53話 あぶれた選手の試合相手
次は5試合目だ。残す試合はこれを含めて3試合。
グォウライ国からダイヤが舞台に上がる、柔らかい態度と口調の白髪の女性である。
トウ・ダーラからは
「がんばれ」
「お任せくださいソンクウ様。その一言でアンダルシアは、百倍のバフがかかった気分です」
この国を実質運営している副王アンダルシアだ。
今回は他国の目があるために、男の姿のガウの状態で試合をする。
ガウが舞台に上がると観客たちは大きな声援を彼に送る、アンダルシアも俺同様に国民の人気が高いのがわかる。
「5試合目はじめ」
マーチドッグの開始の合図で二人は激しく剣戟を交わす。ガッ、ギィイン、キンッと何度も刃物がぶつかる音が鳴った。
あのダイヤという魔王将なかなか強いじゃないか。
「ダイヤか。つよそーだな」
「ああ、アンダルシアはスロースターターだからな。まぁ裏を返せば時間がたつ程アンダルシアが押すさ。実力はアンダルシアの方が上なんだし」
……ん? 今誰がしゃべったんだろう、すごく聞き覚えのある声だなぁ。
俺はちらりと話しかけてきた声の方角を見た。
「なんとかアップルの試合には間に合ったぜ。剣と鎧の鍛造、注文数7,000個生産完了だ」
ミコットが酒を小脇に抱えて俺の横、ONオーリンジの膝上に座っている。すごいなミコットは。
工房を注文の品だけに集中させても4日はかかると、ミコットの弟子エルフに相談されていたんだが
ミコット一人を加えただけで4日が実働5時間に短縮されたのだ。
俺は鍛冶王とよばれるミコットならではの神技をこの目で、見たことになる。
ミコットの代わりに試合に出たロンメルたちに、鍛冶王はお礼を言うと改めて俺に聞いてきた。
「なぁアップルいいかい。そこのアップルに似てる子 (ヒト三郎)が試合に出たんだろう。あぶれたオージはどうするんだい、戦う相手がいないぜ」
「そうなんだよな、ずっと考えてたんだけどちょうど相手が見つかったよ。ミコット『酒はほどほどにしておけよぅ』」
俺のことばを聞いたミコットとオージは?顔になって首をひねる。ふふふ――
▽
舞台上では徐々に実力の差が出始めている。
最初こそ互角の戦いを見せていたダイヤだが、今は一方的にやられていた。
「はぁーはぁー。やはりセンセキ様の見立てどうりですか。これでも周りの国々から畏怖の目で見られる魔王将なんですけど、はぁ トウ・ダーラの力は我々を超えるようです。」
「あなたにその気があれば、トウ・ダーラに来てください。我が国の事業に教導がありますから、いくらでもトウ・ダーラで強くなれますよ」
息を切らしながらしゃべるダイヤと息切れすらないアンダルシア、もう勝負はついていた。
だがダイヤも誇りあるセンセキの魔王将なのだ。軽々(けいけい)に負けを認めることはできず、一矢報いようとはする。
「私では逆立ちしてもガウ……アンダルシア殿には勝てないでしょう。我々【グォウライ国の意地】はアメシスに託します」
ダイヤ渾身の打ち込みをアンダルシアはこれ以上ない、絶妙のタイミングで切り捨てた。
「見事だ」「お見事」
俺とセンセキは同時に同じ感想をつぶやきうなずいてる。お互い目が合うが何も言わずに黙ったままだ。
気恥ずかしさからどちらともなくふいッと視線を外す。
舞台では敗者のダイヤにアンダルシアが手を貸しながら起こしていた。
清廉な態度と実力は俺が前世で見た名ばかりの王とは比べるべくもない、王者の風格をアンダルシア見せていたのだった。
観客からの大きな拍手が二人に送られている。
さぁ儲けるか。俺は二人の盟友を見る。その後はマーチドッグに……だなぁ。
▽
「ソンクウ様本当にいいんですか?」
「うんいいぜ。二人とも快く了承シテクレタヨ」
俺は舞台に上がるとマーチドッグに、次のスペシャル試合の選手を読み上げさせる。
「アップル~」
「あきらめろ。アベルが言うには儲けでうまいもの食わせてくれるんだと、切り替えていこう」
ごほんと咳払いをしてマーチドッグはスペシャル試合の選手を読み上げた。
「トウ・ダーラ国武器製造業最高責任者ミコット選手対トウ・ダーラ国魔王親衛隊親衛隊長オーリンジ選手は舞台へあがってください。なおこの試合は賭け試合となっております。皆様奮ってご参加ください」
「ハハハハハアハハ、いや~魔王タイセイ殿はおもしろいなぁ。これはアンダルシア殿に負けた分を取り戻すチャンスですかな?」
貴賓席ではしゃぐカロット王に、アンダルシアは「個人のギャンブルですからね。どうぞご参加くださいね」
口元に手をもっていくと、つややかにクスリと笑うのだった。
負けっぱなしなのに、勝敗は気にしてないカロット。
理由は大会が終わった後に判明します
ついでに戦争を仕掛けた理由も判明しますよ