48話 七勇者と対をなす存在
七勇者は神が用意した魔物の体に人間の魂をもつ人間の味方ですが、十英雄は魔神との取引で人類を裏切り魔神についた存在です。
体も細工されて七勇者と戦えるようにされていますが、在り方は七勇者とは似て非なる相いれない存在です
トウ・ダーラとグォウライ国の大会の名を借りた戦争が始まった。
第一試合はロンメル対ボルダーオで、ロンメルは長髪をさらりと流す美少女のような男だ。今回助っ人を買ってくれた。
ボルダーオは騎士然の外見と雰囲気をもった見るからに屈強な魔族である。
この試合を、観客席とは別につくられた貴賓席から見る影が二つある。
言わずと知れたアンダルシア (ドッペル)とグォウライ王カロットだ。
「我が君がこういう時にやる習わしがあるんですよ」
「ほぉ、面白そうですな内容は?」
つれたな、そう確信したアンダルシアは、口角をにやりと吊り上げるとカロットにほほえんだ。
「賭けですよ。私は我が国が勝つ方に22億ディオン賭けます」
この強気な発言にカロットは正気かと思う。
かりにカロットが負けても同盟国のカラットは魔鋼、魔石宝石の産出国であり、世界の30%のそれらはカラットで賄われている。
つまるところ、カロットはアンダルシアの言う賭けに負けても痛くはないのだ。
それなのに、この女は強気なのが気にかかる。あの十魔王将を相手に勝つ自信があるというのか。
「いいでしょう。俺はグォウライの勝ちに同額賭けますよ」
気づけばカロットは賭けを受けていた。結局のところ今回はカロットも王というより冒険者の気質が勝ったのかもしれない。
目をきらきらさせるカロット・グォウライの顔はセンセキと冒険者をしていた駆け出しのころを思い出させた。
観客席の中に第一試合の選手を見て驚いている人物がいた。サンである。
〈はわわ、えぇ~~なんでロンメルが⁉〉
予定外の三人の行動に、この状態の原因をつくったトーマへ念話を飛ばす。
『普段と少しだけ口調が違う』のはあせりからだろうか?
〈トーマ。極力アベルとの接触は禁止したはずです。
なぜトウ・ダーラ代表でロンメルが出場しているのです。こたえてください〉
〈あんたか。口調がサンじゃなくなってるぞ。俺がアベルのファンだって知ってるだろう。ただのボランティアさ。
心配しなくても、あんたとあんたの眷属たちの計画の邪魔はしないよ。魔神の消滅は神々の悲願だもんなぁ〉
〈トーマ何度でも言いますが、あなたたち三人の使命はですね〉
〈もうきるぞ。それとアベルたち七勇者を計画の駒や使い捨てと思うなら、いくらあんたでも許さない。いいな〉
サンは念話を切られた後で髪をかきむしる。
計画の中で一番危険な立場にいるのはあの三人だ。そんなことはわかってるし、この念話の時間を短くしたのもトーマなりの配慮だろう。
でもそれはそれとして、むかついたサンは売り子に大盛りポップコーンとメロンソーダを注文するのだった。
アリスはトーマに話しかける。
「トーマ氏、サンはなんて言った?」
「お小言もらったよ、サンが決めても周りの神の意見で計画がどうなるかわからんしな。安心しろよ、アリスとロンメルに危害はおよばせない」
「ん、ソレはアリスもロンメル氏も同じ思いをトーマ氏に持ってる」
心配そうに自分を覗き込むアリスの頭をトーマはなでる。
▽
舞台ではロンメル優勢で終始試合が進んでいる。この展開は意外だったようだ。
ボルダーオが勝つと思っていた観客は歓声でにぎわっている。
実際センセキの十魔王将は、この世界で知らない者がいないほど有名であり、敵対しようと思うものは考えられないと言われるように強いのだから。
ボルダーオはロンメルの攻撃から距離をとりながら思う。見た目は人間種の小娘 〈※:性別男〉なのに妙な違和感がぬぐえない。
「あなたは僕に勝てません」
距離を詰めることなくその場から物理攻撃で殴られたボルダーオはあおむけに倒れ、そのまま起き上がることはなかった。
「ごめんなさい痛くなかったですか?」
上から覗き込み優しく微笑みながら抱き起すロンメルに慈母性を見たボルダーオは、相手にならなかった自分の修行不足を思い知るのだ。
「つよいな。トーマ殿、あんたの仲間は一騎当千だな」
「「ありがとござます」」
俺の賛辞に嬉しさからか、たどたどしく感謝を言うアリスとトーマ。
しかし最後の攻撃は妙だったな。あの距離を技じゃなく物理攻撃で埋めてたおした。
腕を伸ばした? まさかな。いや違和感はその前からだ。
「我が君、何か気になる点でもあるんですか」
俺はガウのことばに「ちょっとね」とだけ返す。
そうだロンメルの違和感は人間種の姿なのに、魔物を思わせるような動きをしていたことだ。
人の体に魔物……それじゃ七勇者の真逆じゃないか。俺は舞台を降りてこちらに帰るロンメルを見る。
氣のせいだね。