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3話 千年前の世界と悪党の企み

 くっきりとした色とはっきりした形。

 こんなに鮮明に映ってるのに夢だとわかった。


 ゴブリン(ソンクウ)ではない俺の前世(アベル)の記憶━━━。





 千年前━━━この世界は魔族が治めていた。


 神々に反旗を翻した魔神。その魔神が戦いの中、産み出した子供。

 創造神が産んだ種族の全てが異形の怪物群と魔族により支配されていた時代。


 勇者アベルもそんな時代に生まれた一人だった。

 人間(ひと)種、エルフ、ドワーフ、有翼人その他多くの亜人種族。

 創造神とその子供()達が生み出した存在は、魔神が産み出した()()の下僕でしかなく。

 人間(ひと)の国はあれどその上に魔族の国が君臨し、同盟という名を借りた一方的な搾取がつづく。

 


 そのころの冒険者といえば国に冒険者組合(ギルド)が設けられ、パーティーを組んだりソロでクエストをこなす。


 その程度の自由は認められていたが、内容といえば知性のないモンスターを倒すだけである。


 そして魔族間の争いに戦力とスパイとして使われるだけの選択肢しかなく、

 非支配者層のストレスの発散ぐらいの役割だった。



 長い支配の中で人間(ひと)はそれが『当たり前』の事だと思うようになっていった。



「冗談じゃない!! 俺は、俺として生まれてきたんだぜ。なんで行きたいところにいけない、やりたい事ができないで、納得しないといけないんだい! 

 俺のたった一度きりの人生をどうするのかは他人が決める事じゃない。俺が決めるんだ!」



 こうして人類(子供達)には長く、神々には短い停滞していたその時代(とき)は、一人の少女の出現により、大きくゆり動かされる事になる。


 アベル・ジンジャーアップル。後の歴史に『はじまりの勇者』の名で呼ばれる小さな女の子の登場により、世界は魔族一強だった時代が終わりを告げ、様々な種族が自由に発展していく新時代へ移っていくのだった。





 深い森の中五人の男女が一つの焚き火を囲んでいる。



 この五人はパーティーを組んでおり、様々な冒険をくぐり抜けてきた。

 ようやく魔神の直の子、魔王イフマイータのいる神魔界の領土まできたのだ。


 最後の戦いを前に、かれらは森の中で疲れを癒やしていた。



「とうとうここまで来れましたね」

「そうだね。長かったよ」

「であるな。辿り着けるとは思わなんだぞ」

「然りでござる」

「感慨深いぜ」


 ルーヴァン。パーティーの魔法使いの言葉にそれぞれが答える。



「勇者アベルのもとに集いし選ばれし戦士達。後世そんなふうに言われそうですね。」

「実態は選ばれてないけどね。俺とはじめに組んだ、そこの僧侶様は誰とも組めずに壁際の机でお祈りしてるだけだったもん。戦闘の最中にもお祈りを急に始めるし、あぶれる理由もわかるぜ」


