1話 白いゴブリン〈アベル・ジンジャーアップル〉
こんにちはアベルです。ゴブリンに転生してはや三か月がたちました。
どこが技術知識を次の生に受け継ぐがよいだよ。神様さぁ。
「思いっきり元の姿と違うじゃないかい!」
そう悪態の一つもつきたくなる。
俺が神々より伝授された転生術は、いまだ【人間種】では届かぬ領域にある。秘術と呼べるものだった。
普通の魔法使いが、何百年も〈転生〉の研鑽を積んでも届かない。
そういう代物なのだ。
それがいきなり個人の、しかも魔法使いでない人間がパラメーターを全て次生に持ち越せるというのだから、凄さがわかるぜ。
でも失敗したんだよね。
俺が転生したゴブリンの体なのだが、
記憶よし、技術よし〈※:レベルが持ち越せなかったせいで、使えないのだが技と経験は覚えてる〉、知識よし、
自分が何者でどこにいるのか大まかな町や乗り物の知識どこに行けば何があるのかも覚えている。
生前のレベルは持ち越せなかったのは残念だぜ。
今の俺は並みのゴブリンよりまあ少し強いなぐらいのレベルでしかないのだ。
それに生まれた時からアベルの記憶があったわけじゃない。
前世の記憶が十歳を迎えた時、唐突に蘇ったのだ。
【戦える年齢になった。お前のなすべきことをなせ。】そう、せっつかれてるかのようだね。
「ソンクウ、お前の剣の腕はなかなかだな。母さんが出稼ぎに行ってる間もこうして狩りができるとおもわなかったよ。」
優しげにゴブリンが俺に話しかけてくる。名前はカカマウントでいま名を呼ばれるソンクウ。つまり俺の父だ。
「ありがとう、父さんがついて来なくて良かったんだぜ。
俺一人で狩りはできるし……父さんには別の仕事があるんだしさ。そっちを優先してくれないかい?」
「冗談じゃない! 父さんは、お前に何かあればどうにかなってしまう」
過保護だぜ。
この体になったとき生前はゴブリンなんて弱い魔物の認識でしかなかったが。
自分がゴブリンの生活に入り込むと何も知らなかった事が判明した。
人間種がコミュニティを持ち文化を持つように、魔物にも独自の文化があるのだ。
三か月の暮らしの中でわかった事、一つは俺が暮らす東のゴブリン村だが、国の大きさでいえば小魔界のはずれにある。
魔界とは魔族が治める領土の事で基本的には魔族と魔物が暮らしている。
領土の広さにより大魔界や小魔界で呼ばれるのだ、なかには魔族本国の神魔界なんかがある。
国なので当然、税がある。魔王に金や食料そして魔力といった変わったモノを献上する。
これは人間種の国では見られない。魔族ならではと言う感じだぜ。
最後に、意外なんだが、それなりに平和だという事だ。
隣国に人間種の大国がある立地だが、国交があるらしく、
俺はこの3か月間レベルを上げながら、今のこの世界の情報を集められた。
ただ神様がおっしゃる使者は、待ってもあらわれなかった。
「俺から行動を起こすべきか?」
そう独り言をつぶやいた時だった。父さんが口を開く。
「何時だったか私に強い魔物はいないかと、聞いただろう? 西のコボルト村でオークを捕らえたらしい。どうだい? 興味があるなら行ってみなよ」
オーク、豚頭巨躯をもつ魔物の一種でゴブリンより全然強い魔物だぜ。とても興味がわいた。
かつての強さ(レベル)を取り戻す相手には丁度いいかもしれない。贅沢言える状況じゃないし。
「ありがとう父さん、ちょっと行って見てくるよ。」
「安心しなさい。この私もちゃんと同行す……」
「いいよ、ついて来なくて。俺一人で行くよ。」
父よ、あしでまといなのだ。
むねが脈打つ。
俺がめざすのは、小魔界西のコボルト村。神々の使者が来る前に最初の目的は決まったのだった。
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