56話 二人の小妖精
「よっこいしょっと」
俺は黒焦げのアメシスを応援席に運んだあと回復をかけて元に戻してやる。
見かけによらず重かったぞ、黒焦げにしたのは失敗だったかな。
意識があれば自分で帰ってこられたんだろうがな。
しばらくするとアメシスは目を覚まし回復をかけた俺に、深々と頭を下げる。
律儀な男なんだな。
「姫様の強さと敵であった私に回復をかける優しさにこのアメシス、感服しました。そしてセンセキ様申し訳ございません。私ごときでは姫様を『はかる』など無理だったようでございます」
「気にすんな、あんたが俺の立場なら同じようにしただろうさ」
俺が強いって。おまけに優しいってさ俺の顔今にやけてないだろうか。
彼くらいの強者に褒められて悪い気はしないんだなぁ。
そう思っていると妬いたガウに引き寄せられて抱きしめられた。ガウさんや、ちょっとだけ苦しいぞ。
などと思いつつもガウの行動がうれしく感じてしまう俺なのだった。
頬の肉はゆるんでるな、たぶん。
あとニャハルも「にゃあも。にゃあもマスタぁー」と身を寄せてくる、柔らかくて気持ちいいな。
センセキは立ち上がり振り返らずにアメシスにこたえる。
怒りはなく声は穏やかさに満ちていた、そして……もう正体を隠す気もないのだろう『女の声』だ。
「お前はおいらの期待に応えてくれた。やはりソンクウはソンクウじゃないようだ、いまはゆっくり休めアメシス。大会が終わった後においらが自分で確かめるようにしよう」
「「はっ」」
自分の王の言葉にセンセキの十魔王将は配下の礼をとると深々と頭を下げる。
一糸乱れぬ動きは見てる者の目を奪う洗練された動きで
俺はかっこいい。うちもあれくらいの動きにしたいな、センセキかアメシスに訓練をお願いできないかなと思った。
「匿名さん、がんばってきて。大丈夫センセキは匿名さんにけがを負わすなんてしないよ、いいね」
ガチガチの動きで舞台に上がる、とう……匿名希望に俺はそういって後押しする。
しかし動きはさらにぎくしゃくしたものになって悪化してしまった。
だめだこりゃ。
▽
「えー。試合開始なんですが、センセキ殿の仮面はいいんですけど、匿名殿のフードマントはのけてもらっていいですか。素性をすべてかくすのはルール違反です。
顔を隠すだけならいいんですけどね、マントは武器以外の反則アイテムを隠せるので駄目です。いいですね!」
マーチドッグは説明を終えてふり上げた手を下にすばやく下げる。
「それでは、最終試合はじめ」
開始と同時に匿名選手は、フードマントを投げ捨てた。
会場の観客たちよ、とくとごろうじろ! これがトウ・ダーラの秘密兵器だぜーー
センセキは対戦相手を見てその場で固まっている。苦々しく「やってくれたな。こせがれ」そう言って。
もちろん騒動は俺のいる応援席でも起きていた。
ミコットは「まじかよぉ」と、オージは「アベルはいいのか?」と、ルーヴァンは「誰です?」
……まぁルーは面識がないから仕方ないと言える。
一方でベアン、ヒト、、オウは匿名の正体を見て「「…………っ。」」絶句していた。
痛快だ! 隠してたかいがあったぜ。
「あ、あれって」
アンダルシアなんか身を乗り出して目をひらいた、驚きの表情だ。
「どうだいみんな。対魔王センセキ用の最終兵器、必ず勝利するジョーカーだぜ」
「王父様っ」
アンダルシアは叫んだ。
フードマントをとった匿名の正体は、黒髪にカラフルな瞳をもつ小人に、にた小妖精で俺の父さん。
カカマウント・ゴウジャだったのだ、当然戦う力はない。
鍛えてはいるんだが強さは最下級冒険者レベルだろう。だがトウ・ダーラが勝つ。
センセキはその場で足をあげ地面をダンと踏みつけると、ため息を深くついた。
そうとも俺は二人の仲がいいのを、一緒に暮らして見てるんだ。
母さんに父さんが傷つけられない事なんて、わかり切っている。
「まいった……おいらの負けだよ」仮面をとると、魔王センセキは正体であるトウシン・ゴウジャの素顔でいうのだった。
タイトルの二人の小妖精はソンクウ=アベルのゴブリンの父と母のことです。
ニャハルはソンクウを好きですが恋愛感情じゃないですね。
でもこの先何かがきっかけで恋愛になるかもしれません。あやうしアンダルシア!