表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

104/843

【09】えッ!! エキサイティンッ!【06】



◆ ◆ ◆


 レッタちゃんの発案で、急遽、オレたちは夜遊びに出かけることになった。


『そういう場所に行く気はない。ガー、お前が付いていけ』

 まぁ、狼先生は案の定である。


 狼が町にいたら騒ぎになる。

 狼先生なりの配慮なんだろう。


 布団の上で丸く包まり王鴉(オオガラス)のノアと一緒になってすやすや眠っている狼先生。

 ……最近一緒に居て分かってきたが、この(ひと)、ただの出不精なだけかもしれない。


 とりあえず、今はレッタちゃんとハッチの着替え待ち。

 まぁ、ハッチの場合は着替えというか変装か。この国でも有数の『聖女』とやらだし。


 教会の裏手。夜でもまだ暑い。

 大きな木の根に背を預けて、煙草に火をやる。

 ふぅ。ようやく吸えた。

 町に出た時に吸おうと思ったのに、タイミングが無かったからな。


「教会内。禁煙ちゃんですよ」


 あまり抑揚の無い声で、その人はオレに告げた。

 少し汚れた薄い青色のエプロンドレス。使い込まれたホワイトブリム。

 茶色い髪は少し伸びて肩まである。


 女中(メイド)さんだ。二十歳くらい。同い年くらいだろうか。

 凄い清楚可憐に見えるが、失礼ながら真面目な方じゃなさそうだ。

 欠伸しながらオレに近づいて、隣に座った。


「あー。この一本吸ったら終わるからさ」

「別に咎めたんじゃないですよ。ゆっくり吸えばいいちゃんです。ああ、でもバレないように」

 変な喋り方の女中(メイド)さんはポケットを漁って、箱を取り出した。

 それからマッチを擦る音がする。


 お前も吸うんかい。

 という野暮はさておき、湿気ってるのだろうか。

 マッチの擦れる音はするが、火が点かないみたいだ。


 胸ポケットから、銀のライターを女中(メイド)に渡す。


「ありがとちゃんです。へぇ、いいライターちゃんですね」

 カシャンコ、と開けて火が揺れた。

 女中(メイド)は左手の小指と薬指にその煙草を挟んで吸う。


「随分と細いな。なんて銘柄だ?」

PF(ピアノフォルテ)ちゃん」

「女の子らしいな」


「そちらは何ちゃん?」

小さい希望(ホープ)……ちゃん」

「ホープにちゃん付けは違うちゃんですね」

 違うちゃんなのか……お兄さんもう分からないちゃん。


「一本欲しいちゃんです」

「じゃぁ一本交換」

 ピンク色の細長い箱が投げられた。

 キャッチしてから、オレのちびっこい箱を投げて渡す。

 一本吸いきってから、ピアノフォルテとかいうのに火。あ。


「ライター」

「ほーい」

 またも投げて渡された。


 じゅっ、と火を入れる。ああ、甘い。甘っ濃い。


「その根っこ、実は私ちゃんの休憩所ちゃんなんです」

「あ。悪い。取っちゃったな」

「いいえ。ハニエリちゃんと吸う時は、そこがあの子の席になるから」

「あぁー、聖女様も吸うのね」

「ゴリゴリ吸いますよ。インディアスピリットちゃんです」

「カッコいいね。ハッチに似合いそうだ」

 オレが答えると、女中(メイド)は小首を傾げた。


「ハッチ?」

「ああ。レッタちゃんが付けたニックネーム」

「へぇ。ハッチ。面白いニックネームちゃんですね」

 少しの沈黙。

 夏の夜の匂いと煙草の匂いが混ざり合った。


「キミは、ハッチの女中(メイド)さん?」

「ええ。そうです。彼女の世話係のラキちゃんと申します。

挨拶ちゃんが遅くなって申し訳ありません」

 この人は、随分と淡々と喋るんだな。無機質というか、なんというか。

 だけど、ハッチのことは大切に思ってるような気がする。


「ああ、丁寧にありがとう。オレは、ガーって呼ばれてる」

「ガー様ちゃんですね。

うちのハニエリちゃんの命を助けてくださって、本当にありがとうございました」

 オレは苦笑いを返した。


「聞いてると思うが、助けたのは全面的にレッタちゃんね。オレはジタバタしてただけ」

「そうでしたか。──おや、どうやら来たちゃんですね」


 来たちゃんって? ああ、来たのね。

 ラキが立ち上がり煙草を捨てて、足で消した。

 合わせて、男性が歩いてくる。

 その後ろにはレッタちゃんが居る気がする。


「誰?」

「アタシだ、アタシ。待たせてごめんね」

 あ、この男。ハッチか?


