42話 恩人への四人の誓い
「ヴォルデウス、バフかけを急げ! 俺の手で魔女はぶった斬る」
「もう魔力も残っておらんぞ……アベル決めろ。よいな」
「まかしておきなよ!!!」
「次で終わりにするのは私のセリフですよ……消えなさい。魔族に飼いならされる人間種ども!!」
少年に見える小柄な少女と、仲間の大柄な少年が戦っている。
相手は三角帽をかぶった少女で、見た目から魔法使いというのがわかる。
補足すると彼女の攻撃はすべて魔法だ。
次で終わらすために、彼女は最大の攻撃魔法をはなつ動作に入っている。
魔法使いの少女に対峙した少女は剣を上段へと掲げる形で構える。
一見無造作に見える姿は、勝負を捨てたわけではない。
少女の体から立ち上る闘氣の量が証明していた。
二人が言ったように次の攻撃がお互いの最期の攻撃になるだろう……。
「私は大魔法はまだ無理でも、準ずる威力が出せますよ。覚悟はいいですね」
次の瞬間━━━。
魔法使いの杖から放たれた攻撃魔法をアベルは迎え撃つ。
「アベル流攻守混合の番の二――」
▽
「おうよーだってぇ。ソンクーはやんちゃな子供だったんだねぇ」
ルーヴァンの出した過去見の魔法で、俺とヴォルデウス。
そしてルーヴァンの出会いを、彼女の自室でみんなで見ていた。
俺の黒歴史をミラルカがズバズバついてくる。
悪気がないだけに『ミラルカやめてくれ、その言葉は俺に効く』状態である。
俺はというと両手で顔をふさいで、地獄の時間がはやく終われと祈るだけさ。
ちなみに俺はルーの膝に座らされている。
「みてください! ここで私を倒したアベルが、手を差し伸べてくるんです。ねぇ、アベルはかっこいいですよ」
「激しく同意ですね。我が君の魅力は凛としたかっこよさと、あどけなさが残る外見。つまり可愛さが融合してるところです!」
ルーヴァンとアンダルシアは興奮から語氣が強くなっている。
この時間早く終わらないかな。
「にゃあ。マスターが、全体的に攻撃的な感じにゃ。しゃべり方も態度も、今のマスターをしってるニャアからすると変だにゃ」
「この時の俺は11歳の子供だからさ、ヴォルデウスは13歳。ルーヴァンは12歳だしさ。みんな若かったんだよぅ。
たぶん、アベルちゃんは強がりたいとしごろだったんだよ。俺のことだけど」
獣人に戻ったニャハルは、俺の肩に体重を預けながら質問するが、俺は他人事のように答えるのだった。
「ここ! アベルの面倒見の良さが出ています!!」
「むご~」
ルーが映像を指さすために前に乗り出したせいで、俺の頭が胸に埋もれる。
柔らかいし、いい匂いがするが俺が次に思ったことは息ができない。
おっぱいに殺されるだった。
さいわい、アンダルシアが助けてくれたおかげで何事もなかった。
訂正アンダルシアとルーが、たがいを見て微笑んでるんだけどその笑顔が怖い。
何なんだい?
「女の戦いだな」
ミコットはそう言うと、ルーからもらった酒を一口飲む。
「アベル記憶を見せてくれます? 神が用意した〈転生の秘術〉が知りたいです」
俺は「いいよ」といい、後はルーに任せる。
過去見の魔法の応用で、他人の記憶を除くこともできるんだ。
変わらないねルーヴァンは……。千年前もいろんな魔法をかき集めていたよね。
「これで四人の誓いが完全なものになります」
ルーヴァンの小声でつぶやいた内容は俺の耳には届かなかった。
後々で知ったが、俺の夢を仲間たちがバックアップする宣言は、元々『四人の誓い』が発端らしく自然とできていたらしい。
▽
「魔王を倒して自由となった世界で我らの夢が叶った。
しかし一番の功労者であるアベルの夢だけ叶っておらんではないか、これはいかん。いかんである」
「人間種の寿命は短いです、転生の秘術は私が何とかします」
「アベルも面倒見がいいのはいいけどよぉ、自分を優先してほしいぜ」
「拙者もバックアップに異存はないでござる。アベル殿のおかげで我らの夢は叶った。
他の誰にも『自由のために魔王を倒す』なんて発想はできんでござるから……。アベル殿は、仲間であると同時に拙者たちの恩人でござる。
恩には恩で報いるのが、拙者の国の教えゆえ」
アベルの最初のパーティーのヴォルデウス、ルーヴァン、セルバス、レンタロウは誓いをたてる。
アベルが聞けば、余計なことはしなくていいと、反対されるかもしれない。
だからアベルを除く仲間たちは四人だけで、恩人の夢が叶うまで助けになると決めた。
そして四人の誓いは、アベルが組むすべての仲間が共有することになった。
これが現在の……転生したアベルの夢をバックアップする仲間たちを形作ったのである。
▽
ルーヴァンは俺の国にきてゲートをつくる話を了承してくれた。
あと魔法学園と俺の国にゲートを通す話もかまわないそうだ。
ルーは本来なら上にもっていかなくてはいけないが、上というのはヴォルデウスなので嫌とは言わないだろうという。
魔法学園は国立で、運営費用はすべてヴォルデウスの、神聖豊国パラディーゾが出しているのだ。
まぁ確かにアイツなら「アベルよ、素晴らしいではないか。面白そうなことならどんどんやれ」といいそうだな。
俺とルーヴァンは二人で笑うのだった。
「話も決まったことだし、みんなで乾杯しよーぜ」
「僕あまいお酒がいいー」
ほろ酔いのミコットにミラルカが続く。
そうだね、ここでの用事も済ませたし。
祝杯でもあげてから帰ろうか……と思う矢先、ルーヴァンが口を開く。
「アベル私からも依頼していいですか? 実は学園で妙な出来事が続発してまして、昔のよしみで解決してもらいたいのです」
「俺に頼らなくてもルーなら一人で解決できるだろ? いやだよ。
俺にできることは最初の仲間は、できるじゃないか。ルーは楽したいだけでしょ?」
俺の発言にニャハル達が驚いてる。
まぁ困った人を助けるのが俺の基本スタンスなのに断るったのだから当然か。
でも俺が言ったようにルーは俺と同格で、言い換えれば助ける必要がない。
俺が助けるのは自分では事件を解決できない人ばかりである。
説明を聞いてアンダルシア、ニャハル、ミラルカはなるほど、とうなずいた。
「ただではありませんよ、カヌレを焼いてあげます。アベルは私のカヌレを久しぶりに食べてみたくはないですか」
「早く言いなよ、助けましょうとも」
さすがに俺の扱いを心得てるな。
いや、かつての仲間が困っているんだ。見過ごしちゃいけないよね。
俺たちはルーヴァンの焼いたカヌレをほおばりながら、学園に潜入する準備にかかる。
千年前ルーヴァンは魔族の国を落とそうとしますが、ギルドを通した魔族の命令でアベルとヴォルデウスに討伐されました。
アベルは夢をかなえるために魔王を倒して自由な世界をつくるという発想をもちます。これはアベルだけの発想で支配になれた人々には想像もできなかったんですね。
今日の人間が夢をもてるのはアベルのおかげで、仲間はアベルを仲間であると同時に恩人と思ってるんです
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