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【09】ハニエリ【02】

 


◆ ◆ ◆



「ここどこ?」

 白いベッドの上でレッタちゃんはパチッと目を開けて起き上がった。

 その隣で王鴉(オオガラス)のノアちゃんは、まだ眠っているようだ。


「おはよ。レッタちゃん。ここは昨日の人が貸してくれた部屋だよ」

「昨日の人?」


「ほら。助けた女の人。覚えてる? 金髪の赤い服の」

「んー。ああー!」

 レッタちゃんはポンっと手を叩いて周りを見回した。


 白を基調にされた壁に、高級そうな布団。花瓶に絵画。

 唯一の欠点としては窓がない。まぁ、地下だからなのだけど。


 快適に調整された温度。真夏だってのに暑すぎず寒すぎない。

 さぁ、レッタちゃん。ここ、凄い場所だぜ。オレも驚いた、ここはなんと!


「うん、じゃあ、おやすみ」

「あ、寝るの?」

「せっかく部屋を貸してくれて、こんなにいい布団。満喫する」

 人ほど大きい王鴉(オオガラス)のノアを抱き枕にして、レッタちゃんは目を閉じた。

 まぁ、頭痛が凄いみたいだし、仕方ない、か。


「ガーちゃんも入る?」

「え、えええ。い、いや、流石に」

「くすくす。入ってもいいのに」

 で、でもさ。流石に。


(せんせー)は入ってるよ。足元」

 レッタちゃんの足元の布団から狼の顔が飛び出す。


「狼先生、そこにいたんですか!?」

『……うむ。よい。この布団』


「そして、足が(ぬく)くて、私もよい~」


『足を乗せるな……ぬっぁ!』

 布団の中で何が起きたのか分からないが、狼先生が口を開けてから、かくんと意識を失ったように見える。

 ……お、俺も入ってみようかな。いい、って言ってくれてるし。

 というか既に、布団の中に狼と鴉が入ってるし、男が一人増えても!


「くすくす。ガーちゃん、可愛い。顔、赤くしちゃって」

「そ、そう? そんな顔赤い?」

 布団で顔を隠して見せるレッタちゃんが、なんとも言えない可愛さがあった。


 こんこんこん、とノックの音が転がってきた。


「失礼致しますね」


 良い時に、誰かね君は。

 最初の印象は、真っ白な修道服。よく見たら金の刺繍が入っていた。

 蜂の刺繍。それに純白の修道服。なんか、高貴で偉い人っぽい。


「良く寝られましたか?」

 後ろ手に扉を閉めながら、修道女は訊ねてきた。

 オレたちは少し固まる。


「「どちら様?」」


 オレとレッタちゃんがハモった。


「あンさ。女の子の方はともかく、貴方とは昨日喋ったよね? 

覚えてないの、最悪なんだけど?」

 え? ああ、その喋り方。


「はぁ。まぁここには貴方たちしかいないから、キャラ作らなくていっか。

アタシだよ。昨日助けて貰った女の子だよ」

 マジ?

 だって昨日の感じと全然、雰囲気が違う。

 昨日は髪の毛だってもっと上にかき上げていたし。

 服装も、正直もっと……派手派手な服装だった。


「昨日は、ありがとうね。あんたのお陰で、本当に助かったよ。

丁度、目が覚めてて良かった」

 彼女はレッタちゃんに近づく。


 今は、凄く、淑女……聖職者、って感じだ。

 化粧を変えれば女は変わる、とはよく言ったものだ。

 昨日の、遊び慣れた女の子の姿とは到底思えない。

 いや、彼女が聖職者なのは昨日の時点で知っていたが……。


「ううん。気にしないでいいよ」

 レッタちゃんはにこっと微笑んだ。可愛い。


「ほんと、あんたは可愛いな。アタシは、ハニエリ。ここの教会の聖女の一人だよ」

 そういえば、そのハニエリっていう名前なんか聞き覚えがあったんだよな。

 どこで聞いたんだっけなぁ。


「教会?」

「そ。ここは聖ホーネス教会。そこの地下の部屋。ごめんね、少し狭い部屋で」

「これで狭いの? 超広いよ」

「そう? それならよかった。そうだ、あんたのことは何て呼べばいいかな?」

 ハニエリはレッタちゃんに質問した。


「ヴィオレッタ。好きに呼んでいいよ」

「ヴィオレッタか。綺麗な名前だね。仲間は何て呼んでるの?」


「レッタちゃんって呼ばれてるかな」

「じゃぁ、アタシもそう呼ぶよ。ありがと、レッタちゃん」


「こちらこそ。こんな良い部屋にありがとね、ハッチ」

「ハッチ?」


「うん。ハッチっぽいから、ハッチ」

「ハッチね。そう呼ばれたのは初めてだ。でも、いいね、その名前」


 ハニエリ、あー、ハッチか。ハニエリハッチでいいか?

 ハニエリハッチは、なるほど、修道女らしく優しい顔で微笑んでいた。


 お姉さんと妹みたいでいいな。微笑ましい。

 でも、それから、少しだけ暗い顔を向けたように見えた。


「そのさ。それと、一つ、お願いなんだけど。

……昨日見たこと、誰にも言わないで貰えないかな」


「うん。分かった。誰にも言わない」


「え」

 レッタちゃんがすぐに頷くものだから、逆にハニエリハッチが混乱したようだ。

 物わかり良すぎるもんね、レッタちゃんは。


「昨日、男たちに追われてたこととか、服装とかだよね。言わないよ」

 レッタちゃんが言うと、ハニエリハッチは困惑したような笑顔を浮かべた。


「……ありがとう、助かるよ。それと、これ。頭痛薬。

ガーくん、レッタちゃんの水に混ぜて飲ませてあげて」

 レッタちゃんのベッドサイドに瓶に入った粉が置かれる。


「助かったよ。幾らくらい?」

「いいよ。お金は。寧ろ助けて貰ったしさ」

 じゃ、お言葉に甘えて頂こう。

 ハニエリハッチさんが、じゃあ、と声を出す。


「昨日もガーくんには話したけど、部屋は好きなだけ使ってていいからね。

旅してるんでしょ? 疲れが取れるまでいいからね」

「何から何まで、悪いな、ハニエリハッチさん」

「いいの。助けて貰ったお礼だし。というか、その長い名前何よ」

 嫌な顔してハニエリハッチは笑って見せた。語呂は良い気がするけどなぁ。


「じゃ。ごめんね。アタシ、行かなきゃいけないから。

夜には顔を出すから──レッタちゃん、ちゃんとお薬飲んでね」

 扉が閉まる。


 薬を見つめて、レッタちゃんが、溜息を吐く。


「苦そう」

「苦くても、飲めば痛み引くみたいだよ」

「……ガーちゃん、代わりに飲んでよ。おねがい?」

「任せろ! 駄目だ、違う、それだと意味がないんだっ」

「はぁー……分かったぁ」

 レッタちゃんのコップに水差しから水を注ぐ。

 処方量は、ティースプーン二杯。これをコップの水に溶かして飲むのか。

 薬を混ぜた水を飲み、うげーと笑うレッタちゃん。


「ちょー苦い」

「薬はそういう物だから、仕方ないよ」

「はぁ。甘いお菓子食べたい」

「薬飲んだら、買い置きの飴、舐めていいよ」

「はーい」


 レッタちゃんは意を決し、ごくっと薬を飲み切った。


 

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