 この中でも一際小さい女性がそう言う。



「そうであるか。我輩も貴公に言いたい事が腐る程あるのだがな、今は黙って聞くとしよう」


 大柄の僧侶がそう答える。


「後衛が欲しいから魔法使いを探したんだけど、誰も組んでくれななかったよね。魔族()の連中から依頼されて魔女調査に行くと国家転覆をたくらむ無謀な馬鹿魔女がいるし。

 魔族をごまかすのに苦労したよ」

「失礼ですね、それでようやく普通のパーティーになれたんでしょう? そもそも無謀、無鉄砲は貴女ではありませんか」


 魔法使いの女はそう言った。


「その後、変な女と闘う事になったんだよ。刀十本を戦闘で使用してさ。邪道も邪道さ。剣術のいろはを知らないのか? そう思ったぜ」

「剣術ならあんたも同じだろ。

 あたしは型なんてどうでもいいんだ 。

 強ければいい。本国のやつらはそんな事もわからず体裁を気にするから、達人の壁すら越えられないんだぜ」


 ガラの悪い褐色肌の女剣士が言い返す。



「あんたは小舟で寝てたら海へ流されて帰れなくなったんだっけ? 大変でしたね」

「ちょっとー! 何で拙者だけ同情まじりなんでござるか? 恩義があっても聞き捨てならんでござるよぉ」


 この大陸では珍しい忍者を生業とする男が答える。



 このパーティーの中でも一際小さい女性。

 アベルの胸は彼らとの出会いと思い出でいっぱいだった。

 この仲間達と一緒だからこそ、ここまで来れたのだと、今のアベルなら断言できる。



「我輩からもアベルよ。言わせてもらうのである。貴公は我らを『変くくり』で言ったが特に変なのは貴公であろう?」

「然り。女性の勇者は前代未聞でござる。認められないから、わざわざ男装して冒険者登録するのはどうかと思うでござる」


「私を倒しに来た時、貴女が勇者を名乗ったあの光景は今でも忘れません。女性でしたらサブをつとめるのが常識勇者(メイン/リーダー)を名乗るなどありえませんもの」

「アベルはどうなんだよぅ。どの流派もしっくりこないから『編み出すぜ』って、よっぽど変だぜ。

 それであたしの剣を邪道ってよく言えるよな」


 さんざんな言われようだが悪い氣がしない。

 俺が組んだパーティーの仲間は皆、はぐれ者だったのだ。

 自分もそうだった。

 ギルドで登録を願った時、勇者(メイン/リーダー)を希望したが、皆に笑われた。


 理由は二つ。俺が『女だから』と、『これまで前例がなかったから』だ。



「みんなありがとう。思えば俺と組んでくれた貴方達は、俺も含めて皆、誰からも期待されないはぐれ者だった」


 四人は静かにアベルの発することばを聞いていた。



「ヴォルデウス・アツォルフ・モートン。回復役でパーティー(いち)の力持ち。その肉体の強度になんど助けられただろう。

 貴方はこの戦いが終わったら何がしたい?」

「決まっておろうが。

 我輩は信仰の自由を広めたい。【人間種】を産み出した神々への恩返しにな。もう魔神だけを信仰するなぞ、こりごりよワッハハハ―――」


「その型なき剣術。常識にとらわれない流派にあこがれさえ覚えたよ。セルバス・バティハ 貴女の夢はなんだい?」

「あんたに勝つ事さ。あたしはその後の事はあんまり考えてねーぜ。あんたについていって、それからやりたい事を探してもいいな」


「俺達が熱くなってるときも常に冷静だった。そんな貴女の判断と魔法力は間違いなくパーティーの宝だ、ルーヴァン・ベトヴィエ。 貴女の夢を聞かせてほしい。」

「この戦いが終われば私の夢はかなってますの。魔族の支配が終わりを告げこれまで押さえつけられていた人類の技術は多種多様な発展をとげるのでしょう。学校をつくり人に魔法を教えるのもいいかもしれませんね、ほら私魔法使いですから」


「タキータ・レンティロー……いや、貴方の国にならってよぼうタキタ・レンタロウ。異国の技術、知識俺達とはちがう武芸に舌をまいたもんさ。貴方はこの戦いの後はどうしたい?」

「拙者は国へ帰り見聞を書物にするでござるよ。そしていつかアベル殿、ヴォルデウス殿、セルバス殿、ルーヴァン殿の国と拙者の国が国交を結び、いつでもいけるようにしたいでござるな」


 ここにいる全員が全員。誰かに期待されているとか、元々なにかに恵まれているという様な良い環境ではなかった。

 はぐれ者の集まりが力を合わせ、歯を食いしばり研鑽を積んで、ここまでこれた。


 困難があった、多くの人に笑われた。



 今の世に夢を持つのは愚かな事だと決めつけがあった。

 ()()()()()()()()()()()()()()()()者達だからこそ、ここまでこられた結果になるのかもしれない。



「我等の夢は語った」

 

