【09】えッ!! エキサイティンッ!【06】
◆ ◆ ◆
レッタちゃんの発案で、急遽、オレたちは夜遊びに出かけることになった。
『そういう場所に行く気はない。ガー、お前が付いていけ』
まぁ、狼先生は案の定である。
狼が町にいたら騒ぎになる。
狼先生なりの配慮なんだろう。
布団の上で丸く包まり王鴉のノアと一緒になってすやすや眠っている狼先生。
……最近一緒に居て分かってきたが、この狼、ただの出不精なだけかもしれない。
とりあえず、今はレッタちゃんとハッチの着替え待ち。
まぁ、ハッチの場合は着替えというか変装か。この国でも有数の『聖女』とやらだし。
教会の裏手。夜でもまだ暑い。
大きな木の根に背を預けて、煙草に火をやる。
ふぅ。ようやく吸えた。
町に出た時に吸おうと思ったのに、タイミングが無かったからな。
「教会内。禁煙ちゃんですよ」
あまり抑揚の無い声で、その人はオレに告げた。
少し汚れた薄い青色のエプロンドレス。使い込まれたホワイトブリム。
茶色い髪は少し伸びて肩まである。
女中さんだ。二十歳くらい。同い年くらいだろうか。
凄い清楚可憐に見えるが、失礼ながら真面目な方じゃなさそうだ。
欠伸しながらオレに近づいて、隣に座った。
「あー。この一本吸ったら終わるからさ」
「別に咎めたんじゃないですよ。ゆっくり吸えばいいちゃんです。ああ、でもバレないように」
変な喋り方の女中さんはポケットを漁って、箱を取り出した。
それからマッチを擦る音がする。
お前も吸うんかい。
という野暮はさておき、湿気ってるのだろうか。
マッチの擦れる音はするが、火が点かないみたいだ。
胸ポケットから、銀のライターを女中に渡す。
「ありがとちゃんです。へぇ、いいライターちゃんですね」
カシャンコ、と開けて火が揺れた。
女中は左手の小指と薬指にその煙草を挟んで吸う。
「随分と細いな。なんて銘柄だ?」
「PFちゃん」
「女の子らしいな」
「そちらは何ちゃん?」
「小さい希望……ちゃん」
「ホープにちゃん付けは違うちゃんですね」
違うちゃんなのか……お兄さんもう分からないちゃん。
「一本欲しいちゃんです」
「じゃぁ一本交換」
ピンク色の細長い箱が投げられた。
キャッチしてから、オレのちびっこい箱を投げて渡す。
一本吸いきってから、ピアノフォルテとかいうのに火。あ。
「ライター」
「ほーい」
またも投げて渡された。
じゅっ、と火を入れる。ああ、甘い。甘っ濃い。
「その根っこ、実は私ちゃんの休憩所ちゃんなんです」
「あ。悪い。取っちゃったな」
「いいえ。ハニエリちゃんと吸う時は、そこがあの子の席になるから」
「あぁー、聖女様も吸うのね」
「ゴリゴリ吸いますよ。インディアスピリットちゃんです」
「カッコいいね。ハッチに似合いそうだ」
オレが答えると、女中は小首を傾げた。
「ハッチ?」
「ああ。レッタちゃんが付けたニックネーム」
「へぇ。ハッチ。面白いニックネームちゃんですね」
少しの沈黙。
夏の夜の匂いと煙草の匂いが混ざり合った。
「キミは、ハッチの女中さん?」
「ええ。そうです。彼女の世話係のラキちゃんと申します。
挨拶ちゃんが遅くなって申し訳ありません」
この人は、随分と淡々と喋るんだな。無機質というか、なんというか。
だけど、ハッチのことは大切に思ってるような気がする。
「ああ、丁寧にありがとう。オレは、ガーって呼ばれてる」
「ガー様ちゃんですね。
うちのハニエリちゃんの命を助けてくださって、本当にありがとうございました」
オレは苦笑いを返した。
「聞いてると思うが、助けたのは全面的にレッタちゃんね。オレはジタバタしてただけ」
「そうでしたか。──おや、どうやら来たちゃんですね」
来たちゃんって? ああ、来たのね。
ラキが立ち上がり煙草を捨てて、足で消した。
合わせて、男性が歩いてくる。
その後ろにはレッタちゃんが居る気がする。
「誰?」
「アタシだ、アタシ。待たせてごめんね」
あ、この男。ハッチか?
