71話 堕ちた十英雄 1
「七勇者が一人増えるのか。この流れは容認できませんねぇ」
突如、大闘技場に不気味な声が響く。
俺は声の主を探すと、そいつは観客席にいた。
蛇のような目と爬虫類を思わせる外見の、長身の男が足を組んで座っている。
全身からでる闘氣は邪悪一色でどちらかと言うと瘴氣に近い感じだ。
いつのまに入り込んだんだ?
「くだらない競争心で俺たちの足を引っ張りやがる」
奴を見上げる人物の中でチッと舌打ちする人間がいた。
トーマ・フルツだ。
トウ・ダーラに逗留している冒険者と本人は語るが、正体は邪悪な侵入者と同じ十英雄の一人である。
アベルの件は魔神から、トーマ・ロンメル・アリスに一任されているのだが。
あいつはトーマを気に入らず、七勇者を殺しに来ているのだ。
それがわかったからトーマは舌打ちしたのである。
侵入者の男は立ち上がると一瞬でアベルの前に立つ。
「俺は魔神イブナスの十英雄が一人。イブナス様のおんために七勇者たちには、ここで消えてもらいます」
「いきなり出てきて、消えてもらうは穏やかじゃないね。見た感じひとりだけど、あんたはこの人数が見えてないのかい」
「聞こえるか!! 七勇者は俺が一人で始末します。手出し無用、お前たちは指でもくわえて見ていなさい」
俺は周囲を探る。
なるほど、ここに姿を見せていないが、仲間がいるのか。
お前たちということは、複数がどこからか状況を見ているというわけだなぁ。
それにしてもかなりの自信家だね。
「一人で始末とはね」
敵の体は膨らみ膨張したと思えば、次の瞬間に形が固定される。
その姿は異形だった。
人の形をしているが全身がうろこに覆われている。
リザードマンじゃない。
彼らはまだ親しみのある姿だ。
こいつの姿はギルドロムを無理やり人の形にしたような異質さがある。
「あらためて名乗らせてもらおう。俺の名はヘンリー・リーク魔神に選ばれた十英雄の一人で、魔神が創生する新たな世界に生き残る者です。魔神様より授かりしこの力……とくと見るがいい!!」
俺はヘンリーのナイフのような爪の手刀をかわし、距離をとって着地する。
剣を走らせて、置き土産もつけておいた。
「さすがはアベル、今の攻防。あの一瞬で斬撃を放つとは、スペックの劣る小妖精とは思えぬ戦闘力。」
ヘンリーの腕の傷があっという間にふさがる。
「魔神様が創造神より警戒するはずです。なにより魂を四分割されているのに、この力ですからね」
「人類の裏切り者に告げる。この地より去りイブナスに語れ。我々はお前から大権を取り戻して、お前の息の根を止めてみせる。お前の子供のようなわがままはもう終わりだと、そう伝えなさい」
ギシィと笑うヘンリーはサンをにらみつける。
「創造神の使いですか。貴様こそ主に言うんですねぇ。こそこそしてないで表に出てきてみろと。バルケスティめは天界で神々どもに守られながらこのゲームをしているのでしょう。よくも勇ましい口が利けるものです」
突如ヘンリーの体が震えだす。
「使いは見逃してあげます。私の今の言葉は貴様の主に必ず伝えなさい」
爆ぜた。
大闘技場の中に何百と分裂したヘンリーが暴れ狂う。
ヘンリーが言っていた一人で始末の意味がわかった。
こいつら十英雄は魔物と融合させられていて、融合した魔物の特性を使いこなせるのだ。
ヘンリーはギルドロムがもつ分裂の能力を使って、一人で俺たちを全滅させる気だ。
上級兵士が槍をヘンリーに突き刺すが槍の方が折れてしまった。
「無駄ですよ。私の体はギルドロムだけでなく竜族も合成されています。斬鉄の実力がないものに私は傷つけられません」
ヘンリーはブレスを上級兵士に放つが、すんでで避ける兵士。
よし日ごろから鍛えていた成果が出てるな。
「兵士は下がれ。出入口を固めてやつを逃がさぬように務めろ。こいつは俺たちだけで相手をする」
俺の言葉のとおり一糸乱れぬ動きで出入口を固める兵士たち。
オウ、アンダルシア、ベアンとサン。
あと客分のトーマ殿たちは……避難してない?
「トーマ殿たちは避難してくれ。今回はトーマ殿には荷が重いよ」
そう言うんだけど、トーマは後学のために見ておきたいと譲らなかった。
まぁ自分の人生だ、好きにすればいいさ (そう思いながらもピンチになると助けるアベル)
おぜん立ては整った。
俺はヘンリーを睨む。
「覚悟はいいな、人類の裏切り者。お前の相手は俺たちだ!!」
ようやく魔神側の七勇者的な存在が動きました。しかし魔神尾想定外の動きでイブナスはすごく怒っています。
ヘンリーの運命やいかに