【01】押しかけ弟子【01】
酷い。なんて酷いことを
勇者がやることじゃない
私が
何がっ……な、なにをしてるんだ!
お前……まさか
最低
大丈夫、信じてるから。
噂は残り続けてしまう
公には言えぬな
勇者、だよね?
本当のことを話してくれ
何考えてるんだ
何か喋ってください!
民衆は、貴方の本当の声を聴きたがってますよ!
最低 非道
気持ち悪い
外道 鬼畜
お主から、勇者であることを剥奪する!
昔は、虫も殺せないような
昔から何考えてるか分からない奴で
血に慣れてそうだ。
魔族を殺しまくった奴だし、
罪は罪だ。それを裁かなければ、国家として
私が、私のうちに
人殺し
暑い。全身、汗でびったりだ。悪い夢まで見て、まさしく最悪の朝だ。
換気、窓……ああそうだ、窓なんかあるわけない。ここは浴室だ。
俺は、人間一人も足を伸ばせない程度のバスタブの中で目が覚めた。
どんな場所でもある程度、しっかり眠れると思っていたが、人生で初めて地獄のように寝辛かった。
睡眠不足で頭も痛いし、体もバキバキに痛い。
欠伸を噛み殺しながらベッドがあるリビングへ行く。
しかし……俺は、なんでリビングじゃなくてあんな場所で寝てたんだ?
ぼーっとする頭で部屋に入ると、いびき……とまではいかない寝息が聞こえた。
記憶が繋がった。ああ、悪い夢じゃなかった。
本当にこの女の子、居たんだな。
野良猫のようにもじゃっとした肩まである銀白の髪。
名前は……確か、ハルル、といっていたな。
昨日、出会ったばかりの、よく分からない女の子だ。
……いや、事案とかじゃない。連れ込んだとかでもない。
俺は腐っても元勇者だ。
こんな年端もいかない女の子を相手に変な気など……。
まぁ確かに、黒いタンクトップごしにあるそれは、発育も悪くないように見えるが。
「師匠もやっぱり男の人ッスね、隙あらば見るんスもん」
びくっと背筋を伸ばす。
ハルルは寝起きだからか頬を少し赤らめてから、体をくねらせ起き上がる。
「ばっ……俺は別に!」
「えへへ、冗談ッスよ~! それに、見たいなら、言ってくれれば♪」
「そうやって大人をからかうな」
デコピンを一発当てる。
痛いー! と声を上げるが無視する。
「師匠のデコピン超痛いッス!」
大げさな。と呟いてから、溜息交じりにハルルの顔を見やる。
「あのな。俺は、お前を弟子にしてないぞ」
「それでも弟子と名乗るッス」
「……いや、だから……。まぁ、それはいい。
ともかくお前を弟子にしないとして。聞かせてもらいたい」
「何をッスか? 胸の大きさッスか?
並よりはあると思うッスけど……」
「違うっての! だから!」
俺は少し間をおいて、静かな口調に戻す。
ベッドに座るハルルに向かい合い、椅子に腰を下ろす。
「なんで、俺が魔王討伐の元勇者、ライヴェルグだって、知ってるんだ?」
俺は、元勇者だ。
今から十年前。十六歳の時に、魔王討伐を果たした。
しかし──この女の子が、今の俺を勇者ライヴェルグだと知っている筈がないのだ。
そもそも、俺、『勇者ライヴェルグ』は、魔王討伐後に『勇者の称号を剥奪』され、『公には死んだことになっている』。
そして当時、俺は『獅子の兜』を常に被っていた。
理由は、様々……割愛するが。
取材や広告、プロパガンダにと写真を撮られたこともあるが、その全てが兜で顔を覆っている。
つまり、この女の子が俺を『勇者ライヴェルグだ』と断定できるはずがない。
今の俺は、便利屋のジン、と名乗っている。
それも、この十年の間ずっとだ。
この町で過ごしていることも、今は誰も知らないはずだ。
「お前、誰から聞いたんだ。俺のことを」