74話 竜国へ
宴会の席で俺にほろ酔いのミラルカは、興味深い内容を耳打ちする。
内容は俺が死ぬほど欲しいものだが、行きたくない場所にある情報だった。
「ソンクウの魂のありかを一つ知ってるよぅ。僕もソンクウについていっていーい? キル君も一緒にさ、いいよね。ね、ね」
ヒトを見る。オウと飲みながら俺の視線に気づいたらしい。
「大兄貴に内緒にしてたのはごめんっす。ミラルカはかまわないって言うんだけど向こうの人が、内緒にするようにと譲らなかったんす」
そうかぁー、どうしよう。
俺の態度を見たアンダルシアがほほを寄せてきた。
スキンシップが近すぎるのは彼女が酔ってるせいだ。
普段はおさえてる甘えたい部分が出ているんだね。
俺はいやじゃないから怒らないけどさ。
俺はアンダルシアのほっぺたから自分のほっぺを離して言う。
「アンダルシアは次の旅は留守番を頼む。国に必要な人間は国に残して行ってくるよ。理由は俺が生きて帰ってこれなくても、国力を落とさないためさ」
「アンダルシアは愛するソンクウ様を困らせる娘ではないです。我が君のお考えを尊重して、ソンクウ様のお帰りを待っております」
ふいにキスされるが嫌な気分じゃない。
俺もアンダルシアに応えるのだ。
耳にヴォルフの「前世で経験しなかった思春期であるな」が聞こえた気がする。
俺の生きて帰ってこれない発言を聞いた。
あるいは察した仲間はおいていくことにする。
ルーとセーナはいう事を聞いてくれないが、最後はなんとか了承してくれた。
それぞれの役割があるし、国は指導者がいなくなったら大変だ。
俺の場合は国はアンダルシアが運営しているから構わないのさ。
早朝旅のメンバーが飛行船で、トウ・ダーラの領土を出ていく。
メンバーは俺・オウ・ヒト・サンあとはミラルカとニャハルだ。
オウとヒトは兄貴と一緒に行くと譲らない。
サンは思うところがあるらしい。ついてくるという。
ミラルカはアーガシアの知り合いだからとりなしてあげるよといって。
ニャハルの場合は、俺と命がつながっているので一蓮托生だ。
ついてくるなという方がおかしいだろうね。
この六人でアーガシアのいる。竜国ドラグニルを目指す。
俺の魂がそこに一つあるのはミラルカから聞いている。
でもアーガシアはアベル嫌いで有名だ。
彼女は、アベルを名乗る者を片っ端から殺して回った伝説がある。
だから俺の生きて帰ってこれない発言なのだ。
むざむざ殺される氣はないけどね。
ふと氣づいたがミラルカが俺をちらちらと見てくる、悪意は感じないが、ミラルカは俺に隠し事をしている。
なんなんだ。
【ミラルカ視点】
▽
ようやくばあちゃんがソンクーに会う決心をしてくれたよぅ。
僕が本物のアベルだって何回も言ってるのに「むりじゃ~~。恥ずかしくてたまらぬ~」だって。
僕もあんなばあちゃんは初めて見たからびっくりしたけど。
ばあちゃんの初めての恋だと思えば、僕もキルくんで経験したことだから納得はできる。
ばあちゃんに内緒だって言われたから……ソンクーにはアーガシアの『アベル嫌い』の誤解は解いてないけど。
ばあちゃんは自分の口からきっと説明したいんだよね。
▽
俺たちは飛行船でいける場所からおりた後、ドラグニルがある山脈をひたすら登っていく。
俺は途中ワイバーンやレッサーではあるがドラゴンを蹴散らしているけど、成長限界を迎えたこの体は、レベルが上がる事はなかった。
くそぅ早くレベリングできるようにしたいぜ。
竜国ドラグニルに到着した後はあっという間に城に招かれ部屋に通される。
案内してくれた人。
まぁ人ではなく、人化したドラゴンなんだけど。
その人の説明によると王は夜まで帰らないらしく、アーガシアから俺たちは客人として、ドラグニルで自由にしていいと許可が出ているそうだ。
俺は国をぐるりと見て回ることにする。
なにせアベルの夢は世界のすべてを見て心に納めることだから。
俺は前世から散歩が趣味だったりする。
城から出た時だった。
目の前に、おでこを出した金髪の少女が立っている。
一緒にいるのは祖父かな? 老爺に。
「アーガシア様のお客人には案内をつけさせていただきます。どうぞこの娘をつれてください」
そう言われる。
案内人か。見張りも兼ねてるんだろうが不思議な子だ。
俺より幼い外見に反して、『すべてを見通すような目』をしている。
「アベル・ジンジャーアップル様」
俺の手を握り少女は微笑む。
アベルの名をもつ者を殺しつくしたアーガシアとアベルは生前あったことがありません。
アベルはアーガシアに憎まれていると思っていますから、作中の生きて帰ってこれない発言なんです