて笑った。

 ガーちゃんは、ちょっとだけニヤケた笑顔を浮かべた。


「レッタちゃんが見たかったなら、いいか」

「アンタ、レッタちゃんに対しては異常に甘いよね」

「そりゃまぁ当然よ」

 胸を張って言うガーちゃんに、ハッチは苦笑いした。


「さて。じゃぁ屋敷の中の賭博で遊ぼうか。

レッタちゃんは賭博(ゲーム)は何が分かる? カードとか、ルーレットとかは?」

「んー。何も知らないかな」

「マジ?」

「大マジ」


「仕方ない。じゃあ、アタシが教えてあげよう! さぁ、行くよ!」

「おーおー。流石、賭博狂い(ジャンキー)な聖女様。

遊びになったら唐突にエンジン入ったな」


「そりゃそーさ。賭博(ギャンブル)こそ我が人生」


 ギャンブルは適度に楽しむ遊びです。のめり込みに注意しましょう。


 興味関心の対象が多少問題あれど、水を得た魚のような顔を浮かべるハッチ。

 その姿にレッタも、ガーちゃんも少しだけ安心していた。


「じゃぁ、色々教えてね。ハッチ」

「オレも賭博(ゲーム)はカードしか分からないから、頼むよ」


「任せておいて、レッタちゃん、ガーちゃん!」

 楽しそうにハッチは笑った。



 ◆ ◆ ◆


「ポーカー・テキサディ・ホールデム。ルールは覚えちゃえば面白いっしょ?」

 一枚ずつ明らかになっていく場の五枚のカードと、二枚の手札を合わせて役を作るカード賭博。

 オレは面白いが、レッタちゃんが目を細くした。


「役、覚えられないや」

「オッケー。次行こう!」

 ハッチ的にはオッケーなんだ? まぁいいけどさ。


 ルーレットを覗いたが、賑わっていて出来そうにない。

 そのまま隣の卓に流れ着いた。

 ダイスゲームか。


1D100(ワンディー・ハンドレッド)?」

 聞いたことのないゲームにオレは首を傾げた。


「最近流行りのダイスゲームだよ。

シンプルで面白いから、やりながら説明するよ」

 ハッチはそう言って卓に入った。


「その10面ダイスを2つ使うんだ。黒いダイスが10の位。白いダイスが1の位」

「ほうほう。なるほど、出た目を競う感じか」


「そうだね。胴元(ディーラー)より低い目を出す、っていうゲームだね」

「へぇ、低い数字を作るのが目標なんだ」


 1D100は、胴元(ディーラー)参加者(プレイヤー)の構造のゲームだ。

 最初にディーラーが10の位のダイスを1度振る。

 それを見て、降りるか降りないかをプレイヤーが選ぶ。


 降りる(ドロップ)ならチップ2枚を胴元(ディーラー)へ支払う。

 その後、プレイヤーが10の位を振り、その出目次第で再度降りる(ドロップ)も出来る。

 その場合はチップ3枚支払いだそうだ。


 最後は、ディーラーとプレイヤーが1の位を振り、その出目で勝敗を決する。


 ディーラーは数字の5が出た。10の位だから、50~59か。

 5なら行けると、参加表明(コール)。チップ5枚掛けだ。


 ハッチは2が出る。おお。ってことは20~29!


「勝ち?」


「いや、まだ。特殊役のゾロ目がある。234以外で同じ数字が揃えば、成功(ヒット)

そのゲームは勝ちになる。

1のゾロ目は決定的成功(クリティカル)。掛け金の倍勝ちだね。

あ、ゾロ目同士だと引き分けね」


「234のゾロ目は意味ないんだ?」

「ううん。234のゾロ目は失敗(バースト)で、倍払い。

それと、もう一個特殊なのがあって100を出すと致命的失敗(ファンブル)になる。

致命的失敗(ファンブル)は相手に掛金の十倍払いになるね」


「マジかよ。十倍ってヤバいな。あれ、でも100って出なくないか?」

 ダイスを見る。0から9までの10面ダイスだ。

 下が、0で、上が99じゃ。


「出るよ。00が、100になるんでしょ」

 レッタちゃんが言うと、ハッチは頷いた。


「正解! だから1の位で0が出ても、安心できないのがこのゲームの面白い所」


 ダイスを振るう。

 ハッチのダイスは転がって、9を出した。29か。


 そして、ディーラーのダイスが……一の位を5。あ。

 言ってる傍から、相手が奇数ゾロ目だ。なるほど。


「こ、こういうゲームさ」

 うむ。運の要素の強いゲームね。

 しかし、手軽に出来るから流行ってるのかもしれないな。

 暇な貴族たちの良い遊びだ。


「難しくなさそうだし、私もやってみよっかな」

 レッタちゃんはハッチの隣に座る。

 カランカランとサイコロが転がり、ゲームが始まった。


 

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