52話 天魔の勇者
「「ソンクウ! ソンクウ! ソンクウ! ソンクウ! ソンクウ!」」
会場にいる全観客が奏でる大合唱の中かろうじて、マーチドッグの「4試合目はじめ」の声が耳に届いた。
すごい声援だぜ。
俺は応援席から「三人ともがんばれ~」と、大きな声援を送るのだった。
この声を拾ったマーチドッグが「さぁ、応援席からも我らが魔王タイセイ(ソンクウ)様の声援が、トウ・ダーラ代表選手に飛びます……ソンクウ様っ!?」
と驚きの表情で俺と目が合った。まぁそうなるよな。
舞台にいるソンクウと応援席にいるソンクウという、二人のソンクウが存在しているのだ、混乱もするだろう。
場を盛り上げるつもりで、ミラルカに〈幻影〉を使ってもらい俺に化けてもらっていたのだ。
ミラルカは「もういいよね」といって魔法を解き、本来の姿に戻っている。
これで舞台上に立つのはグォウライ国のモッガナイト、ジルコン、オニスとトウ・ダーラのオウ次郎、ヒト三郎、ミラルカの六人となった。
「油断はするなよ。センセキ様がおっしゃるには、奴らとまともに戦えるのはアメシスだけだそうだ。初めから我ら三人の力を全開でいく」
騎士風の男モッガナイトのことばにジルコンもオニスも短くうなずく。
モッガナイトの判断に異論はないということだろう。
以上のことを踏まえるとセンセキの魔王将全員がトウ・ダーラ国の力を認めて、覚悟を決めたということになる。
こうなった敵は油断がひとかけらもなくなり、強敵に変わるのを俺は経験から知っている。
がんばれよ三人とも……だとしてもトウ・ダーラの勝ちは揺るがないだろうけどね。
「はい我が君。会場で売ってるポップコーンどうぞ、おいしいですよー」
「うまい。ガウ(アンダルシア)に食わせてもらうお菓子は最高だな」
▽
一方舞台の上では、
「ヒト、危なくなったらいいなよー、すぐ加勢するからねー」
「兄貴君大丈夫だよぅ、キル君は僕とじいが鍛えたんだもん。センセキの魔王将の力は認めるけど、今のキル君の相手じゃないよね」
ふんすとドヤ顔でいうとミラルカはオウ次郎を押して、舞台の端に移動する。
3対1。相手は一騎当千の魔王将だが、それでもヒト三郎が勝つとミラルカは見たらしい。くしくも俺と同意見だ。
ヒト三郎イフマナスでのお前の修業の成果を見せてくれ。
モッガナイトが最短距離を詰めてヒトに剣を振るうも、ヒトは皮一枚の差でよけてしまう。
最小限の動きでよけたのはオニスとジルコンが、間髪入れずに左右から襲ってくるからだ。
ヒトは右のジルコンの顔先に剣を向けて動きを止めた後、左のオニスを魔法の一撃でやっつけた。
「爆ぜろ! 光魔法……」
左を倒した後は右だ。ヒトは剣を自分へ一度引き戻し「アベル流剛力火花」アベル流の火魔法を闘氣に合わせてはなつ技でジルコンをしとめた。
最後のモッガナイトは、今の攻防であっさりジルコンとオニスを倒したヒトから離れて距離をとっているが、時間の問題だろうな。
「鍛練が足りねーんだよ」
「「フローラの言う通りよ、だから人間種の若造に後れをとるのじゃ。のうアヤナ・のうガネット」」
先に敗退したフローラとアヤナとガネットがなんかほざいてる。
ただ馬鹿にしてる感じではなく、身内の悪ふざけといった感じだ。お互いに信頼があるのは想像に難くない。
モッガナイトも奥義でたおすと、三人はマーチドッグから勝ち名乗りを受けて応援席に帰ってきた。
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それにしても勇者の魔法を習得してるとはなぁ……ん? ヒトはどの魔王を倒したんだ。
俺はその事をヒトに聞いてみる。
「あぁ、ミラルカに『わざと負けて』もらったんすよ。レベルはさすがに上がりませんでしたけど、ライトーラは習得できました」
なんだってー。
その話を聞いたトーマは、驚きの顔でサンに確認の念話を飛ばしていた。
〈魔王がわざと負けたのに勇者の魔法と、資格を授けていいのかよ。神々の判断はおかしいんじゃないのか〉
〈うるさいです。相手が神越えじゃなければ神々だってズルに資格と魔法を与えたりしません。
ミラルカは穏健派と言われても怒らせると怖いんですよ。トーマが我々の立場なら断れますか!! ええ? それに魔神と戦う戦力は、多い方がいいのですぅー〉
トーマの様子を見たアリスがトーマに「トーマ氏、サンはなんて言った?」と聞くが、
トーマは「天魔皇帝が怖いから特例だって」と、なんとも歯切れが悪い答えを返すのだった。
今回はアベルの後継者ヒト三郎の成長のお披露目でした。のちに天魔皇帝の横に立つ天魔の勇者とよばれるのがヒトです。
アベルは国の後継者をアンダルシア、自分の流派の後継者をヒト三郎ともう決めてるんですね
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