65話 彼女を頼みます
落ち着きをとりもどしたヴォルデウスはあの後、いろいろと準備をするので今日はここまでにしてほしいという。
俺の仲間には準備のことで相談があるので残ってほしいといった。
まぁヴォルデウスは俺の敵になる男じゃないし、信頼できる仲間だ。ここは彼の意志を組むようにするか。
というわけで俺はヴォルデウスと仲間たちに「また明日」というと俺の子孫のメーレに案内されて神殿の出入り口へと向かう。そのとき
「アベル。わがはいのあだ名を覚えているか? 貴公がニセモノでなければ言えるはずであるが」
「あんたはよっぽどニセモノにいやな思いをさせられたんだね。」
ちなみに「ニセモノはヴォリーやヴォールと言ってましたよ、まぁあてずっぽうですけどね」とメーレが教えてくれた。
表情と声は柔らかく変化しており、こっちが普段の彼女なんだろうとわかる。
さぁ簡単な答えを正解しとこうかい。
「明日来る時は茶菓子でも用意してよ。それと……俺の仲間に俺の失敗を話すなよな。またね【ヴォルフ】」
なんだいその嬉しそうな顔は。
街を一回りして宿に戻るか。今度こそ俺とメーレは禁踏域の部屋を後にした。
残ったアベルの仲間を見据えてヴォルデウスは口を開く。
心の迷いが晴れたせいか憑物が落ちたような、アベルのよく知るヴォルデウスの態度と声だ。
「準備は嘘だ。アベルを遠ざけたかったのでな、現在の仲間達からアベルの近況を聞きたかったのだ。わがはいの知らぬ【貴公達のアベル】のことを」
そこからは皆が口々に自分の知るアベルの話をした。
やはりわがはいの思った通りほとんどの者が、アベルに助けられて仲間になった者達だった。
いつだったか酒の席で聞けたアベルの英雄の話。
アベルは助けられて嬉しかった感覚を、みんなにも知ってほしいと喋ったことがある。
普段なら母親の話をしないアベルだが、酒で酔う状態は普段どうりではないので気がゆるんだのだろうが。
アベルは意の如く(すきなように)自由に世界を駆けて、仲間を増やしているんですね――
「ゴホン。この喋りは私の素なのですが、皆に聞いてほしい話があります。あとはお願いですね……皆から見たアベルはどんな人間でしょう?」
「僕が知る兄貴は何があっても大丈夫さと、何とかなるさって言って、ほんとにそうしちゃう強い人だよ」
「140年の支配を取り払ってくれた凄い人、私の愛するお方です。我が君はなにより芯の強い人です」
なるほど、アンダルシアとオウ次郎はアベルをそう見ているか。では他の三人は?
「マスターにゃ? ニャアを岩から出してくれたし。ニャアにいろいろ教えてくれる『正確は勝手に教わってる』いいマスターにゃ。将来ニャア達、神越えの頂点に立つ強い人にゃー」
「姫様はサポート種のゴブリンの体というハンデがありながら、私を簡単に敗北に追いやった戦闘力があるお方で、私が敬愛するセンセキ様のご息女であらせられる尊き……そして、強きお方です」
「創造神がこの世界の命運を託した強い人っす」
アベルへの評価は皆同じ、強い人。だからこそきいてほしい。
わがはいはこの世界の弱い魔物である角ウサギの話をした、強いか弱いかという質問だが当然全員が弱いと答える。
だが初戦闘の村娘には手ごわい相手だったのだ。
「負けはしないが戦闘が終わるまで剣を持つアベルの手は震えていた。皆が強いと断じるあのアベルも最初から強かったわけではない、彼女なりの考えと鍛練と勇気で、困難を超えてきたからこそ今のアベルがいるのだ。この先もアベルは、【みんなのために】と体を張るだろう。彼女の助けになってほしい」
わがはいは深く頭を下げる。
「妹をよろしく頼みます」
もちろん血のつながりはないが、自分をすぐに追い抜いてしまった小さな少女を、ヴォルデウスは妹のように思っていた。
誰よりも長くアベルと旅をした。
アベルなら一人で何でもできてしまうかもしれないが、仲間の力が必要な時もあるだろう。
わがはいは仲間が増えるたびにこのお願いを仲間たちに繰り返してきた……アベルが知れば間違いなく【余計なお世話】といわれることなのだが。
「「まかせとけって」」
しかしヴォルデウスのお願いに、アベルの新しい仲間たちは全員がアベルの様に返事をする。
なんと心地よい気分にさせてくれる仲間だろうとヴォルデウスは笑った。
▽
「はっくしゅん。ヴォルフのやつ……みんなに何か言ってるな~~」
街中を散策する白いゴブリンはくしゃみをした。
アベルの最初のパーティーでアベルとヴォルフだけ本気のケンカをしたことがありません。
理由はヴォルフが先に折れるからです。
血のつながらないこの兄妹は仲良しなんです。