60話 セルバスの夢
学園都市からいける別の空間に浮かぶ魔法使いの島に客人が滞在している。
勝気がかった目は己の強さを微塵も疑っていないことを見る者に悟らせる。
すらりと伸びた長い手足は細身だが力が強いとわからせるよう自然と筋肉がついていた。
細い体に似つかわしくない大きな胸は……けれどもこの女性に限り見事に調和されていて、見る者に不自然さを感じさせない。
おまけに彼女の肌はこんがりと焼けているような健康美があり、男なら振り返らずにはいられないだろう。
ただし外見の美しさにあわないその性格を除けばなのだが――この魔法使いの島の主人ルーヴァン・ベトヴィエは素直に思った。
ルーヴァンの思いなど知らない客人――セルバス・バティハはぶっきらぼうな口調で口を開く。
「お前が見たのは確かに【あの】アベルでいいんだよな。ダンジョンの攻略途中で抜けてきたんだからな。ガセとかいうなよぉ」
塔の窓から外の海を見ていたセルバスが振り返りながら、私に質問してくる。
そわそわと体を動かして、目なんか明日の遠足を待つ子供のように輝かせている。
「ええ、我らが勇者アベルで間違いありません。ただし人間種の体ではなく、ゴブリンの体ですけどね。それでも魔帝ミラルカ。獣帝ヴァルハラハルの思念魔獣を相手取った胆力と戦技」
いいながらカップをひょいと持つとルーは中の紅茶を一息に飲み干す。
「そしてこの目で――アベルが実際にセンセキの魔王将筆頭を負かして見せたのを見ました、それも圧勝ですよ。さすがはアベル……サポート種の体であんな真似ができるのは、我ら(ルーヴァン・セルバス・ヴォルデウス・レンタロウ)が心から認める【勇者の中の勇者】アベルだけでしょう」
「あのアメシスをゴブリンの体で負かすかよ! うちらの大将はさすがだぜ!!」そうつぶやくと、セルバスはルーヴァンへ勢い良く近づいてくる。
もちろん塔を出てアベルの元へ向かうためだ。
魔法使いの塔はルーが空間をあやつり制御しているため、自分の足で下へ降りるよりもルーに出口へ飛ばしてもらった方が早いのだ。
セルバスは最後に、私に肝心なことを聞いてくる。アベルの居場所だ。
「トウ・ダーラか。よくわかったぜーーまってろよアベル!!!」
こうしてルーヴァンから完全な転生法を受け取ると、セルバスは魔法使いの塔を後にするのだった。
▽
「これが一週間前の話です」
自国……トウ・ダーラの大武闘場で新たに得た仲間を鍛えているアベルは、鍛練をオウ次郎に任せるとルーヴァンのそばに近づく。
それから先ほどの、ルーの話しに言葉を返すのだ。
「ルーの念話で聞いてからさ……待ってるんだけど、セ-ナのやつは姿を見せないな。」
「もしやセルバス殿の身に何かあったのではないですか」
気配もなくズイっとカラットの魔王アメシスが間に入りながら言ってくる。
ふつうなら仲間の身の心配をするところなんだが、セルバスに限っては大丈夫だろう。
「殺しても死なないですからね」
ルーはきっぱりと言い放つ、なんて仲間がいが、ない女なんだと思われるかもしれない。
セーナとルーは仲が悪いわけじゃない、むしろお互いを仲間として大切に思っているわけで。
ルーのこの悪口に聞こえる言葉は、セーナの実力を高く評価してる証なのである。
だから俺も「おおかたダンジョンに戻ってるんじゃないか、ルーが言ってた転生も関係してるんだろうし。あいつは準備を万端にして俺の元に来ると思うぜ」心配なんてしないセリフを返すんだ。
俺のパーティーの一人。剣士セルバス・バティハは生前夢を見つける【セルバスの流派でアベルに勝つ】という夢だ。
もちろん返り討ちにしてやったが、セルバスはあきらめなかった。自分で無理ならと、剣士の里をつくり大勢の弟子をもった、この誰かがアベルに勝てば彼女の夢は叶うからだ。
でも夢を盤石のものにしたい彼女は、ルーを頼り500年前に一度転生して腕を磨いたらしく、いくつも伝説を世界に残している。
ルーから聞いた情報だと今回セルバスは、完全な転生法を使って俺に挑んでくるだろう。
このレベルの止まった小妖精(サポート種)の体で勝てるのか?
「アベルあなたが考えていることはわかりますよ」
「そう、それしかないよな。ヴォルデウスに会いに行くか……」
俺は仲間になったカラットの面々を鍛えるオウ次郎と交代すると、アメシスを含める九魔王将を鍛え直し始めた。
アベルの三人目の仲間セルバスの登場です。セルバスはアベルと試合する気で殺す気はありません。
殺す気だったらルーはなにに変えてもアベルを守りますから。