5話 ゴブリン村の戦い2
格下のゴブリンのくせに生意気な口を利くやつだ。
奴の表情からそう言いたげな様子が見て取れる。それと同時にいぶかしんでいるようだ。
目の前にいるゴブリン。
つまり俺だけれど、キルレインは今の一撃でサポート種の認識はあらためているだろう。
だからと言って敵はあくまで自分の方が上だと思っている様子。
好都合だ。
村人に被害をださないためにも戦いを長引かせるつもりはない。
「調子に乗るなよ、ゴブリンめがぁ」
打ち下ろしてきた攻撃を受けて刀身をななめに流す。それと同時に。
「ふっ」
受けた剣の柄から片手をはなし、相手の剣をつかむその手の指を二本へし折ってやった。
「~~~~~ーっ」
キルレインは痛みに歯を食いしばる。
「があっ!!」
俺めがけて大ぶりの横なぎをキルレインは、はなつ。
俺はその大振りをしゃがんでかわすと。
「アベル流牙断ち(きばだち)」
瞬時に、それと、ほぼ同時に巻き起こる二撃のもとに決着はついた。
一撃はキルレインの持つ剣をふんさいして次の一撃は、やつを戦闘不能の状態まで追い込む。殺しはしない。
そうするのはキルレインに役割が残っているからで、気絶しないように手加減もしておいた。
「勇刃隊の頭目キルレインは討ちとったこのソンクウとオウ次郎を相手にまだ戦う意思のあるやつはいるか? いるなら一歩前に出ろ。お前達が死ぬまで相手をしてやる。ない者は武器を捨てて投降しろ、命と安全のほしょうはする!」
俺はばか面下げるキルレインの耳を引っ張った。
「ほら、なにほうけてるんだい。お前も言うんだよ」
「け、剣を捨てて投降しろ。こいつらは約束は守る」
自分たちの頭の言葉を聞いてそれまで戸惑っていた盗賊たちは一人、また一人と俺たちに投降した。
村の外ではコボルトの兵団が野盗たちを囲んでいるのも大きかっただろう。
オウ次郎に指示し援軍を要請したことでコボルトたちは今回の戦に、援軍として来てくれていたのである。
▽
村の呪い師の回復魔法で野盗含め全員が回復した後のこと。
とらえた野盗団は解散させた。そして残ったキルレインなのだが。
「なあ、あんたサポート種のゴブリンだろう? なのに何であんな剣術が使えるんすか、あれは『王家流』なんだろ?」
「剣術は俺が編み出したんだ。使えて当たり前だよ。……あと顔近いんだよ、もすこし離れたまえ……。それより、なんだい? その『王家流』って?」
「『王家流』ってのは国お抱えの正統流派っすよ。ゴブリンさんは自分で編み出したって言ってたけどあれは間違いないロイヤル・エワード王国の『王家』ロイヤル・エワード流だ。なぁその剣俺にも教えてくれよ! 俺さ王家流にあこがれててさ、俺みたいな何のこねもない人間は門前払いなんだよ!」
今の今まで敵対しといてむしのいい話を言うね、と思ったが妙に必死なのが気にかかる
「いいぜ、教える。そのかわり悪さには使うなよな」
キルレインをギロリとにらむ。
「もちろんっすよゴブリンさん」
悪党はいい笑顔だ。
「まずくない兄貴?」
「いいんだよ、オウの言いたいこともわかるけどね。昔(アベルだった時)に剣を教えた弟子の中にこいつよりもあくどい子がいた。彼は自分以外の命すべてを憎んでいてさ。……生まれによるものだったがひどいものだったよ……そんな彼も、免許皆伝の認可をさずけるころにはしっかり更生できていた。人間なんてそんなもんさ。だから俺は……教える者は選ばないなんであろうと誰であろうとだ……」
「甘いと思うけどなあ」
「オウは賢い子だね。教え子が俺の流派を使い悪事をはたらいたら大変なことに氣づいてる。そのときは俺がまいた種だ、俺がもちろん始末をつけるさ」
いい話のようでぜんぜんいい話じゃなく。キルレインからすれば物騒な話は終わりを告げた。
しかししょうがないよね、俺の教えは『誰にでも教える』ただし『悪さに剣を使うな』なんだから。
いま言ったように、教え子が道を外れるようならば、師である自分が責任をとるだけなのだ。
「お前にも名前を付けてあげよう」
「名前って、俺はキルレイン・ヴァン・オーゼルユイヴァスって……」
「長いし、お前みたいな未熟者は本名では呼んでやらん、仮名が嫌なら早く一人前になりなさい」
キルレイン君は、嫌そうな顔を見せたが何も言ってこない。
弱肉強食のこの世界で、己の意志を通すなら強くなくてはいけない。
師である俺の意見がきけないなら剣の伝授はしない。キルレイン君もそれをしっているのだろう。
「ちぇっ、じゃあせめていい名前にしてくださいよ」
『ヒト三郎』
我ながら良い名付けだと思った。
彼は目ん玉ひん剥いて口をパクパクさせている。よほど気に入ったようだ。
「ふざけんなよ、元の名前が一字もかすってねーだろうがなめてんのかコラぁ!」
「嫌か、剣を教わるのをやめるかい」
「ぐっ・・わかった」
先生へさっきの態度は良くない、おしおきをするか。
「教えてください。見目麗しく偉大にして慈悲深きお方ソンクウ大先生様だ」
「わ、わかりました。教えてください見目麗しく偉大にして慈悲深きお方ソンクウ大先生」
「『様』をつけたまえ! やりなおし」
オウ次郎は二人のやり取りを見て思う(兄貴が普段と違う。村と命を狙われて怒ってるんだ)
悪ふざけが過ぎたか、頭を下げたキルレイン君の体がぴくぴくとふるえてる。
「言いすぎたな悪い。オホン。俺の下にはオウ次郎という弟分がいる。お前はその下、つまりオウ次郎のことは『兄貴』俺のことは『大兄貴』とよべ、いいねヒト三郎」
「わかりました……もう何でもいいっすよ大兄貴」
わかってもらえたみたいだ。
オウ次郎もあたらしい兄弟が増えたことを喜んでいる。
「父さん、一人食いぶちが増えるけどいいかな?」
「いいぞ、増えてもその分はたらいてもらえばいいんだ。労働力が増えるのは大歓迎さ」
父からも許可をもらいゴウジャ家にこうして、新しい家族が加わった。
【レベルが上がり神々からの祝福を授けます ちからまもりすばやさが10上昇 体力魔法力が50上昇しました。攻撃魔法の火、水、雷、風、土を習得…いえ『取り戻しました』】
頭の中に神が伝える世界のメッセージが流れる、今回の戦の経験値は大きかったなと俺は思った。
あの戦が終わってから二日が過ぎていた。
オウ次郎とヒト三郎を朝はやくに鍛えて、そのあとに子供を含む村人全体に新しくできた道場で剣の稽古をつける。
おだやかな時間が流れる。しかし、生前に聞いたあの天啓
「お前のもとに使いを出す」という創造神の言葉を信じて待っているんだが……。
使者はまだ来ない。
すこしイジワルいソンクウちゃんでした。
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