「す、すごいな。ハッチは男装か」
昼見た聖女の顔はどこにもない。いや、というか。
「胸、無くなってね!?」
あの巨乳が!
「それより、髪と声と目の色に気付いてくんねーかな!?」
あ、本当だ! どうやったのか髪が短くなってる。
それに目の色……元の色を覚えていないが、今の黒色じゃなかった気がする。
「お、男だったの、聖女って!?」
「違うっての! まぁ変身の理由は後で説明するから。
とりあえず聞いてくれ、今回のテーマ」
正装寄りの服装。
光沢のある白いジャケットに、真っ赤なシャツと赤黒いネクタイ。
「夜の鉄火場に来た貴族のボンボンと」
「可愛らしい世間知らずの貴族令嬢風と相成りましたー」
男になったハッチの後ろから、レッタちゃんが飛び出してきた。
レッタちゃんはその場でくるりと回る。オレは、息を呑んだ。
黒を基調にしたミニスカートのドレス。フリルもついて、動くたびに可愛い。
肩から腕は露出している。
なまめかしい細い腕の先は、黒いレースの手袋で包まれていた。
良く似合ってる。
腰回りには白いリボン。よく見れば襟の部分にだけ金の刺繍があって本当にお洒落だ。
何より。
「? ガーちゃんどーしたの?」
刮目。
注目。その太腿。
ストッキングを止めるそのガーターベルト。
黒のレースのガーターベルト。
なんてことだ。なんて、特殊性癖こじらせた衣装を着せてしまってるんだ。
ハッチ。お前、レッタちゃんに。レッタちゃんを。
分かってるじゃあないか。
ぐっと小さく親指を立てハッチを見る。目が合った。
だろ、というドヤ顔。悔しいが、正解としか言えない。
「ガーちゃん。似合ってる?」
「えッ!! エキサイティンッ!」
超、エロさ◎!
腋がチラッと見える感じ! 動くと見えそうで見えない胸のふくらみ!
鎖骨のアダルト感!
人類は、見えない物を想像力で補うことにより成長を続けてきた。
草木に隠れた動物の体の一部から、全体図を想像し、どんな動物なのかを把握する。
まさにそう。今がそう。
服で隠しながら少し見せる。それが真のエロさ。
レッタちゃんが得意の回転しても、見えそうで見えない下着。
かがんでも見えない胸周り。
超、エロさ◎。
眩しい、女神、神聖……。
「3Dがオレの心でバトルしてる……」
「?」
「あ、えっと、超似合ってる、ってこと!」
「くすくす。それならよかった。
黒は好きだけど、こういうヒラヒラ、あんまり着ないから」
「もっとヒラヒラ着た方がいいね!」
「くすくす。足、たくさん見れるから?」
ぎくっ。
「ずっと見てる。私の足、気になるんだねぇ~」
い、いやぁ。そんな見てないよ。見てないさ。
「ふふ。アタシが選んだ甲斐あったね」
ホントにナイスですわ。
「で、ラキ。終わったの?」
ハッチが質問を投げかけた。
ラキはまた欠伸した。眠そうな顔だ。
「ええ。無論ちゃんです。ハニエリちゃん」
ん? なんの話をしているんだ?
「ガー様ちゃん。
ハニエリちゃんの性別が変わってるのは、私ちゃんの術技ちゃんのせいでして」
「へぇ、そうなんだ?」
「はい。術技ちゃんの名前は『変身』ちゃん。
ああ、毒虫ちゃんじゃないですよ。
この術技は、いくつか効果があるのです。技名ちゃんを付けて分けています。
その中で、性別を変更する技の名前は『サンドリヨン』ちゃんと言います」
「……それ説明するってさ? もしかしてさ?」
ぐらん、と体が揺れた気がした。
「ご安心を。人体ちゃんには全く害はないです。
零時に解けるような安い粗悪な魔法ちゃんでもございません」