「す、すごいな。ハッチは男装か」

 昼見た聖女の顔はどこにもない。いや、というか。


「胸、無くなってね!?」


 あの巨乳が!


「それより、髪と声と目の色に気付いてくんねーかな!?」


 あ、本当だ! どうやったのか髪が短くなってる。

 それに目の色……元の色を覚えていないが、今の黒色じゃなかった気がする。


「お、男だったの、聖女って!?」

「違うっての! まぁ変身の理由は後で説明するから。

とりあえず聞いてくれ、今回のテーマ」


 正装(フォーマル)寄りの服装。

 光沢のある白いジャケットに、真っ赤なシャツと赤黒いネクタイ。


「夜の鉄火場に来た貴族のボンボンと」

「可愛らしい世間知らずの貴族令嬢風と相成りましたー」


 男になったハッチの後ろから、レッタちゃんが飛び出してきた。


 レッタちゃんはその場でくるりと回る。オレは、息を呑んだ。


 黒を基調にしたミニスカートのドレス。フリルもついて、動くたびに可愛い。

 肩から腕は露出している。

 なまめかしい細い腕の先は、黒いレースの手袋で包まれていた。

 良く似合ってる。

 腰回りには白いリボン。よく見れば襟の部分にだけ金の刺繍があって本当にお洒落だ。

 何より。


「? ガーちゃんどーしたの?」


 刮目。

 注目。その太腿。


 ストッキングを止めるそのガーターベルト。


 黒のレースのガーターベルト。

 なんてことだ。なんて、特殊性癖(マニアック)こじらせた衣装を着せてしまってるんだ。

 ハッチ。お前、レッタちゃんに。レッタちゃんを。


 分かってるじゃあないか。


 ぐっと小さく親指を立てハッチを見る。目が合った。

 だろ、というドヤ顔。悔しいが、正解としか言えない。


「ガーちゃん。似合ってる?」

 

「えッ!! エキサイティンッ!」

 超、エロさ◎(エキサイティンッ)

 腋がチラッと見える感じ! 動くと見えそうで見えない胸のふくらみ!

 鎖骨のアダルト感!


 人類は、見えない物を想像力で補うことにより成長を続けてきた。

 草木に隠れた動物の体の一部から、全体図を想像し、どんな動物なのかを把握する。


 まさにそう。今がそう。

 服で隠しながら少し見せる。それが真のエロさ。


 レッタちゃんが得意の回転(くるくる)しても、見えそうで見えない下着(ショーツ)

 かがんでも見えない胸周り。


 超、エロさ◎(エキサイティン)

 眩しい(ダズリング)女神(ディエティ)神聖(ディヴァイン)……。


「3Dがオレの(ドーム)でバトルしてる……」


「?」

「あ、えっと、超似合ってる、ってこと!」

「くすくす。それならよかった。

黒は好きだけど、こういうヒラヒラ、あんまり着ないから」

「もっとヒラヒラ着た方がいいね!」


「くすくす。足、たくさん見れるから?」


 ぎくっ。


「ずっと見てる。私の足、気になるんだねぇ~」


 い、いやぁ。そんな見てないよ。見てないさ。


「ふふ。アタシが選んだ甲斐あったね」

 ホントにナイスですわ。


「で、ラキ。終わったの?」

 ハッチが質問を投げかけた。

 ラキはまた欠伸した。眠そうな顔だ。


「ええ。無論ちゃんです。ハニエリちゃん」

 ん? なんの話をしているんだ?


「ガー様ちゃん。

ハニエリちゃんの性別が変わってるのは、私ちゃんの術技(スキル)ちゃんのせいでして」

「へぇ、そうなんだ?」


「はい。術技(スキル)ちゃんの名前は『変身』ちゃん。

ああ、毒虫ちゃんじゃないですよ。

この術技(スキル)は、いくつか効果があるのです。技名ちゃんを付けて分けています。

その中で、性別を変更する技の名前は『サンドリヨン』ちゃんと言います」


「……それ説明するってさ? もしかしてさ?」


 ぐらん、と体が揺れた気がした。


「ご安心を。人体ちゃんには全く害はないです。

零時に解けるような安い粗悪な魔法ちゃんでもございません」

 

 

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