73話 創造神バルケスティと使い
空が曇ると消滅したはずのヘンリーが、早戻しのように再生される。
奴の能力でないのはヘンリーがいう「俺はなぜ? しんだはずだ」の言葉で確認できた。
どうやらヘンリーに力が、注がれているみたいだね。
『オろかものめ。先走り手の内を見せた貴様の責任は死に値するぞ。力をくれてやるから相手の数を減らしてこイ』
「ぎょおおおおおおぅ。イブナス様ぁな……にを」
人間種の状態からギルドロムの姿に変わったヘンリーは、空からの稲妻と光にうたれて巨大化し始める。
最終的に50メートルの大怪物に変貌する。
「ギョォオオオオオオオオオオオオオン」
ヘンリーは知性はなくなり、魔神の捨て駒に変えられた姿で動き始める。
もちろん俺たちを殺すためだ。
「にゃあ、マスター。ニャアが相手しようかにゃん? いつでも命令してにゃ」
獣人のニャハルは本来の姿の大化け猫に変じて、戦うと言っている。
たしかにサイズは相手と同じだし、実力はヘンリーよりニャハルの方が勝る。
たとえ魔人の力がプラスされてるヘンリーでもニャハルには勝てない。
俺はニャハルにちょっと待ってという。
素直に応じるニャハルは俺に頭を向けてくる。
なでての合図だね。
なでてあげたらニャハルは喉をごろごろ鳴らして大変可愛らしい。
話は戻すけど、見せ場をとるわけには、いかないぜ。
フェンとヒトが来ているということは、恋する魔王も来ているということさ。
空中からバァンッと音がしてヘンリーの前に巨人が出現する。
ミラルカがイフマイータの魔力が顕現した鎧、を召喚してあやつるのだ。
「ルーヴァン、アベル、ヴォルデウスも見えるよな。千年前は恐ろしかったけどさ、味方だと頼もしいよな」
セーナの言葉に千年前イフマイータと敵対したものがうなずく。俺もだ。
俺はセーナが言う前から口に出さずに思っていた。
ルーのやつもふぅと一息ついている、戦闘中だが安全になったことを悟ったからだ。
巨人となったミラルカは左手でヘンリーの首をつかむと、そのまま締め上げる。
右手は力を込めて待機していた。
ミラルカはヘンリーを舞台にたたきつけて、右手をヘンリーの顔面に振り下ろす。
たった一撃で魔神に強化されたヘンリーは戦闘不能になる。
舞台上に俺たちもいたんだけど傷一つ、ついていない。
ミラルカは巨人になるときに、自分とヘンリーの攻撃がすりぬけるように調整したようだ。
神越えは何でもありだね。
この後俺たちは新たな仲間のブーニカと判明した敵のヘンリー討伐を祝う祝勝会を満喫する。
▽
「はぁーはぁー。イブナスの力が注がれたおかげで蘇生できるとは。しかしイブナスのところには帰れませんし、この後どうしていくか……」
腕を押さえて足を引きずり歩くヘンリーは残った生命力で歩を進める。
そんな彼に声をかける人物がいる。
「何の用です? トーマ・フルツ。負けた俺を笑いに来ましたか。いやイブナスに俺の始末を頼まれた……そうでしょう!」
何も言わずにトーマは剣を抜くと一閃。
ヘンリーの首は宙に舞い、胴体は力なく地面に倒れる。
直後トーマに念話が入る。
「トーマ氏ヘンリーはやっつけた?」
「トーマさんなら、変化する必要なくヘンリーを倒せるはずですが、うまく奴をやれましたか」
「アリスにロンメルか。大丈夫だしっかりヘンリーの始末はつけたぜ。おっ、上司から確認が来たからいったん切るぞ。俺の分のごちそうは残しといてくれよ」
トーマは深呼吸した後に、自らの主の念話に出る。
ノイズが混じるが最初だけであとは鮮明になる。
ノイズは『魔神のくず野郎』に聞かれないために、わざとかけているのをトーマは知っている。
「トーマ、私ですサンです。ヘンリーは倒せたようですね、この後は今までどうりにアベルを陰から支えてください。采配はあなたたちに任せます」
二重スパイの身を案じるサンの声はどこまでも優しい。
トーマ・アリス・ロンメルは所属こそ十英雄。
つまり魔神側だが、実は最初から創造神に任務を与えられている。
アベルの味方が正体なのだ。
「了解した。あんたも正体が外部に漏れぬように、気をつけてくださいね。サンいや……創造新バルケスティ様」
ヘンリーの死体を処理した後に、トーマは転移を使いトウダーラへ帰る。
トーマたち三人組の正体は創造神のスパイでした。アベルが邪悪な人間ではないと、判断しましたけど当たってますね。
サンは創造神が変化した姿です。
彼女の本体は封印のカギに使われています