 ヴォルデウスが言う。


「人に言わせといてよぅ。自分は嫌とは言わねーよな」

 

 意地悪くセルバスがわらう。



「貴女の大丈夫さ(なんとかなるさ)の一言に何度心を助けられたでしょうか、この戦いの果てを教えてくれませんか?」

 

 ルーヴァンがやわらかい口調で問うた。



「そう言えば拙者だけ聞かせてもらってないでござるぞ、いざ語られい」

 

 そう力強く、レンタロウが続いた。



「「アベル、あなたの夢はなんだ」」


 苦楽をともにした最高の仲間達が言う。


「……俺いや。あたしの夢は……」





 そこで目が覚めた。白い肌のゴブリンが一人、ベッドに横たわっている。


 名をソンクウ・ゴウジャ。


 創造神より授けられし〈転生の秘術〉を使い、アベルが生まれ変わった姿だった。



「昔の夢を見ちまうなんて」


 起き上がると一度背筋を伸ばす。それから外へ出た。

 コボルト村からこのゴブリン村へ帰ってきて一日が経過している。


 外にはオークのオウ次郎がいた。

 この弱肉強食である世界で生きられる様にするため、アベルの剣術を教える約束をしていたのだ。


「おはよう兄貴」

「おはよう。あんたは早起きだね」


「ねぇ。約束覚えてるかな」


 覚えてるとも。剣を教える約束をしたんだよね。



 軽く朝食をすませた後、この村の広場で二人は稽古をする。

 朝から夕暮れまでみっちり続けた。

 四日程この流れが続いた時だった。俺のレベルもめちゃくちゃ上がるぜ。



「お兄ちゃんと豚のおじさん。僕達にも剣術を教えてよ」


 この村の子供達がそう言って剣術を教わりに来たのだ。

 実は最初から遠巻きに見ていた事は知っていたが、日が経つにつれその距離が詰まっていった。

 そうして、とうとう声をかけられる事になった。



「もちろんいいぜ。オウ次郎もそれでかまわないかい?」

「僕と同じ兄貴の生徒。兄弟弟子だね。嬉しい」


 

 子供達に教えていると、今度は大人が集まってくる。

 なんだかんだ俺は、村全体に剣術を教える羽目になるのだった。


 弱肉強食の世界の中で、剣術を教える者がいるのは村人達にとって、大変喜ばしい。つまり、ありがたい事だった様だ。





「しっかし、うまい計画を考えましたね。キルレインの兄貴!」

「当然よ! 俺という稀代の英雄キルレイン様は世の冒険者共が頭を使わず、あくせく苦労してるのとは違って、コスパよく名声を手に入れるのよ!」


 ゴブリン村から少し離れた砦の中で、二百人の盗賊が騒いでいる。


「コボルト村には洗脳したオークがいなくなってやした、でさぁ。探すのに少し時間はかかりましたがね、でさぁ。

 オークは今ゴブリン村に移動してます、でさぁ。それと頭、お耳に入れたいことが……」

「ほう……白いゴブリン? いいな。

 生け捕って奴隷都市に売れば一財産が築けそうだぜ。決まりだなそのゴブリン村で仕事を行う、野郎ども内容をしっかり頭に叩き込んでおけよ」


 野盗の頭は続けて言った。



「俺は、邪悪な魔物を退治した英雄となるわけだ相手は魔物だからな。構う事はねえ。オークも始末しろ!」


 

 そうオウ次郎を洗脳したこのキルレインの目的は、凶悪な魔物を討ち取り英雄(名声)を手に入れる事だった。


 凶悪な魔物ほど、その危険度がはね上がる。

 しかし命はかけたくない。でも名声はほしい。

 情けない男が出した答えが、魔物を洗脳して一芝居を打つ。なんともみっともない手段だったのである。


「三日後には出発だぜ!!」



 アベルがいるゴブリン村に危機が迫っていた。

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