4話 ゴブリン村の戦い1
村は危機にさらされている。
四方を囲まれ、逃げないようにして俺たちを皆殺しにするつもりだろう。
殺氣がハッキリと感じとれた。
今朝がた実戦練習としてオウ次郎を連れて村の外でモンスター退治をしていたときである。
村へとかけていく集団を見た。
ひと目で隠す氣がない殺氣と村を襲う気配がわかったので、スグに引き返すことにする。ただし!
「オウ次郎いいか……おまえは」
俺は指示を出して、オウ次郎を別の場所へむかわせる。
村へ帰ると、野盗の頭目が勝手なことを叫んでいた。
「われらは傭兵『勇刃隊』。魔界を根城にする邪悪なるゴブリンを殲滅する。われらが神は悪意ある小鬼を許さない。また人の世の安寧を守るこの戦いは天意としれ」
かなり寝ぼけているようだ。
こいつらは村へきて一方的に俺達を鏖にするといってる。
当然そんなことは受け入れられない。
村長のイスドゥレンが一歩前に出て交渉を開始する。
「人間種の勇者殿、なにかのまちがいではございませんか? 確かに我らはゴブリンです、ですが体色を見てもらえばわかる通り、我らをおつくりになったのは忌むべき魔神ではなくあなた様の種族をおつくりになった創造神でございます。そして我々はあなた様の同胞を襲ったことすらありません、……罪なき者への一方的な殺戮はあなた様の名誉にも傷がつきましょう。どうかお引き取りを」
この世界にゴブリンは二種類いる。
ひとつは神々と敵対した魔神が生み出した魔物の小鬼だ。
邪悪であり万象の神々が生み出したすべての命に悪意を持つ。
小柄で醜く濃い緑、黒にちかい灰いろの肌をしてるのが特徴だ。
強い性欲を持ち冒険者といえど女とみれば襲うこともよく知られている。
そしてもう一つが俺、つまりアベルが転生した種族だ。
創造神バルケスティが魔神と仲たがいする前にすべての種族のサポート役として生み出した妖精の亜種の小妖精だ。
カラフルな瞳色が特徴で見た目は小人に近い。
牙があり耳が少しだけとがっている。
正直小鬼の方に転生していたら俺は間違いなく自分で命を絶っていただろう。
村長の返答に対し頭目は返答する。
「貴様が言ったことは百も承知よ、俺は名誉が欲しくてな、いくらゴブリンが弱いといっても命の危険があるならやりたくはない。魔神のつくった小鬼とはな。だから貴様らを狙うのだ。命の危険はないし皆殺しにした後でいくらでも悪評をつけることができる『邪悪なゴブリンの集団をたおした』とな」
最低の返答だ、当然村の誰もが納得できるはずもない。
「まあいい、納得はできんだろうからな、貴様らにもチャンスをやろう一週間の猶予をくれてやる。ソレでせいぜい抵抗の真似事ができるようになっておけ。おっと逃げるなよ、見張りをつけておく逃げた瞬間村を襲わせてもらうことにしよう」
下卑た高笑いをした後ヤツは去っていった。
ほんのわずかに寿命が延びただけだがとにもかくにも努力するしかない。
「ソンクウ」
「わかってるよ父さん、こんな時母さんがいれば……だろ?」
トウシン・ゴウジャ。俺の母親は名をはせた有名な傭兵である。
小妖精とはおもえないオーガじみた攻撃力に、龍の角すら握りつぶす怪物じみた怪力。
そしてその両腕から繰り出される攻撃はまさに一撃必殺と呼ぶにふさわしく。
下手したら魔王の幹部、魔王将……いや魔王そのものに匹敵するかもしれない。
この戦う力をもたないゴブリン村が平和を保ってるのもひとえに母の力によるものだ。
「出稼ぎで遠くに出ているトウシンは、いつ戻るかもわからない」
「俺達で何とかするしかないね、大丈夫さ。村に損害は出させないし、みんなの命なら特にさ」
「ソンクウよ、おぬしが教えてる剣術のおかげで我らも少しは戦えるつもりじゃ……。」
「生兵法で実戦したら命がいくつあっても足りないですよ『技』の一つも撃てないんじゃあね。村長、いいですか、俺に考えがあります。オウ次郎にもそのための指示をしてるしなんとかなりますよ」
あと一週間しかない時間の中で、ひよっこが急に達人になるなんて奇跡は起こらない。
だったらなるべく直接対決は避けて一気に本丸を攻め落とすしかない。
小さな村を守る小さな戦いを前にかつての勇者『アベル・ジンジャーアップル』の心は燃えていた。
三日たってオウ次郎が帰ってきた段取りはうまくいったらしい。
「話はうまくつけてきたかい?」
「うん」
「よくやった、この村で戦力は俺とオウだけだ。お前にも頑張ってもらうけど構わないかい?」
「オウ!」
俺は頼もしい弟分をもった。
戦力にはならないといっても村人にも一肌脱いでもらうことにする。
自分たちの村のためいやという村人は一人もいなかった。
▽
村の前まで来た野盗団は二つに分かれる、一方は少数ながらも村の包囲を、もう一方は村に侵入してくる。
「頭ァ、こいつらやるつもりですぜ。」
「そうらしいな。」
キルレインはくちもとをゆがませた。
この村のゴブリンは妖精の近縁種だ。
自分たちの役に立つためにサポートは得意だが戦う力はほぼないといってもいい。
化物のトウシンの噂は聞いたことがあるが、その化物の不在のときを狙ってきている。
キルレインの勝利は確定といっていいだろう。
「しかし…気に入らんな」
そう、そんなゴブリン達なのだがバリケードを作りその奥から弓で応戦してくる。
まるであきらめていないのだ、そのことがキルレインをいらつかせている。
飛んでくる矢を剣でなんなく落としながら馬の歩を進ませる。
ゴブリン達はひきつけながら矢を放ち、距離が近くなるとバリケードを放棄して後退しながら矢をはなち。後ろに構えていた新たなバリケードにとりつく。
そして矢をはなつといった具合だ。
何か策があるようにも見えない、いやあるはずがない。
もともとが戦いなど無縁のサポート種だからこそ何の危険もない獲物としてこいつらを選んだのだから。
「フッ所詮俺達とは戦いの年季が違う」
キルレインがそうひとりごちして馬を前に進ませたとき、キルレインから離れた後続(分断)へむけてオウ次郎が突進する。
「オウゥオオオオオオオ―――!!!」
「なんだっ?」
「オークだ」
「お、落ち着けぇたかがオーク一匹だ」
家の中に潜んでいたオークが壁を突き破り突如野盗たちにおそいかかってきた。
命の危険などないと、たかをくくっていた者たちに命を刈り取る暴威がせまってきたのである。
後続の野盗たちがパニックになるのも無理からぬことだった。
魔力を用いた念話で弟に合図を送った影はその様子を見届けた後―――
目標めがけ潜んでいた家の屋根より跳躍。
そのまま首魁のキルレインの頭へ強烈な一撃を振り下ろす。
奴は何とか剣で防ぐが小柄なゴブリンとは思えぬ一撃に剣を持つ手をしびれさせた様子だった。
キルレインを見た俺は着地と同時にキルレインに向けて言い放つ。
「覚悟はいいな悪党、お前の相手はこの俺だ!!」
俺の胸の火が炎となる。
ソンクウちゃんは村を守れるのか
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