54話 カラットとグォウライの二大巨頭
ミコットとオーリンジの試合が始まって十分経つが互角である。
賭けは元パーティ―の仲間同士が戦うという触れ込みもあって拮抗していた。
俺はどちらにも駆けていない、賭けの元締めである俺の元には大金が転がり込むようになっているからだ。
今回集まった掛け金全体から収益となる元締めの取り分をもらい,、残りを今回の賭けの勝者に分配する仕組みである。
この仕組みは、俺が前に異世界人にきいた話で馬を競わせる『ケイバ』や、人力で進む二輪の車で速さを比べる『ケイリン』がそうらしい。
今回使わせてもらったというわけだ。
負けた方の面倒は俺が責任もって見てやるさ、儲けさせてもらったしね。
さてさて負けておからともやし生活になるのはミコットとオージのどっちだ?
小さいドワーフの娘が娘の伸長と同じサイズの大槌を振りかぶる。
「んーーやぁ!!」
かわいらしい掛け声とは裏腹に殺人的な速さでオーリンジの顔面へとふり切った。
直撃したオーリンジは舞台端まで吹き飛ばされる。
ミコットは追撃で極火魔法を口に含むと、闘氣と合わせて勢いよく口から噴射する。
そうしながらミコットは前方にいるオーリンジではなくまわりの警戒をしていた。
そしてその判断は正解だった。
前方にいるオーリンジとは別のオーリンジがミコットの死角から剣を振る。
「エワード流剛刃昇」
ミコットはその攻撃を大槌で受けとめて防ぐ。わかっていたからできた防御である。
「素直に攻撃を受けたからねぇ。ミコを幻影魔法にはめたのと、死角からの攻撃は褒めてやるよ。でもミコには通じないぜ、オージの師匠アップルがやる手段の一つだもんなぁ」
まったくだとオーリンジは思う。
お互い手の内、つまり戦闘方法と敵を倒すのにどう動くかを知り尽くしている、この戦いは長引きそうだ……。
試合が長引くにつれ会場のざわめきも大きくなってきた。
仕方ないと言えるな、なぜならば、この賭け試合だけ制限時間が設けられているからだ。
30分の短い時間なのだが理由はミコットとオーリンジの実力が近すぎて、一日でも二日でも平気で闘い続けてしまうからなのだ。
賭けの選択肢はオーリンジが勝つ、ミコットが勝つ、引き分けの三つあるけどほとんどの人が、ミコットかオージが勝つにしか賭けていないので、引き分けとなる試合終了の時間が近づいている今焦り始めたというわけである。
ちなみに俺は引き分けに賭けている! 二人の実力が近いのなんざアベルの頃からお見通しよぉ。
このままいけば大穴的中で大金持ちだぜ。
突然会場から「ミコット様勝てぇーーーー」とミコットに声援が飛ぶと
オージにも「オーリンジ様勝ってくれぇーーーー」と声援が飛んだ。
おやおや客は全財産賭けているのかなぁ。ギャンブルは息抜きや遊びでとどめておくものだ。
先の生活をかけてしまうのはギャンブルではなく破滅願望といえるだろう。
金がかかる遊びはほどほどがちょうどいいなのである。
「んやぁ、んーやっ。ふむん!!」
ミコットの矢継ぎ早の連続攻撃をオージは闘氣をこめた剣で受けたり、たまに交わしたりしながらチャンスをまっていた。
だがミコットに隙がなく、決定打となる反撃は出せなかった。
そのような中時間は過ぎていった。
そして――
「試合終了ーーー。時間切れのため引き分けとなります。」
会場中から悲鳴が上がる中で見事にこの結果を読んでいた猛者が表れる。なにをかくそう俺である。
この臨時収入はでかいぜ、ミコットとオージ……いやみんなを誘ってレッド・シュリンプ亭で豪遊しよう。
うんそうしよう。
俺はほほのゆるみが止まらなくなるのが、自分でもわかった。
▽
そんな中で引き分けを的中させて賭けに勝った人間が、ソンクウの他にいた。
そうグォウライ国王カロットである。
彼は立ち上がり、片手をあげて腹から声を絞り出しながら叫んだ。
「ミコットオーリンジ! ミコットオーリンジ!! ミコットオーリンジ~~~~!!!」
「カロット殿貴方まさか……当てたんですか?」
アンダルシアは信じられないといった表情で、自身の隣で叫ぶ中年を見る。
カロット・グォウライはスキルのないこの世界で、もしもスキルがあれば『天運』スキルをもつ男なのだ。
駆け出しの頃センセキと出会い仲間になれた幸運。王になってからも苦労らしい苦労がない幸運。
そうカロットは比類なき運をもってセンセキに並び立つラッキーマンなのである。
▽
この大会も終わりが近い。
次はこの大会の大将戦となる。そうソンクウとアメシスが戦うのだ。
ソンクウはオージとミコットに豪華な食事をおごりました。それと二人の生活費はソンクウが出してます、二人ともプラマイゼロですね。
特にミコットは国の生命線の一つに深くかかわってるので、やる気を出してもらわないといけないのです