55話 大将戦
マーチドッグの声が試合場に響く。
「さぁ残る試合も残りふたつ。この試合は注目でしょう」
グォウライ国から、紫の衣装に身を包んだ若者が舞台に上がる。
魔王センセキの懐刀とよばれる、十魔王将筆頭のアメシスが俺の相手だ。
アメシスはそつなく仕事をこなすことで知られている。
グォウライとカラットこの二つの国に敵対した国々はすべて、センセキの十魔王将に返り討ちにされているのだが
最近だとアメシス一人がかたずけているのだ。
アメシスを除いた九魔王将から彼に熱い声援がとぶ。
「アメシス負けるんじゃねえぞ」
「「そうじゃ、わしらの仇をうってくれぃ」」
仲間の信頼も厚いのがわかるな。
「……アメシスでしたか。あいつ俺より強いっすよ」
「確かに十魔王将の中であの人だけやたら魔力を感じるよね」
冷静にアメシスの力を分析するヒトに、オウ次郎が補足した。
「にゃあ。でも勝負はわかり切ってるにゃ」
「アベルはレベルカンストしているが言い換えれば、すべての技術と魔法を取り戻したと言える」
「レベルは全盛期のアップルよりは落ちるけどな、たしか生前は英雄級だったはずだぜ」
「攻撃手段が増えたいまアベルに敵はいません。相手がイフマイータならともかく、あの程度ならアベルが勝ちます」
俺とつながるニャハル。
生前の俺を知るオージ、ミコット、ルーヴァンはオウとヒトに俺が勝つと断言した。
ルーの言う通り生前の奥義と技そして、魔法を取り戻した現在なら負ける相手ではないだろう。
相手が規格外の強さをもつ神越えなら別だが、目の前の魔族程度なら俺が勝つ。
俺は確信があった。
舞台上でアメシスが話しかけてくるけど……観客の「ソンクウ」コールで全く聞こえない。
俺は仕方なく外の音を遮断する結界を張る。これでお互いの声だけ届くようになるだろう。
「姫様。我が君、センセキ様から言付かっております。ソンクウを殺してもかまわない、お前の全力でソンクウの力を試せ……と」
「センセキは復活魔法が使えるんだってな。手加減抜きでやれっていう指示か」
アメシスはコクリとうなずく。
こちらもニャハルが復活魔法を使えるから遠慮はいらないし。
あとは剣で語るとしよう、俺はミコットが打った新たな剣を抜く、同時にアメシスも構えをとると臨戦態勢に入った。
いくぜ――
▽
舞台の中央で俺とアメシスが押し合っている。
俺は剣でアメシスは魔力で強化した腕で相手を攻撃しようと、力を込める。
結果は俺の方が吹き飛ばされてしまった。
サポート種のハンデもあるんだろうが、戦闘に泣き言は通じない。配られたカードで、闘うしかないのだ。
一方で吹き飛んだ俺とは別のソンクウがアメシスの背後から、アベル流の技『風神雷神剣』でおそいかかるがアメシスに防がれてしまった。
アメシスは驚いた顔つきだ気づき始めたかな……対策しないと一気に畳みかけちまうぞ。
こっちは準備はできてるんだ。
アメシスは思う、さっき吹き飛ばしたソンクウは実体だった。
なのにうしろから幻影魔法ではない本物のソンクウが攻撃してきている。
いったいどういう――
気づくとソンクウが不用意に飛び込んでくるそれを手刀で貫く――
視界はふさがれアメシスは (しまった)と思ったがおそかった。
「う ご く な っ!!!」
貫いたソンクウと別のソンクウが印を結びアメシスに術をかける。
レンタロウから学んだ『金縛りの術』をアメシスにかけて動きを封じた。
気づくと四人のソンクウが一か所に集まり腰を落として、奥義の構えに入っている。
「レンタロウ直伝金縛りはどうだい? 動きは封じさせてもらった。後は分身の術で増やした四人のソンクウで、ダメ押しといくぜ」
ソンクウたちが剣を抜き放つとバゴンとあっさりした音が鳴り、アメシスめがけて破壊の光が駆け抜ける。
「「「合体奥義! シーラエンド! パンツァーカッロ・アルマート!!!!」」」
直撃したアメシスは焼け焦げた姿に変わるが息はあった。
手加減したからだった、殺す必要もなかったしね。
慣れたてつきで、剣を鞘に納める。
俺は外からの声を防ぐ結界を解く。すると
「「ソンクウ!! ソンクウ!! ソンクウ!! ソンクウ!! ソンクウ!!」」
俺の勝利を讃える観客の声が体に気持ちよく響いたのだった。
この大将戦が事実上の最後の試合です。次のセンセキと匿名の試合はエキシビジョンです
飼っても負けてもトウ・ダーラに影響はありませんし、ソンクウはちゃんとセンセキの正体を見抜いてセンセキに勝てる相手を当ててますよ