62話 パラディーゾにて 2
パラディーゾ神殿の中を女性が何やら機嫌悪く歩いていた。
ああ腹が立つ。初代様が罰しないとはいえニセアベルの出現は止まらない。
最初こそ本物かもしれないと、初代様に謁見させることがあったけど、今では私の判断で面会謝絶するようになった。
理由はヴォルデウス様のお心が失意とあきらめのはざまで壊れてきたからだ。
だからこそ世話役……現教導主の私メーレ・アップル・モ-トンがこの方の精神をお守りする。私の先祖アベルの仲間でアベルの娘のメーラの養父。
そしてこの国のすべての教徒の父とよべるこの方を! 誰でもない私が守るのだ!!
「どうした? 今日はいつになく不機嫌そうではないか」
いけない。私としたことが物思いにふけってヴォルデウス様に心配させてしまうとは。
私はあわてて表情をもどすと問いに答える。
「申し訳ありません。またニセアベルが出まして、話を聞いてやったのですが。今までのニセアベルと違いその……ヴォルデウス様を伝記に書いてある【教主様】ではなくヴォルデウスと呼び捨てにするのです。もっもちろん不敬だと咎めたのですが」そういいながら手に力が入る。
だって普段話温和なこの方が怒ってるんだもの、眉間にしわが寄り目を開いて、くそぅ全部あのゴブリンのせいだ。
「そしたらゴブリン。小妖精の姿なんですけど、『俺はあいつを旅の中で一度だって教主様なんて呼んだことはないぞ、ヴォルデウスはヴォルデウスだからな』って言ったんですよ。人間種ですらないゴブリンが悪知恵をつけたか知りませんが、本物のはずがありません! すぐに追い返してやりましたよ」
私は胸を張る、ヴォルデウス様に近づく邪悪の輩を排除したんだ。
いつものようにヴォルデウス様から「よく働いてくれましたね」とお褒めの言葉がいただけるはず。
……なのだが少し様子が変だ。このお方から帰ってきたのは誉め言葉ではなかった。
「そのゴブリン私へ他に伝言を残したはずです。聞いていませんか」
一人称が私はこの方の素だ、普段わがはいと貫禄があるようにふるまうこの方がとりみだしている。
「え? あの」
「はやく!!」
ひえっ。そんなこと言ってもなにか――あ、言っていいのかな?
「こ、こういえばわかるって言ってましたヴォルデウスは怒るだろうけども、とも『俺のニセモノ相手にしたくらいで落ち込んでんじゃないの。キンダしゃきっとしろよ!! 千年ぶりのあんたとの再会は俺の知るヴォルデウスがいいからさ』」
その伝言を聞いたヴォルデウスが、明日の全スケジュールをキャンセルして、アベルの泊まる宿に使いを出すのはすぐ後だった。
「姫様。神殿より使いの者が来ております。明日の朝神殿まで来られたし。だそうです」
「うん。思ったとおりさ」
明日千年の時を超えて『はじまりの勇者』と最初の仲間が再開するのだ
神視点だとソンクウ=アベルと知ってますが、キャラクターはわかりませんから。
この話はそこを意識しています。
ヴォルデウスはアベルのニセモノを罰しませんが、パラディーゾの人間たちは、教主を悲しませた悪党に罰を与えています。悪事はだめです